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5甘重ネジ
どういう関係ですか?①
しおりを挟む小野寺と付き合いだして、甘重な日々が過ぎていた。
昨日の朝は結局は甘く言いくるめられる攻防戦を繰り広げ、寝不足解消のため夜に会うことをなんとか阻止し、しっかり睡眠をとることを約束しての今朝。
現在、朝の八時。一日一緒に過ごすと約束をしていても具体的にどこで何をとは決めていない。
いつもならとっくに小野寺からおはようのメールなり、今日の予定なりの連絡が来ているはずなのに何もない。
どこに行くかで服装も変わるし、化粧だってしなければならない。そろそろ何時から会うのか見当をつけたいところ。
起こすのも忍びないけれど、『おはようございます。しっかり睡眠をとれたでしょうか? 今日は何時に出かけますか?』と打ち、慌てて『おはよう。ゆっくり寝れた? 今日は何時から会う?』と訂正し直したメールを送った。
メールを打つのも少しだけ気を遣う。
距離を縮めたいと言う相手に千幸も応えたいのだけど、打ち直した文面を見ても違和感を覚える。気安くするには、もう少し時間がかかりそうだ。
それから一時間経っても返信はなく、千幸はうう~んと首を捻った。
覚悟しろよと言われた土曜日の朝。まさか初っ端からこんな感じになるとは考えもしなかった。
ただ疲れて眠っている可能性もあるが、一日デートと宣言していてる小野寺が時間を昼からに指定するとは思えない。
もし目覚ましにも気づかず寝過ごしたとなれば、がっかりする姿も目に浮かぶ。
さすがにそれは不憫だと千幸は立ち上がった。
電話してもいいのだけど、隣なのだからインターホンを押して様子窺いをするほうが確実だ。
そういうのが許される関係でもあるので、千幸なりの一歩として行動してみるのもいいだろう。
よくよく考えると自ら小野寺に関わりにいくのは初めてだ。
隣に住んでいて、インターホンを押すだけのことにわずかに緊張する。
手を伸ばしインターホンを押そうかという時、勢いよく目の前のドアががちゃりと開きわずかに身体を避ける。
「…………っ」
心臓に悪いと胸を押さえて固まっている間に聞こえる声。
「翔、泊めてくれてありがとう」
「ああ」
聞き覚えのあるその声の後、眠そうな小野寺の声がする。
あれっと一歩前に出ると、小野寺の友人である桜田弥生と目が合った。
「…………」
「…………」
互いに無言で見つめ合い、千幸が状況に思考が追いつかないなか、桜田はしまったというような顔をした。
それを見てようやくこれは相手にとってまずい状況であり、千幸にも関わることなのだとぼんやりと思う。
バッチリメイクをしてはいるがその手には大きめの鞄も持っていて、さっき泊めてくれてと言っていたのでお泊まりしたのは確実だ。
──ということは、朝帰り?
「その、これはっ」
慌てて告げる桜田に、どこか非現実的なまま千幸は挨拶をした。
「おはようございます」
「おはよう……」
困惑気味に返す桜田の後ろで、「どうした?」と小野寺の声がする。
気配が近づくなか、桜田がぼそぼそと小野寺に対して説明する。
「えっと、千幸ちゃんが……」
「千幸?」
「あっ、翔、ばかっ。待て」
鞄を床に落とし、慌てて引き止めようとする桜田を押しのけるように出てきたのは上半身裸の小野寺だ。
「何で止める?」
「いや、状況考えて」
「はっ? 千幸がいてなぜ俺が顔を出したらいけない?」
「だ~か~ら~」
目の前で言い合う二人の様子に、千幸はどう考えていいのかわからず一歩下がった。
──何を見せられているのだろうか?
決定的というわけではない。でも、上半身裸で桜田はお泊まり。
彼女は家がすぐそこだというのに。何より二人の距離のないやり取りが見ていられなかった。
「あの、私は出直しますね?」
こういう時に、あまり取り乱せない。
状況についていけず、一度自分のテリトリーに戻り整理したい。
「それはもっとダメ」
小野寺と言い合っていた桜田が、くわっと目を見開いてそう叫ぶ。
迫力美人がそうすると威圧感がであり、さらなる迫力に千幸は上半身を後ろへとやった。
「えっ、でも」
引き止められることは何かしら説明がある、説明ができるということなのだとわかりほっとはするものの、二人の押し問答は続いており千幸はそこで黙り込む。
目の前で桜田は千幸を引き止める動作をしながら、小野寺を睨みつけ思いっきり小野寺を貶していた。
「翔って、ばか? ばかなの?」
「はっ?」
「ばかばかすぎない? その脳はカチンコチンに千幸ちゃん仕様にコーティングされてるみたいだけど、ちょっと普通にこの状況考えなよ」
「意味がわからない。俺に会いにきたであろう千幸がいるのに何で俺が出たらダメなんだ? 俺とお前の間に何もないのは当たり前だが、もし何か誤解が生じているのなら早く説明する必要もある」
「確かにそうなのだけど」
そこでちらりと桜田が千幸を見た。
表情はかすかに曇り、迷いみたいなものが見える。
――これって、もしかして弥生さんは翔さんを好きだということ?
言葉で肯定しながら迷う素振りを見ると、その可能性が浮かび、そう思うと苦しくなった。
ここにいてはいけない、いたくないと思った。
小野寺の恋路を、つまりは自分とくっつくことを応援する女性という認識であったが、違うのなら意味が変わってくる。
お泊まりしたというのなら、その意味もまた変わってくる。
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