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6緩甘ネジ
長い時間の真相 side桜田①
しおりを挟む小野寺が枝豆飛ばしと互いに食べさせ合うという願いが叶い、弾ける笑顔と垂れ流しのフェロモンで千幸との時間を満喫しているその日の夜。
桜田弥生、あらため桜田弥生之助は高校の同級生である山際健二、その彼の友人である柊智史、そして小野寺を通して知り合った轟邦彦ととあるバーにいた。
「かんぱ~い」
グラスの音がコンッ、カツッと合わさり、各々グラスに口をつけた。
このメンバーは小野寺のあれこれに関わっているメンツであり、やっと解放の兆しが見えて急遽お疲れ会をしようと集まった。
各々好きな酒を頼み乾杯すると、涼しい顔をしてギムレットを飲んでいる轟に視線をやる。
「最近はどうなの?」
「仕事は驚くほど順調だな。これも藤宮千幸のおかげだ」
いつもはスーツをバシッと決め、しわ一つない真っ白なシャツが眩しくできる男という出で立ちであるが、今日は黒のスキニーパンツにブルーグリーンのサマーニットとラフな姿だ。
眼鏡も黒縁ではなく金のフレームに変え、いつもより受ける印象は柔らかい。
涼しげな一重の瞳はいつも冷静に物事を見ており、顔色一つ変えない彼は淡々とそう告げた。
ちなみに今夜の桜田は女性モードである。
轟と健二だけなら男の姿でもよかったが、もう一人の男、柊は桜田の姿の自分を知らないのでなんとなく言い出せないまま女装していた。
「すごいわね。千幸ちゃん効果。一時期はどうなるかと思ったけど」
「ああ。多少強引に進めてよかった。滅多打ちの失恋になる可能性のほうが高かったからな」
「まあ。それはそれで仕方がないと思って動いたことだから。あのままよくわからない状態でいられるよりは、どっちに転んでもって感じだったし」
「そうだな。そう思うとあの状態からここまでうまくいってよかったよ」
轟が眦をわずかに緩めながらそう告げると、そこで健二がからからと笑い、机の上を指で楽しげに叩く。
「今の翔は面白いよな。プリンスからキングと呼ばれ、成功の道を驀進中の男とは思えないくらい一人の女性に振り回されてるし」
その言葉に、桜田と轟は視線を合わせて肩を竦めた。
すると、健二がさらに面白そうにははっと笑う。お酒があまり強くない彼は、一杯目ですでにテンションが上がり出来上がりつつあるようだ。
弱いのに飲みたがる。悪酔いはしないが、友人のお酒は薄めにしてもらい量は気をつけなければと思いながら、桜田は恨めしげに健二を見た。
「なに、なに? その反応?」
「健くんは引越し騒動からだったから面白いが勝るかもだけどさ。前も話したことがあったと思うけど、それまでは本当に苦労したんだから。あのすっごくもどかしい疲れ方は二度とごめんだわ」
「そう言われても、面白いところしか知らないし」
「桜田の言う通りだ。なんかすごく疲れたよな。長いというか、意味がわからないというか、とにかく小野寺の状態はひどすぎた」
同意する轟は、疲れたと言いながら相変わらず涼しげに物事を語る。
小野寺の腹心、参謀と呼ばれる彼はそうそう隙を見せない男だ。
「うん。長かった日々も今となってはほんのちょっぴり懐かしさもでてきたわよね。何より報われた今、晴れて私たちもすっきりよ。はぁい、もう一度乾杯~!」
「飲み過ぎるなよ」
そう言いながら二杯目を注文している轟に乗っかって、桜田も同じように頼む。
「いや、今日は飲むでしょう?」
「飲むのはいいが、羽目を外すなよ。特に山際は」
「ええ~。ま、なるようになるっしょ」
「別にいいじゃない。こうして集まるのもたまにしかないんだし。でも、健くんは強くないからくれぐれも楽しい範囲でね。とにかく、いろいろあったけど上手くまとまったしこの満ち足りた気分を分かち合いましょ」
桜田の宣言に、当日、運転手やら駆り出された轟はそこで目を細めた。
「そう言えば、あの日の小野寺はすごく緊張していたな。バーに着くまで何回か大事にしているハンカチ握ってブツブツ言っていた」
「例の?」
「それしかないだろう」
「ええ、なにそれ?」
健二が食いつき、横で智史も「何ですか?」と聞いてきたので軽く説明をする。
「千幸ちゃんとの接点となるハンカチ。翔はそれをずっと大事に持ってるのよね」
「それしか接点がなかったからな。当時は気づかなかったが、大事な決断前に何か眺めているなとは思っていたがそれだったんだろうな」
知っていたけど、翔の想いは重い。
「わぁお。そこまでくると純愛よね。ただ、知識や財力や経験のある大人だから、純粋な純愛とはどこか違ってるけど、気持ちは真っ新って感じ」
「…………それにはコメントしかねる。とにかくあの日はどう転ぶかわからなかったし、それにすがりたくもなったんだろう。まあ、あの長い時間を思えばそれくらい些細なものだ」
「千幸ちゃんに関する翔っていったら、やっぱりあの長~い時間よねぇ」
轟と共闘した『あの長い時間』というだけで、独特の気持ちになりふぅっと息を吐き出した。
落ち着くところに落ち着いたのでほっとしているが、いまだに理解に苦しむあの時間が強烈で忘れられない。
自分たちの奮闘記を思い出し、桜田は新たに置かれたジンフィズに口をつけた。
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