ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

文字の大きさ
104 / 143
6緩甘ネジ

あなたの色なら⑥

しおりを挟む
 
「俺は千幸が好きだ」
「……えっと、私も好きです」

 いつでもふいに直球がくる。
 それに困りながらも、今日の雰囲気を壊したくなくて、千幸も照れながらその言葉を返した。

「うん。千幸が好きだと言ってくれたら、この瞳も好きになれる」
「そうですか……。その、翔さん」

「何? 千幸」
「さっきのは翔さん自身があまり好きではない瞳の色に似ていると言われて、茶碗を眺めていたということですか?」

 うん? 確認のために口に出してみたが意味がわからない。凝視に繋がる理由にはならないというか。
 軽く首を傾げると、小野寺がふっと笑う。

「ああ。嬉しいけれど、この瞳の色はあまりいい思い出はなかったから少し複雑だっただけだ。でも、千幸が俺の瞳に似ているからと言って気に入ったといった茶碗。ニヤけるほど嬉しいが、これは嫉妬していいのかどうなのかを悩んでいた」

 ――……はっ?

 照れ隠しのようなそれに目を奪われる前に、放たれる言葉に耳を疑う。

「ちょっと意味がわからないのですが」

 ──えっ? 何に嫉妬って?

 説明プリーズと小野寺を見ると、今度は真顔で頷く。

 ──……どんな情緒?

 どんな気持ちで話を聞いていいのかわからず混乱する千幸に、小野寺が口を開く。

「だって、この茶碗はここに置くのだろう?」
「そうですね」
「だったら、俺の瞳の色よりこっちの色を気に入ったら困るじゃないか」
「いや、本当に何が言いたいのかわからないです」

 真剣な顔でそう告げる恋人の思考が本気でわからない。今度はこちらが凝視する番になった。
 すると、小野寺はふっと口角を上げてやけに色っぽい笑みを浮かべる。

「わかるだろ? せっかく千幸が好きだと言ってくれた瞳の色なのに、それに似た茶碗の色のほうが気に入ってしまったら悔しい」
「それで茶碗を見つめていたと?」
「そうだ」

 当たり前だろと大きく頷く小野寺に、千幸は嘆息する。
 いや、本当に思考回路どうなってるの?

「理由を聞いても理解できないんですが」

 しかも、そこでなぜ色気を出すのかわからない。
 つくづく反応が読めない相手に、千幸はややこしくなった元凶の茶碗を見つめる。
 綺麗な色。あるようでない色味。それを食卓に出すことを想像して、楽しくなった。なのに、

 ──おかしいくない? 気に入った茶碗を買っただけでこんな話になるなんておかしすぎるっ!!

 こちらの戸惑いを知らず、小野寺は俺の瞳を見てと千幸を訴えるようにじっと見つめてくる。

「ええー? 嬉しいのに心配なこの気持ち。俺の中は細胞レベルどこもかしこも千幸で染まっているのに、千幸が染めておいて本人無自覚とかずるいな。この複雑な気分はどうやったらわかってもらえる?」
「もう十分に複雑なのはわかったので、これ以上この話しても平行線です。翔さんは私が瞳の色を気に入っていることを理解していただくだけでいいので、もう余計なことは考えないでください」

 そう告げると、「ふ~ん。千幸は俺のが」と呟きそこで黙り込んだ。
 俺のが、で意味深に止める。わざとだろうか?
 はあ、ともう一度茶碗を眺めまたちらりと見れば、口角を吊り上げるように笑んでこちらを見ている小野寺と視線が合う。

「ほかには?」
「ほか?」
「俺のどこが好き?」
「……調子乗ってます?」

 そう聞いてみたが、どこか真剣な眼差しは救いを求めているようにも見えて、千幸はふと沈思した。
 デートの時も考えていたことがまた浮上する。

 自分たちの互いに向ける感情の『差』は一度埋まるように見えた。境目がなくなっていくのではと思えた。
 ちぐはぐでなかなか絡み合わなかったそれが、少し絡み合い出した気がした。
 なのに、また今はもどかしさを感じる。

 ──この正体は一体なに?

「ただ、俺は、千幸が俺のものだと実感したい」
「付き合ってるじゃないですか」

 少しずつ向き合っている。大事に思っていることも伝えた。それはちゃんと伝わっているはずだ。
 そういうことがわからない相手ではないはずで、問題はそれを小野寺もわかっていて不安になっているということ。

 そして、付き合っているからにはそうなるのは互いの問題であり、千幸もこのもどかしさから抜け出したい。
 何をどう言えば、どうすれば、この『あと一歩』みたいな現状から互いに近くに感じることができるのだろうか。

「そうだな。でも、足りない」
「……足りないって?」
「千幸を好きになればなるほど、身近に感じれば感じるほど無性に囲いたくなる」

 うっ、囲うってちょっと怪しげ発言だ。
 そこは流すとして、さっきの茶碗を眺めるとか奇異な行動に繋がったり? わからないが、考え方が独特なので解きほぐすには時間がかかりそうだ。

「……はあぁぁぁ~」

 千幸はおもむろに溜め息をついた。
 自信のある人であるが、卑下しているわけではないけれどこと千幸に対してどうしてこんなに慎重なのか。
 きっと変だけど察しがいい小野寺のことだから、ある程度の原因は自分で突き詰めているはずだ。

「それはどうしてって聞いても?」

 そもそも小野寺はモテるのだ。社会的にも容姿的にもこれで異性にモテないわけはない。
 囲いたいと言っているが、どちらが異性からのアピールの場の多さを心配しなければならないかは一目瞭然。

 気持ちも伝え合っている。向き合い進み出す先も見えつつある。
 なのに、どうしてそんなに必死なのか?

 こくっと小野寺の喉が上下した。
 恋人が口を開くのを千幸は静かに待った。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...