ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

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6緩甘ネジ

ポンコツなイケメン⑤

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「千幸」
「……翔さん」

 名前を呼び返すと、小野寺のよすぎる顔が嬉しそうに崩れる。
 名前を呼ぶだけでそんな顔をされては、こみ上げる愛しさがこちらも顔に出てしまいそうだ。

 ああ~、すっごい色ボケカップル。
 まさか自分がである。それが恥ずかしいのと嬉しいのと、もううわぁぁと叫び出したい。

「うん。いつでも千幸の気持ちが整ったらでいいから」

 そう言って、きゅっと握られたままの手を鍵ごとぎゅっと力を込められる。
 そのまま立ち上がり膝をつくと、うやうやしく千幸の手の甲にキスを落とした。
 その流れる動作が自然で似合う容姿を持つ恋人は、そのままちらりと上目遣いで期待の眼差しを向けてくる。

「わかりました。……鍵、ありがとうございます」

 そう返すとくすりと笑われ、それに視線だけで何? と見れば、ぱっと満面の笑みを浮かべて嬉々として確認される。

「さあ、ということで今日はもう一つの家を案内したい。来てくれる?」
「ゆくゆくなので、ゆっくりでいいのでは?」

 さっきこちらの気持ちを待つ的なこと言っていたのどこの誰?
 舌の根もかわかにうちにぐいぐい押してくる。

「少しでもその気になるようにプレゼンしたい。それに見ればイメージしやすくなるだろう? それに鍵の実感もしてほしいし、やっぱり使ってほしい。何より、俺が来てほしい」

 そう言って、抱き上げようとする相手を慌てて静止する。

「ちょっ」

 ふわっとする浮遊感に、思わず小野寺の首にしがみついた。
 静止は間に合わず、いわゆるお姫様抱っこされ、その上抱きついた形になった自分の腕をどうすればいいものか。

 結局うろうろと手を動かしくいっと襟元を引っ張り、自分で歩けますという意思表示をする。
 学生の頃ならまだしも、社会人になってお姫様だっことか恥ずかしくて顔も見れない。

「落とさないから」

 そういう問題ではないんです!

 熱っぽい吐息とともに額にキスを落とされる。
 どこまでも甘々王子の恋人は羞恥心というものはないらしい。

 というか、もしかしてこちらが考える以上に小野寺はテンション上がってるのではないだろうか。
 ここまでトントンと事を進めるのは今までと同じようでいてどこか違う。

 今まで強引だったが、まだ様子を見られている感じがあった。
 だけど、今日はその上でさらに一歩進めている感じだ。強いて言えば遠慮がなくなった。
 だが、それを確認する余裕はない。小野寺はプッシュプッシュとばかりに勝手に進めていく。

「少しでも早く千幸の気持ちが動いてほしいから行こう! あとは昨日無理をさせたから身体はつらいだろ? 抱っこして連れてくから千幸は目と耳だけ動かしてくれたらいいよ」

 ちっっ、がぁ~~う! 気を遣うとこそこではありませんから。

 腰だるいなって思っていることもバレていて、無理させたと思うくらい激しく貪った自覚のある相手に何を言えばいいのだろうか?
 何もかもが慣れない。
 スキンシップが多いし、大事に扱われているけど強引で。

 あわあわとしている間に、あっという間に外へと連れ出された。
 そしてタイミング悪く出会う人物。

 同じ階の住人で、小野寺の友人である桜田弥生、之介さん。まだ、之介には慣れない。女性姿ならなおさらである。
 朝帰りだったのか、エレベーターから降りてきた相手とバッチリ視線が合う。

「あっ」
「あっ!……ふっ……ぶっ、くくっ。何してんの~?」

 バチッと合った視線に同時に発した「あっ」であったが、その後徐々に進化する反応のまま、桜田はこちらへ足を向ける。
 それを見た小野寺が嫌そうに眉をしかめ、素早く隣に入ろうとしたがそれを桜田が制する。
 笑いが止まらないとばかりに、ニヤニヤと楽しげな声が続く。

「ちょぉ~っと、そこの翔もどきの人、ストップしましょうかぁ?」

 もどき?

「ちっ」
「いや、舌打ちしてダメだからね。もどきの人は説明義務あるからね。千幸ちゃん拉致ってますって不審者扱いで通報しましょうか?」

 それは冗談でもやめてほしい。
 鬼の首捕ったとばかりに楽しそうな桜田の声に、千幸は不安になって小野寺を見た。
 小野寺はふんと鼻を鳴らし、ぎゅっと千幸を抱いている手に力を入れた。

「何もやましいことはしてない」
「抱っこして隣に連れてくのに? 隣に連れてくのに抱っこって一体なにしでかしたの?」
「可愛がっただけだ」
「…………」
「…………」

 その言葉の意味を理解すると、かぁぁっと顔が熱くなった。

 ──いや、本当、何を言ってくれてるんですかね?

 絶対、今顔赤いよね。ここで反応すると肯定していることになるのだが止めれない。

「ほんと、もどきの人は何を言ってるのかな?」
「なんだ? さっきからもどきって。恋人の俺が千幸を可愛がって何が悪い? やっと許されたんだぞ? これでも自重したほうだ。ただ、やっぱり疲れさせたことに変わりないからこうして少しでも楽になるように抱っこしている」

 千幸は今すぐ顔を隠したくなった。

 ──わっ、わぁぁぁぁ!!!! 何言ってくれてるんですか。ホント。

 両手が千幸を抱っこしていてふさがっているからか、顎でよしよしとばかりに擦り付けられてる。
 それを見た桜田の反応はというと、目がこぼれ落ちんばかりにびっくりしていて、開いた口ははくはくと動かし驚きで言葉をなくしている様子。

 もう、本当にすみません。代わりにお詫びを申し上げます。
 友人のそういった性生活を当事者である恋人がいる前で話されてどう反応していいいかわかりませんよね?
 そして、私も言葉がありません。

 しれっとそんなことを恥ずかしげもなく言われ、本人はなんら違和感を覚えていないという。
 もう、ドアの前で何してるのだろうか。

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