ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

文字の大きさ
115 / 143
6緩甘ネジ

ポンコツなイケメン④

しおりを挟む
 
「なら、いい?」
「……っ悪くはないですが、そんなに焦らなくてもいいとは」
「焦ってるわけではないけど、俺の癒やしのために千幸がそばにいてほしい。隣にいてほしい。知れば知るほど、もっと知りたい。少しでも長く一緒にいたい。俺が思っていたよりも考えていたよりも、俺は千幸が欲しいってわかったから」

 ドヤッと誇らしげに告げられる。
 魅惑的な瞳が自信満々に千幸だけを映す。

 説明してくれるのだが、次から次へと出てくる新事実と一緒に住む未来しか考えていないだろう言葉の数々に、これはどこから切り崩すべきかと考える。
 小野寺は小野寺であることをものすごく実感。
 当初のマンションの隣から始まり、出待ちなどをいろいろ思い出し、この展開もらしいといえばらしいと納得。

 強引で、それを許されるものを持っていて、そこに気持ちもあって。
 千幸への想いがあるのを知っているから、困る。

 んーっと難しい顔をしていると、眉尻を下げて小野寺が覗き込んでくる。
 それでいて、どこか楽しげな色を滲ませた低音で提案してきた。

「今すぐとは言わない。でも、ゆくゆくは、ね?」

 訴える作戦に出た小野寺は、千幸の手を掴むとそっとその上に二つのキーを置き握りしめてきた。
 その小さな重みが、自分たちの未来を告げる。
 受け取ってしまったら、きっと小野寺が言うようにゆくゆくはそうなるのだろう。

 ──ああ、ダメだ。また流されてしまう……

 流されてしまうことが心地よいと思ってしまっている。
 小野寺から向けられる思慕がしっかり伝わり、それを受け止めたいと心が言っている。
 それに付け加えるなら、隣も一緒に住むのももう変わらないのかなっと。食事はたまに一緒にしてたし……、と。

 情動感染。
 それでもいいと思える相手だから、気持ちが動く。

 前彼との同姓は、こういった気持ちとは別に千幸にもちょっと打算的な都合があった。遊川は千幸の都合を知った上で、誘ってくれた。
 それに甘えたずるい自分も理解しているからこそ、小野寺とは踏みこみ方が違う分、しっかりと気持ちが乗った時に動きたい。

 流されたいけど、ここまで想ってくれている相手だからこそ気持ちをもっと乗せて返したい。
 必死な小野寺と自分の思考に耐え切れず、千幸はふっと吹き出した。

「……そうですね。ゆくゆくでいいのなら」

 こんなにも度々甘くなる空気は本当は恥ずかしい。
 それに自分が甘えたように告げていることは憤死ものだったりする。恥ずかしさで首元にじわっと熱気がこもる。

 けど、それで幸せそうに擦り寄り微笑む恋人の姿を見せられたら、もう、いいかと思ってしまう。
 本当、無駄に熱い。

「千幸、受け取ってくれてありがとう。これからもよろしく」
「はい。よろしくお願いします」

 頷き握られた手を軽く握り返すと、鍵の形が、角が手のひらに触れる。
 小野寺の手から、自分へ。

 自由に出入りしていいという証。それは信頼なのだと思うと、心臓がせわしなくなった。
 トクトクトクッと早る心臓に戸惑いながらそっと様子を窺うと、途端にふにゃっと顔を緩める小野寺。
 ほっとしたとばかりに、ずいぶんと締まりのない顔を見せる。

「っはぁぁぁっ。よかった。本当緊張した~」

 そして息を盛大に吐き出し、甘えるように肩に顔を預けられる。
 小野寺の髪から千幸が使っているシャンプーの匂いが香り、くすぐる毛先とその事実の両方がこそばゆい。

「そうは見えませんでしたけど?」
「本当? 受け取ってくれるかどうかすごく緊張したんだが?」
「あれでですか?」

 その割にはずいぶんと主張が激しかった気がする。怪訝に思いじっと見つめる。
 意志の強い整った眼差しに緊張のきの字も見えない。

「千幸は俺のこの気持ちを甘く見すぎだ」
「そんなことはないと思いますけど……」

 甘く見たことなんてない。最初が最初だったし。規格外なのは認識している。
 あと、いろいろ驚かされてばかりで、常に思考はフル稼働していて緩む隙がなくてかなりエネルギーを使った気がする。

 小野寺の思いも、自分の気持ちも、実感したからこそ一緒に朝を迎えたのだから気持ちに疑いなんてない。
 自分で言うと自惚れになってしまうが、好かれていることはわかっている。

「いいや。まだ足りてない。千幸に関わることは鼓動が早まるのをいつも止められない。だから、鍵だけに関わらずいろんなものを受け取ってくれてありがとう」

 そんなことを告げながら、すりすりと肩に頭を擦り付け笑いながら戯れるようにキスの雨を顔中に降らせる。
 その際に、密かに恥ずかしくて熱くなっている首元とかにも愛おしそうに口づけられた。

 掠める唇から吸い付くようにわざと音を立てられ、ぞわぞわと肌が粟立つ。
 熱くなっているのも、この空気も、さりげなく言われる言葉も、何もかもこそばゆい。
 言葉を返せずにいる千幸に構わず、小野寺は続ける。

「大事にするから、千幸の時間を独占させて」

 そこで、ふっ、と笑った小野寺の表情と言葉に心臓が跳ねる。
 瞳を見返すと、きらめく星でも見ているかのように眩しそうにこちらを見ていた。そのまま甘く低く呼ばれる。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...