ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

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7激甘ネジ

ただ、隣にいたいだけ④

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 トクトクトクといつもより小野寺の鼓動が速いのに気づき、安心する。自分に向けられる小野寺の行動には、必ず小野寺の強い思いと千幸を思う気持ちが入っている。
 だから、ネジが多少緩くても、ぽろぽろ取れても、びっくりすることが多くても、その奥にある思いはすべて見えなくても、その気遣いや思いやりが見えるから愛おしい。

「大学の時、私を見つけてくれてありがとう。こうして、捕まえてくれてありがとう」

 何もせずに気にかけてくれていた時間。
 その間、何を思ってどうしていたのかは知らない。ずっと今みたいな熱量ではなかったと思うけれど、その時間があったからこその今。

 だから、今こうして互いに温もりを与え合えることが、とても尊く大事に思える。
 そのきっかけは小野寺で、彼でなかったらこんなに満たされるものもなかったと思うから、彼と出会い恋人として過ごせる時に甘い重みが増していく。

「……………………千幸が、好きだ」

 いつも饒舌な小野寺が、長い沈黙の後ぽつんとささやいた。
 いろんな思いも考えも、結局はそれに繋がるんだと頭上に羽のようなキスを落とされ、照れながら顔を上げるとまっすぐで力強い双眸とかち合う。

 どんな時だって思いを伝えることを惜しまない瞳に、愛を紡ぐ口は触れたくて仕方がないと千幸の唇へと落ちてきた。
 重なる温もり。

「愛して、る」

 キスの合間、合間にささやかれる愛の言葉。
 もうそれだけで満たされる。

「……す、き」

 深く考えずに呼応するように自分の口からも気持ちが漏れ出る。
 ああ、好きなんだと、絡み合った指の力を千幸も離さないとキュッと握った。


────────
────


「翔さん、これどういうことですか?」
「これってどれ?」
「通帳とか、ハンコとかもろもろです」

 千幸は朝起きて渡されたそれらに目を見開いた。
 突き返しても渡してくるのでなんなんだと机の上に置いたそれにうんざりしながら、いつものようにくっついてこようとする恋人を止めるが小野寺のほうが動きが早かった。

 後ろから巻きついてきた腕をわかっているのかとぺしっと叩く。
 だけど、腕は緩むことなくきゅっと力を入れられ、小野寺は何も問題はないと説明する。

「一緒に住みだしたのだから何も隠す必要がないだろう? 知っておいたほうがいいこともあるし。千幸が家にお金を入れようとしてくれる気持ちは嬉しいけど、俺に余裕がある事実を見せたほうが早いかなって」

 ちょいちょいちょい。ツッコミどころが満載ですけど。
 さすが小野寺。ネジのつき方が変だ。

「だけど」
「俺は千幸を幸せにしたい。それがお金とは言わないけれど、経済力があるならそれを恋人のために使うのは当たり前だろう。あるから使わせてほしいって言ってるだけなんだけど」
「……わかりました。百歩譲って翔さんの意見を理解するとして、どうしてそれが通帳やらに?」

 恋人の男気はわかった。
 だけど、通帳はやりすぎだ。

「言葉で言ってもわかってくれないなら、実際見せてすべて預けたらわかってもらえるから」
「確かに手っ取り早い? のかもしれないけど、急にこんなの見せられて何事かと驚きのほうが多いから」
「言葉よりも数字を見せて実践するほうが説得力はある」
「プレゼンじゃないんですから。だからって、やりすぎです。こんな大事なものほいほい見せるものではないし、ましてや預けようなんておかしい」

 こんな大金が入った通帳を夫婦ならまだしも、恋人に預けるなんてどうかしている。

「おかしくない。千幸だから」
「だから、なんで私だからってなるんですか!? もうっ。なんでも限度というものがあるっていつも言ってるじゃないですか。悪用されたらどうするんですか?」
「千幸がするわけない」
「しませんけど。でも、やっぱり限度ってものがあるんですってば」

 こんなゼロがいっぱいついた通帳怖すぎる。

「いいんだ。俺が千幸にならって思ってることを知ってもらいたいから」
「…………っ」
「資産管理の都合上、それが全てではないから大丈夫だ」
「そういう問題じゃないんですってば」
「じゃ、何が問題?」

 そこで聞く? えっ? 散々説明していたつもりなんだけど。
 えっ、何が問題? 何を問題にしたらわかってくれるのか。

「俺は千幸に甘えてほしい。互いにできることをする。千幸がご飯を作ったり家事をしてくれるように、俺は持っているものを千幸と共有したいって思ってるだけだから」

 だからって、規模が違いすぎるんですけど……
 小野寺にとってこれは些細なこと。些細だと思っているのも自分が相手だから。
 それはわかっているのだけど、唐突でどこか斜めだからこっちも焦ってしまう。

「ね、千幸。甘えほしいな。俺が頑張った分で、千幸が生活してると思うともっと頑張れるのだけど」
「…………じゃあ、家の食費とかは私が出してもいいですか?」
「別にいいのに」

 よくない。全くよくない。

「翔さんが私に何かしたいと思う気持ちはわかりましたし、すごく嬉しいです。その反対に、私も翔さんに何かしたいです。なら、翔さんの身体作りは私がしてもいいですよね?」
「身体、なんて。千幸は大胆だな」
「意味違いますから。健康でってことです」
「ああ。わかってる。嬉しいよ。千幸が可愛すぎてどうにかなりそうだ」

 そう言って肩口にはむはむと甘噛みをしてくる。
 すぐに甘えてくる恋人は、朝ワンコ。

 聞いてほしいと、くぅぅんと期待を込めた気配がびんびんに伝わってくる。
 尻尾でもあるのかってくらいわかりやすい空気に、千幸は眉根を寄せる。
 こうなった恋人は手強い。けど、負けない!

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