コイカケ

崎田毅駿

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コイカケその1

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 最初、何を言われたのか分からなかった。
「へ? トーナメント?」
 だから馬鹿みたいにおうむ返ししてしまった。ドラマなんかでこういうおうむ返しの台詞があると、脚本家手を抜いてるなあって思う口なのに。自分が使うとは恥ずかしい。
 だが、相手は淡々と続けた。
「そう、八人参加の平等な勝ち抜き戦で、種目はギャンブルです。最後まで勝ち残り、優勝した人がプロポーズの権利を得られる仕組みです」
 三ツ矢健司みつやけんじさんは、神田部かんたべ家の使用人の一人で、僕が十二歳頃からの顔見知りだ。初対面時、その控え目だが芯の通った佇まいに、執事のようだと感じた記憶があるが、実際、執事めいた仕事をこなしている。あくまでも使用人と称して譲らないのは、本人曰く、本場の英国で執事のなんたるかを修めていない限り、執事と称するのは憚られるという理屈らしい。
「あの、情報量が多いというか、意外な言葉の連続で、理解が追い付いてないんですが……とりあえず、プロポーズの権利というのは、静流しずるさんの話ですか」
「無論です。静流さんも了承済みですよ」
 神田部家の使用人の皆さんは、神田部家のご令嬢をお嬢様とか静流様とは呼ばない。少なくとも、僕はそんな場面に出くわしたことがない。そういう堅苦しさのない財閥というイメージがあるからこそ、神田部さん――静流さんともごく普通の友達付き合いができた気がするし、その延長で好意を抱くようにもなった。
 そして今現在、結婚を意識してもおかしくない年齢になってきたけれども、まさかいきなり妙な話を持って来られるとは、想像の遥か外の成り行きだ。
「もう一度お聞きしていいですか」
「はい、何なりと」
「三ツ矢さんは、ギャンブルのトーナメントと言いました?」
「さようで」
「失礼な物言いになるかもしれないので、先に謝っておきます、ごめんなさい。神田部家はそんな博打の才能のあるなしで、大事なお嬢さんの結婚相手を決めるんですか」
「礼を失してなぞおりませんよ。立派な態度ですし、当然の疑問だと思います」
「疑問を当然と言ってもらって、ちょっとほっとしました。何か理由があって、こんなトーナメントを行うんですよね。教えてください、その理由を」
「そもそも神田部家が今の隆盛を誇ることになったきっかけは、大博打での勝利にあります。遡ること七十五年――」
 三ツ矢さんは、彼にしては珍しく饒舌に長々と、ギャンブルにおける神田部家勝者の歴史を語った。かなり最近まで大きな勝負をこなしているらしいのだが、時間軸が現在に近ければ近いほど曖昧な表現になった。法に触れる、ということか。
「――かように、今でもギャンブルによって物事の白黒を決する場合が多々あります。ために、後継者の座には博才のある者、強運の持ち主が就くのが望ましいのはお分かりですね」
「分かりますけど。後継者って、静流さんと結婚した男が自動的になるのですか」
「自動的ではありません。話が混乱を来さぬように整理しますと、トーナメントで優勝した者は、静流さんにプロポーズする権利を得られるだけで、婚約者としてストレートに認められるのではありません。そして静流さんがプロポーズを受けるのは、その候補者がギャンブルで静流さんを負かしたときのみ。静流さんに勝利して初めて認められるのです」
 何かとんでもないことになっているんですけど。
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