コイカケ

崎田毅駿

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コイカケその2

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「あの、質問がまだいくつかあります」
「どうぞ。気の済むまでお付き合いしましょう」
「まず、静流さんに勝てずに終わった場合、どうなるんだろう? 後継候補者も結婚相手も決まらないままだとして、次の機会はあるのかないのか」
「あります。来年の静流さんの誕生日に、また同様のトーナメントを催すことになるでしょう」
「……静流さんが滅茶苦茶強くて、誰も彼女に勝てないまま、長い年月が経ったら? 適当な頃合いを見てわざと負けるとか」
「そのようなことは決してございません!」
 びっくりした。三ツ矢さんのこんなにも迫力ある物腰は初めてだ。圧を感じて、思わず後ずさりしてしまう。
「ギャンブルの勝敗は神聖なものです。たとえいかさまはあったとしても、わざと負けるという行為だけは許されません。ギャンブルそのものを汚す悪行にして愚行です」
「わ、分かりました。じゃあ、静流さんに勝つ人物の登場を待ち続けるということですね」
「はい、さようで」
 いつものほんのりとした微笑をたたえた顔に戻る三ツ矢さん。よかった、安心した。
「トーナメントの参加者八名の選考基準は? 静流さんが好まない男性も含まれるんでしょうか」
「確認をしますが、今の『好まない』とは恋愛感情の観点からの表現ですね? ならば、静流さんのお気持ちの全ては測りかねますが、程度の差はあれど、八人全員、好意をお持ちなのは確かです。それが条件の一つですので」
 ということは、僕も好意を持たれているわけで。いや、前から多少はそうじゃないかと意識はしていたけれども、はっきり言葉にされると嬉しくないわけがない。
「質問は以上で?」
「え、あ、はい。一応、すっきりしました」
「では改めて問います。この度の神田部静流誕生パーティにおけるトーナメントに参加されますか?」
 僕はもちろん肯定の返事をした。
 どんなギャンブルをさせられるのか、知らないままに。

 神田部静流のその年の誕生日パーティは、豪華客船トゥオブトリーを借り切って行われることになった。
 神田部家は毎年九月九日に盛大なパーティを催してきたが、今年は初めて、静流の結婚相手を決める場となるため、また格別だ。
 神田部グループはその傘下に銀行や新聞社、自動車メーカーに医療関連会社などを置き、最近ではITビジネスの成長株を吸収した。長きに渡る企業活動の間には浮き沈みが当然あったが、大きく落ち込むことはなく、今も成長を続けている。
 一方で神田部家はその成長過程で敵を次々に作ってきた。中には暴力的な手段を執ることを厭わぬ輩もいるとされる。事実、二年前の静流十八歳のパーティでは、爆竹騒ぎがあった。会場となったホテルのアルバイト従業員が金で雇われてしでかした悪戯レベルの騒動で、即座に取り押さえられて事なきを得た。
 この一件で警戒を強めた神田部家は、今回の誕生日パーティを安全確実に挙行すべく、会場を船の上としたのだ。乗員乗客の身元チェックを厳しく行った上で大海原に出てしまえば、ほぼ安全は確保できる。まさか海賊さながらにボートで乗り付けたり、バズーカ砲で攻撃してくるような連中はいまい。
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