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コイカケその7
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羽柴がもし相手なら、手強いが、実力が発揮できそうだな。そんなことを思いつつ、グラスの中身を飲み干し、一息く。それも束の間、アナウンスがあった。
<トーナメント出場の皆様は各自、事前に指定のフロアへと移動ください。午後三時三十分より、一回戦の競技について説明を開始いたします>
アナウンスは二度繰り返されて終わった。元々知らされていた内容だったため、何となく聞き流しそうになったが、具体的なフロアを言わなかったこと、各自に指定という表現が引っ掛かる。もしかすると、一度に戦うのか。
八人参加のトーナメントにおいて一回戦は四試合。それぞれ別のフロアで同時に行うのが、公平性を保つ観点から理に適っているかもしれない。次の対戦相手の手の内を探ろうと、見物を決め込むことができないからだ。
僕は出場者の証であるカードを取り出し、記載の数字を最終確認すると、八階へと急いだ。
試合会場に到着すると、すでに相手が来ていた。
とりあえず、羽柴秀一郎でなかったことにほっとする反面、緊張もする。何とも言い表しがたい感情になる。
「何だ、こんな若造が相手か」
わざとらしく驚く男は、当人も結構若く見えた。いくらギャンブルのトーナメントとは言え、静流さんの婚約者候補を選ぶ大会なのだから、年齢の釣り合いは重視されるのだろう。
僕は何も言い返さず、目礼だけした。あとはこの試合会場の雰囲気に慣れることに時間を費やす。
会場をぐるりと見渡すと、広さは二十畳ほどだろうか。中央にビリヤード台ぐらいのサイズのテーブルがあって、二つある長辺サイドに椅子が一脚ずつ。
観客はこの場にはいない。ビデオカメラが四台あって、それらが船内の回線を通じて各部屋のテレビもしくはエントランスホールの大画面モニターに勝負の様子を映すことになっている。四試合同時進行だとしたら、画面も四分割するのだろうか。それとも観る側で選択できる? まあ出場者の立場でそんなことにまで気を回してもしょうがない。
三時二十九分に、第三の人物が現れた。扉を閉ざしたあと、その男性は僕と対戦相手に身分証カードの提示を求め、出場者であること、対戦場がここで間違いないことを確認した。
このときになってようやく、僕ら対戦する二人は、お互いの名前を知った。
味澤京太。これが僕の対戦相手だ。
「ようこそお越しくださいました。自己紹介させていただきます。私、この一回戦を担当するディーラーで、馬込と申します。この勝負の決着の時まで、お付き合い願います」
黒のズボンに白シャツ、黒のベストには暗めの赤のラインが入っている。噂に聞いた通り、ポケットの類は縫い付けてあるのかなと観察したが、そうはなっていなかった。ディーラーがチップや現金などをちょろまかすことのないよう、制服にはポケットがないか、あっても縫い付けてあると読んだ覚えがあったけれども、今回のトーナメントではそんな心配は無用らしい。
そもそも、僕らは――少なくとも僕は賭けのための現金を持ってきていない。代替となる物を渡されるのか、それとも掛け金の多寡で駆け引きを行うようなタイプのギャンブルではないということか。
「続いて、ルール説明を行います。お二方ともご着席を」
指示に従い、座る。何となく僕はディーラーから見て右側、味澤は左側の椅子に落ち着いた。
「お二方は、神田部家のギャンブルに参加なさるのは初めてでしたね。神田部家の意向を受けて私どもが取り仕切るギャンブルは、原則として現金などの財を用いません。また、心身に悪影響を及ぼすようなペナルティもありません。裕福な者や我慢強い者が勝つ、いや勝つと断言はできないにしても最初から明白に有利に立つゲームでは、ギャンブルとしての公平性を些か欠くことになりますので」
<トーナメント出場の皆様は各自、事前に指定のフロアへと移動ください。午後三時三十分より、一回戦の競技について説明を開始いたします>
アナウンスは二度繰り返されて終わった。元々知らされていた内容だったため、何となく聞き流しそうになったが、具体的なフロアを言わなかったこと、各自に指定という表現が引っ掛かる。もしかすると、一度に戦うのか。
八人参加のトーナメントにおいて一回戦は四試合。それぞれ別のフロアで同時に行うのが、公平性を保つ観点から理に適っているかもしれない。次の対戦相手の手の内を探ろうと、見物を決め込むことができないからだ。
僕は出場者の証であるカードを取り出し、記載の数字を最終確認すると、八階へと急いだ。
試合会場に到着すると、すでに相手が来ていた。
とりあえず、羽柴秀一郎でなかったことにほっとする反面、緊張もする。何とも言い表しがたい感情になる。
「何だ、こんな若造が相手か」
わざとらしく驚く男は、当人も結構若く見えた。いくらギャンブルのトーナメントとは言え、静流さんの婚約者候補を選ぶ大会なのだから、年齢の釣り合いは重視されるのだろう。
僕は何も言い返さず、目礼だけした。あとはこの試合会場の雰囲気に慣れることに時間を費やす。
会場をぐるりと見渡すと、広さは二十畳ほどだろうか。中央にビリヤード台ぐらいのサイズのテーブルがあって、二つある長辺サイドに椅子が一脚ずつ。
観客はこの場にはいない。ビデオカメラが四台あって、それらが船内の回線を通じて各部屋のテレビもしくはエントランスホールの大画面モニターに勝負の様子を映すことになっている。四試合同時進行だとしたら、画面も四分割するのだろうか。それとも観る側で選択できる? まあ出場者の立場でそんなことにまで気を回してもしょうがない。
三時二十九分に、第三の人物が現れた。扉を閉ざしたあと、その男性は僕と対戦相手に身分証カードの提示を求め、出場者であること、対戦場がここで間違いないことを確認した。
このときになってようやく、僕ら対戦する二人は、お互いの名前を知った。
味澤京太。これが僕の対戦相手だ。
「ようこそお越しくださいました。自己紹介させていただきます。私、この一回戦を担当するディーラーで、馬込と申します。この勝負の決着の時まで、お付き合い願います」
黒のズボンに白シャツ、黒のベストには暗めの赤のラインが入っている。噂に聞いた通り、ポケットの類は縫い付けてあるのかなと観察したが、そうはなっていなかった。ディーラーがチップや現金などをちょろまかすことのないよう、制服にはポケットがないか、あっても縫い付けてあると読んだ覚えがあったけれども、今回のトーナメントではそんな心配は無用らしい。
そもそも、僕らは――少なくとも僕は賭けのための現金を持ってきていない。代替となる物を渡されるのか、それとも掛け金の多寡で駆け引きを行うようなタイプのギャンブルではないということか。
「続いて、ルール説明を行います。お二方ともご着席を」
指示に従い、座る。何となく僕はディーラーから見て右側、味澤は左側の椅子に落ち着いた。
「お二方は、神田部家のギャンブルに参加なさるのは初めてでしたね。神田部家の意向を受けて私どもが取り仕切るギャンブルは、原則として現金などの財を用いません。また、心身に悪影響を及ぼすようなペナルティもありません。裕福な者や我慢強い者が勝つ、いや勝つと断言はできないにしても最初から明白に有利に立つゲームでは、ギャンブルとしての公平性を些か欠くことになりますので」
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