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コイカケその27
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間違いない。299ではなく266だ。五百二十ページの文庫本の中程。差し挟まれたナイフの位置から言っても、このくらいの数になる。
「半分より少し行ってる感じだから、二百六十六ページにします」
「それでいいのね。馬込さん、早く」
不正を警戒しているのか、単に勝負の時間を気にしているのか、帆里はディーラーに確認を急がせた。
馬込は僕に近付くと、「では」とだけ言って、ナイフを一旦押し込んだ。間違っても差し込んだページが分からなくなるようなことがないようにと言う細心の注意を払ったのだろう。
「二百五十ページです」
「え? そんな」
そんな馬鹿なと言って、手を伸ばしかけた僕の目の前に、文庫本のページが示される。そこには見間違いようのない250の数字が。
「あらあら。とても自信があったみたいね。でもぴたりじゃなくとも、ずれがたった十六は、充分に素晴らしい成績だわ」
わざとらしい大げさな表情を作り、帆里が評した。
一応、再度断っておくけど、これ、僕も彼女も水着姿で真剣にやっています。
どうして外したのか、何を見間違えたのか分からないまま、攻守交代。帆里はナイフの刃の部分を白い布で拭い、その布越しに持ったまま、柄の方を僕に向けた。
「どうぞ、お気を付けて」
文庫本とナイフを受け取った僕だけど、すぐには差し込まずに、ナイフの刃をしげしげと観察した。が、特に仕掛けがあるようには見えない。
もしや文庫本の方に仕掛けが……と思ったときには、馬込から早く進めるように注意を食らってしまった。
やむを得ない。解明をあきらめ、僕はナイフを本の後ろの方に差し込んでみた。
相手に渡したあと、彼女がどのように振る舞うかを注視する。
と、帆里は僕の視線を感じ取ったか、あるいは前もって分かっていたかのようにこちらを見た。
そうしてミスティック・スマイルと呼ぶのがふさわしい表情をしたかと思うと、ナイフの刃先で、ページをほんの少しだけ持ち上げる。僕がさっき行ったのと同じ動作だ。
「四百八十八ページ」
答のみを告げる帆里。馬込ディーラーによって確認作業が行われ、そのページは四百八十八ページだった。
「帆里南が完全に正解したので、このゲームは彼女の勝利となります」
ディーラーの言葉を受け入れること自体はやぶさかでない。だが、同じ手口を行使して、僕は間違い、帆里は見事に当てた。どうしてなのかを知りたい。
そんな思いが顔に出ていたんだろう。相手の帆里は僕に近付いてきて、ナイフを拭うのに使った布を見せた。
「あなたの考えで、基本的には間違っていない。ミスは、この仕組みを知っていると思って、安心したこと」
「……僕がしていること自体を、あなたは知っていたと?」
「だから言ったでしょう。お屋敷であなたに会っていると。あなたがお嬢様に得意げに色んなマジックを披露していたのを、この眼でしかと目撃したわ」
言いながら、布を手渡ししてきた。
よく観察する。そしてすぐに気が付いた。少しだが、黒い汚れが付着している。ナイフの刃の部分には、黒い汚れの元があったことになる。
「……分かった。帆里さんが用意したナイフだってことに、もっと注意を向けるべきだった」
彼女は恐らく、最初からナイフの片面に小さく数を書いていたのだ。266と。
ナイフを差したページを言い当てるマジックを知っている僕なら、その種と同じようにページを見るに違いないと予測した。ナイフを差し込むのは彼女自身なのだから、ナイフに書いた数とあからさまに異なるページに差してしまう心配はない。
「完敗を認めます」
でも、次はそうはいかない。
「半分より少し行ってる感じだから、二百六十六ページにします」
「それでいいのね。馬込さん、早く」
不正を警戒しているのか、単に勝負の時間を気にしているのか、帆里はディーラーに確認を急がせた。
馬込は僕に近付くと、「では」とだけ言って、ナイフを一旦押し込んだ。間違っても差し込んだページが分からなくなるようなことがないようにと言う細心の注意を払ったのだろう。
「二百五十ページです」
「え? そんな」
そんな馬鹿なと言って、手を伸ばしかけた僕の目の前に、文庫本のページが示される。そこには見間違いようのない250の数字が。
「あらあら。とても自信があったみたいね。でもぴたりじゃなくとも、ずれがたった十六は、充分に素晴らしい成績だわ」
わざとらしい大げさな表情を作り、帆里が評した。
一応、再度断っておくけど、これ、僕も彼女も水着姿で真剣にやっています。
どうして外したのか、何を見間違えたのか分からないまま、攻守交代。帆里はナイフの刃の部分を白い布で拭い、その布越しに持ったまま、柄の方を僕に向けた。
「どうぞ、お気を付けて」
文庫本とナイフを受け取った僕だけど、すぐには差し込まずに、ナイフの刃をしげしげと観察した。が、特に仕掛けがあるようには見えない。
もしや文庫本の方に仕掛けが……と思ったときには、馬込から早く進めるように注意を食らってしまった。
やむを得ない。解明をあきらめ、僕はナイフを本の後ろの方に差し込んでみた。
相手に渡したあと、彼女がどのように振る舞うかを注視する。
と、帆里は僕の視線を感じ取ったか、あるいは前もって分かっていたかのようにこちらを見た。
そうしてミスティック・スマイルと呼ぶのがふさわしい表情をしたかと思うと、ナイフの刃先で、ページをほんの少しだけ持ち上げる。僕がさっき行ったのと同じ動作だ。
「四百八十八ページ」
答のみを告げる帆里。馬込ディーラーによって確認作業が行われ、そのページは四百八十八ページだった。
「帆里南が完全に正解したので、このゲームは彼女の勝利となります」
ディーラーの言葉を受け入れること自体はやぶさかでない。だが、同じ手口を行使して、僕は間違い、帆里は見事に当てた。どうしてなのかを知りたい。
そんな思いが顔に出ていたんだろう。相手の帆里は僕に近付いてきて、ナイフを拭うのに使った布を見せた。
「あなたの考えで、基本的には間違っていない。ミスは、この仕組みを知っていると思って、安心したこと」
「……僕がしていること自体を、あなたは知っていたと?」
「だから言ったでしょう。お屋敷であなたに会っていると。あなたがお嬢様に得意げに色んなマジックを披露していたのを、この眼でしかと目撃したわ」
言いながら、布を手渡ししてきた。
よく観察する。そしてすぐに気が付いた。少しだが、黒い汚れが付着している。ナイフの刃の部分には、黒い汚れの元があったことになる。
「……分かった。帆里さんが用意したナイフだってことに、もっと注意を向けるべきだった」
彼女は恐らく、最初からナイフの片面に小さく数を書いていたのだ。266と。
ナイフを差したページを言い当てるマジックを知っている僕なら、その種と同じようにページを見るに違いないと予測した。ナイフを差し込むのは彼女自身なのだから、ナイフに書いた数とあからさまに異なるページに差してしまう心配はない。
「完敗を認めます」
でも、次はそうはいかない。
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