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コイカケその28
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三番勝負の二つ目として僕が用意していたゲームは、極めて単純な当て物だった。
まず、手のひらを上に向けた状態で、コインを左右に一枚ずつ、対戦相手に置いてもらう。
次に、握り込む動作して、すぐさま手のひらを返す。このとき、片方のコインをもう片方の手の中に入るよう、投げてもいいし、投げずにそのまま握ってもいい。投げたコインを受け損なっても一度はやり直せる。
最後に、左右の手にコインが何枚ずつ入っているかを言い当てる。これを交互に行い、先に完全に正解した方を勝者とするルール。
ほんの二分前までは、このゲームで勝負をかけるつもりだった。だが、ここへ来て情勢が変わってしまった。
帆里南は、静流さんの屋敷で、僕が静流さん相手にマジックをするところを何度も目撃しているようだ。多分、メイド・家政婦の一人なんだろう。制服姿とまるで違う水着姿で全く結び付けられなかったのもあるし、同じ制服姿の女性が大勢いる中で、帆里南一人を明確に覚えているなんて、僕には無理だ。
それはともかく、僕は今言ったコインのゲーム――その実、マジックなのだが、このマジックを静流さんの屋敷で披露したことがある。それも種明かしまでしたような記憶すらあった。その様子を帆里が見ていたとしたら……このゲームを提案していいものなのか、躊躇が大きかった。
* *
帆里南は対戦相手の提案に、無表情で応じた。
だが実際のところ、内面では笑みがこぼれるのを我慢するのに苦労していた。
(そのゲーム、いえ、コインマジックなら、お屋敷で見ました。その時点で種は分かりませんでしたが、あとでお嬢様から教えていただいたので、把握しています。そうとも知らずに持ち掛けてくるなんて)
念のため、そのトリックを思い返しておく。
(左右の手のひらに一枚ずつコインを置き、次に握り込んで、手首を返す。そのとき、一枚をわざと落とす。仮に右手の一枚を落とした場合、相手にコインを拾ってもらい、左手の方に入れさせる。このとき、元から握った一枚目のコインの存在を気付かれないよう、うまく隠す。そして再び手首を返し、それぞれの手には何枚コインがあるでしょうかと問う。相手は、コインを投げたようにはどうしても見えないため、左右に一枚ずつと答えるが、実際は右手はゼロ枚、左手は二枚になっている)
これさえ理解しておけば、対応は簡単。相手は必ず一度目を失敗し、拾ったコインを入れる方手のがコイン二枚となり、反対側の手はゼロ枚。決まり切った見破り方は、まるで数学の公式だ。
「あと、勝敗の付け方なんですが」
ゲームの説明はまだ終わっていなかったようだ。帆里は何の気なしに相槌を打った。
「交互にやっていては、いつまでも決着しない可能性が割と高いと思うんです。そこで、どちらかがコインを握る役を務め、もう一人は見破る役で固定し、一回きりの勝負にしましょう」
「どちらをやるというのかしら」
「僕から提案したのでどちらでもかまいません。まさか、一敗を喫している僕に情けを掛けて、選択権を譲ってくれますか?」
はったり? 挑発? 帆里はそれらの可能性を考慮した上で、選択権は譲らないと決めた。
(種を知っているとは言っても、私はこのマジックに関して素人同然。私が隠す側に回っても、絶対にうまくやり通せるかというと、不安が残る。それならば、見破る側を選ぶのが得策というもの)
結論が出た。
「私は選ぶ側、つまり当てる役をやりたいわ」
「……分かりました。ではコインを。僕が自分の財布から選び取っていいですよね?」
問われた馬込は、「もちろんですとも」と答えた。
「じゃあ、この百円玉にしようかな。ちょうど二枚あるし」
財布の小銭入れから出した二枚の百円玉。
帆里はふと思い付いて、「勝負の前に、私も見ていいわよね」と聞いた。短く、「ええ」という返事があった。
(……なるほどね)
まず、手のひらを上に向けた状態で、コインを左右に一枚ずつ、対戦相手に置いてもらう。
次に、握り込む動作して、すぐさま手のひらを返す。このとき、片方のコインをもう片方の手の中に入るよう、投げてもいいし、投げずにそのまま握ってもいい。投げたコインを受け損なっても一度はやり直せる。
最後に、左右の手にコインが何枚ずつ入っているかを言い当てる。これを交互に行い、先に完全に正解した方を勝者とするルール。
ほんの二分前までは、このゲームで勝負をかけるつもりだった。だが、ここへ来て情勢が変わってしまった。
帆里南は、静流さんの屋敷で、僕が静流さん相手にマジックをするところを何度も目撃しているようだ。多分、メイド・家政婦の一人なんだろう。制服姿とまるで違う水着姿で全く結び付けられなかったのもあるし、同じ制服姿の女性が大勢いる中で、帆里南一人を明確に覚えているなんて、僕には無理だ。
それはともかく、僕は今言ったコインのゲーム――その実、マジックなのだが、このマジックを静流さんの屋敷で披露したことがある。それも種明かしまでしたような記憶すらあった。その様子を帆里が見ていたとしたら……このゲームを提案していいものなのか、躊躇が大きかった。
* *
帆里南は対戦相手の提案に、無表情で応じた。
だが実際のところ、内面では笑みがこぼれるのを我慢するのに苦労していた。
(そのゲーム、いえ、コインマジックなら、お屋敷で見ました。その時点で種は分かりませんでしたが、あとでお嬢様から教えていただいたので、把握しています。そうとも知らずに持ち掛けてくるなんて)
念のため、そのトリックを思い返しておく。
(左右の手のひらに一枚ずつコインを置き、次に握り込んで、手首を返す。そのとき、一枚をわざと落とす。仮に右手の一枚を落とした場合、相手にコインを拾ってもらい、左手の方に入れさせる。このとき、元から握った一枚目のコインの存在を気付かれないよう、うまく隠す。そして再び手首を返し、それぞれの手には何枚コインがあるでしょうかと問う。相手は、コインを投げたようにはどうしても見えないため、左右に一枚ずつと答えるが、実際は右手はゼロ枚、左手は二枚になっている)
これさえ理解しておけば、対応は簡単。相手は必ず一度目を失敗し、拾ったコインを入れる方手のがコイン二枚となり、反対側の手はゼロ枚。決まり切った見破り方は、まるで数学の公式だ。
「あと、勝敗の付け方なんですが」
ゲームの説明はまだ終わっていなかったようだ。帆里は何の気なしに相槌を打った。
「交互にやっていては、いつまでも決着しない可能性が割と高いと思うんです。そこで、どちらかがコインを握る役を務め、もう一人は見破る役で固定し、一回きりの勝負にしましょう」
「どちらをやるというのかしら」
「僕から提案したのでどちらでもかまいません。まさか、一敗を喫している僕に情けを掛けて、選択権を譲ってくれますか?」
はったり? 挑発? 帆里はそれらの可能性を考慮した上で、選択権は譲らないと決めた。
(種を知っているとは言っても、私はこのマジックに関して素人同然。私が隠す側に回っても、絶対にうまくやり通せるかというと、不安が残る。それならば、見破る側を選ぶのが得策というもの)
結論が出た。
「私は選ぶ側、つまり当てる役をやりたいわ」
「……分かりました。ではコインを。僕が自分の財布から選び取っていいですよね?」
問われた馬込は、「もちろんですとも」と答えた。
「じゃあ、この百円玉にしようかな。ちょうど二枚あるし」
財布の小銭入れから出した二枚の百円玉。
帆里はふと思い付いて、「勝負の前に、私も見ていいわよね」と聞いた。短く、「ええ」という返事があった。
(……なるほどね)
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