31 / 59
コイカケその31
しおりを挟む
正直言って、呼吸を止めるのは苦手だ。スタート時に吸い込むべき空気の適量が分からない。いっぱいいっぱいに吸い込んでも、漏れ出す感じでじきに苦しくなるし、よく言われた目一杯吸ったあとちょっと吐き出すというのも、吐き出しすぎてしまうのかさして保たない。
今回も結局、約三十秒が限度だった。馬込ディーラーの計測では、二十九秒一三とのこと。泳ぎは得意なんだけど、万が一にもこの船が沈むようなことがあって、海に投げ出されたら、恐らく助からないよなぁ。
「続いて、帆里南。水の汚れが気になるのであれば、入れ替えるのも可とする」
「――まさか毒を仕込んではいませんよね」
僕に聞いてきた。
「息も絶え絶えに顔を上げる瞬間、毒を落としたと言うんですか。冗談きついですよ」
「もちろん、きつい冗談です」
とか言いつつ、結局水は交換された。実際問題、毒じゃなくても、洗剤を入れたり塩を入れたりしたら、息止めに悪い影響を及ぼすかもしれない。前もって気付いていれば実行したかと問われると、ノーだけど。
結果から言うと帆里南は、僕の三倍の記録をたたき出した。一分三十六秒ジャストって、海女さんかよ。
「いよいよ本番です。ゲームは神経衰弱」
ディーラーはさらっと言ったけど、神経衰弱ってカードゲームの?
どこが短期決戦なんだ?
「強者二人からそのような表情を見られるのは、光栄とすべきことなのでしょう。が、喜びを露わにするのは慎まねばなりません。神経衰弱と言っても、独自ルールを追加しております。まず、時間制限。先程の息止め時間がそのまま持ち時間となります」
予想はしていたが……このハンデは大きいぞ。
「カードは通常の倍、一〇四枚を使い、ペアの完成は数、マークともに一致しなければ認められません。さらに、めくってペアにならなかったカードは開いたままにし、そのターンではペアとすることはできません」
ターン? 二枚めくったら交代ではないということらしい。
馬込はいつの間に用意したのか、チェスクロックを手に持っている。対局時計とも呼ばれる代物で、アナログ時計の文字盤二つが横並びに設置されている。
「この対局時計は、将棋やチェスなどでお馴染みと思います。上に付いているボタンそれぞれを押す度に、ムーブとストップを繰り返します。先番を決めていただき、最初は私がスタートを掛けると同時に針を動かしますので、先番の方はカードをめくり始める。ペアができたら針を止めます。ペアにならなかったカードを裏向きに戻した後に、もう一つの時計のスタートボタンを押しますから、後番の方はカードをめくり始める。以降、双方の持ち時間がなくなるまで繰り返します。完成したペア数の多い者が勝利。
もう一点。カードを元通りにするに当たって、カードの位置はそのまま動かしません。しかし、対戦者のお二人は自らの持ち時間から三秒をマイナスすることと引き換えに、カードの位置をぐちゃぐちゃに混ぜることができます。あ、混ぜるのは私ですが。以上がこの特殊神経衰弱のルールとなります。何かご質問は? ゲームの性質上、開始後は質問を差し挟むタイミングはないと推測されますので、今の内に」
帆里が先に動いた。
「じゃあ、二つほど。いえ、三つになるかも。まず、持ち時間内にペアができなかった場合、どうなるのかが不明確だと感じましたが」
「その方のゲームがその時点で終了。ペア数もその時点のものとなります」
「分かったわ。二つ目は、その逆。一〇四枚全てをめくったのに、運悪くペアができなかった。でも持ち時間は残っている場合」
「そのターンは獲得ペア数ゼロ。改めて一〇四枚を並べて、相手のターンになって続行します」
「なるほどね。三つ目の質問。ペアができたあと、思わず次のカードをめくってしまってもいいのかしら?」
「いえ、だめ。即座に反則負けとします」
えらく厳しいと感じたが、考えてみれば当然か。ペア完成後もめくっていいとしたら、全てのカードを連続的にひっくり返せばいいことになる。息を吹きかけるようにして。
「僕からも一つあります。味澤さんと対戦したときみたいに、両者合意の上でルールを追加するのは?」
「認められません」
あ、やっぱりそうですか。
今回も結局、約三十秒が限度だった。馬込ディーラーの計測では、二十九秒一三とのこと。泳ぎは得意なんだけど、万が一にもこの船が沈むようなことがあって、海に投げ出されたら、恐らく助からないよなぁ。
「続いて、帆里南。水の汚れが気になるのであれば、入れ替えるのも可とする」
「――まさか毒を仕込んではいませんよね」
僕に聞いてきた。
「息も絶え絶えに顔を上げる瞬間、毒を落としたと言うんですか。冗談きついですよ」
「もちろん、きつい冗談です」
とか言いつつ、結局水は交換された。実際問題、毒じゃなくても、洗剤を入れたり塩を入れたりしたら、息止めに悪い影響を及ぼすかもしれない。前もって気付いていれば実行したかと問われると、ノーだけど。
結果から言うと帆里南は、僕の三倍の記録をたたき出した。一分三十六秒ジャストって、海女さんかよ。
「いよいよ本番です。ゲームは神経衰弱」
ディーラーはさらっと言ったけど、神経衰弱ってカードゲームの?
どこが短期決戦なんだ?
「強者二人からそのような表情を見られるのは、光栄とすべきことなのでしょう。が、喜びを露わにするのは慎まねばなりません。神経衰弱と言っても、独自ルールを追加しております。まず、時間制限。先程の息止め時間がそのまま持ち時間となります」
予想はしていたが……このハンデは大きいぞ。
「カードは通常の倍、一〇四枚を使い、ペアの完成は数、マークともに一致しなければ認められません。さらに、めくってペアにならなかったカードは開いたままにし、そのターンではペアとすることはできません」
ターン? 二枚めくったら交代ではないということらしい。
馬込はいつの間に用意したのか、チェスクロックを手に持っている。対局時計とも呼ばれる代物で、アナログ時計の文字盤二つが横並びに設置されている。
「この対局時計は、将棋やチェスなどでお馴染みと思います。上に付いているボタンそれぞれを押す度に、ムーブとストップを繰り返します。先番を決めていただき、最初は私がスタートを掛けると同時に針を動かしますので、先番の方はカードをめくり始める。ペアができたら針を止めます。ペアにならなかったカードを裏向きに戻した後に、もう一つの時計のスタートボタンを押しますから、後番の方はカードをめくり始める。以降、双方の持ち時間がなくなるまで繰り返します。完成したペア数の多い者が勝利。
もう一点。カードを元通りにするに当たって、カードの位置はそのまま動かしません。しかし、対戦者のお二人は自らの持ち時間から三秒をマイナスすることと引き換えに、カードの位置をぐちゃぐちゃに混ぜることができます。あ、混ぜるのは私ですが。以上がこの特殊神経衰弱のルールとなります。何かご質問は? ゲームの性質上、開始後は質問を差し挟むタイミングはないと推測されますので、今の内に」
帆里が先に動いた。
「じゃあ、二つほど。いえ、三つになるかも。まず、持ち時間内にペアができなかった場合、どうなるのかが不明確だと感じましたが」
「その方のゲームがその時点で終了。ペア数もその時点のものとなります」
「分かったわ。二つ目は、その逆。一〇四枚全てをめくったのに、運悪くペアができなかった。でも持ち時間は残っている場合」
「そのターンは獲得ペア数ゼロ。改めて一〇四枚を並べて、相手のターンになって続行します」
「なるほどね。三つ目の質問。ペアができたあと、思わず次のカードをめくってしまってもいいのかしら?」
「いえ、だめ。即座に反則負けとします」
えらく厳しいと感じたが、考えてみれば当然か。ペア完成後もめくっていいとしたら、全てのカードを連続的にひっくり返せばいいことになる。息を吹きかけるようにして。
「僕からも一つあります。味澤さんと対戦したときみたいに、両者合意の上でルールを追加するのは?」
「認められません」
あ、やっぱりそうですか。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サウンド&サイレンス
崎田毅駿
青春
女子小学生の倉越正美は勉強も運動もでき、いわゆる“優等生”で“いい子”。特に音楽が好き。あるとき音楽の歌のテストを翌日に控え、自宅で練習を重ねていたが、風邪をひきかけなのか喉の調子が悪い。ふと、「喉は一週間あれば治るはず。明日、先生が交通事故にでも遭ってテストが延期されないかな」なんてことを願ったが、すぐに打ち消した。翌朝、登校してしばらくすると、先生が出勤途中、事故に遭ったことがクラスに伝えられる。「昨日、私があんなことを願ったせい?」まさかと思いならがらも、自分のせいだという考えが頭から離れなくなった正美は、心理的ショックからか、声を出せなくなった――。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
観察者たち
崎田毅駿
ライト文芸
夏休みの半ば、中学一年生の女子・盛川真麻が行方不明となり、やがて遺体となって発見される。程なくして、彼女が直近に電話していた、幼馴染みで同じ学校の同級生男子・保志朝郎もまた行方が分からなくなっていることが判明。一体何が起こったのか?
――事件からおよそ二年が経過し、探偵の流次郎のもとを一人の男性が訪ねる。盛川真麻の父親だった。彼の依頼は、子供に浴びせられた誹謗中傷をどうにかして晴らして欲しい、というものだった。
神の威を借る狐
崎田毅駿
ライト文芸
大学一年の春、“僕”と桜は出逢った。少しずつステップを上がって、やがて結ばれる、それは運命だと思っていたが、親や親戚からは結婚を強く反対されてしまう。やむを得ず、駆け落ちのような形を取ったが、後悔はなかった。そうして暮らしが安定してきた頃、自分達の子供がほしいとの思いが高まり、僕らはお医者さんを訪ねた。そうする必要があった。
籠の鳥はそれでも鳴き続ける
崎田毅駿
ミステリー
あまり流行っているとは言えない、熱心でもない探偵・相原克のもとを、珍しく依頼人が訪れた。きっちりした身なりのその男は長辺と名乗り、芸能事務所でタレントのマネージャーをやっているという。依頼内容は、お抱えタレントの一人でアイドル・杠葉達也の警護。「芸能の仕事から身を退かねば命の保証はしない」との脅迫文が繰り返し送り付けられ、念のための措置らしい。引き受けた相原は比較的楽な仕事だと思っていたが、そんな彼を嘲笑うかのように杠葉の身辺に危機が迫る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる