コイカケ

崎田毅駿

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コイカケその32

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 質問も途切れたので、すぐさま先手後手の順番を決めに掛かる。一組のトランプから各自一枚引いて、数の大きい方が好きな番を取れることとし、帆里はハートの10、僕がスペードのキングで僕の勝ち。これはラッキーだった。後番の方が若干有利なのは、感覚的にも分かる。
 ただ、一分以上ある差を埋められるかどうかとなると、確信は全く持てなかった。

 適したテーブルが部屋になかったため、ベッドの上にシーツをぴんと張ってから敷き直し、一〇四枚のカードが裏向きに置かれた。
 馬込は少し離れた位置で椅子に腰掛け、膝上にチェスクロックをしっかり保持した。二つの時計の針は、それぞれ九十六秒、三十秒ずつ進められている(僕の分は切り上げで三十秒に)。そこから徐々に減っていくタイプらしい。
「それでは帆里南の先番で。用意――スタート!」
 帆里は上半身でベッドのカードに覆い被さるように姿勢を取ると、左右の人差し指をぴんと伸ばし、端から順にカードを二枚ずつ弾いていった。めくりすぎを警戒してか、スピードは一秒間に二組をチェックする程度。希に、表向にならずに再び裏を見せるカードもあるため、思ったほどの速さではない。
 それでもおよそ十三秒でクラブの2が二枚同時に現れた。
 僕は実を言うと、そんなことは全然気にしていなかった。とにかく、めくられたカードをなるべく覚えることに集中していた。持ち時間で上回る帆里が、このあと混ぜない訳がないが、覚えていれば多少は目星が付くはずだ。
 そしてこれも幸運なことに、彼女がめくった二十数枚のカードの中で、ハートの8が二枚あった。あの二枚の位置を覚えて、目で追いきることができれば……。
 僕ならできる、と信じ込んだ。

 クラブの2のペアが取り除かれ、あとのめくられたカードは裏返されていく。
「持ち時間は八十三秒あるが、どうしますかな」
 ディーラーの問いに、帆里はすんなり頷いた。
「当然、かき混ぜてもらいます。三秒なら端数が取れて、ちょうど八十秒になるし」
「承知した。早速、混ぜるとまいりましょう」
 馬込は両手をいっぱいに広げると、落ち葉を掃く熊手のようにカードを混ぜた。下が平らなテーブルじゃなく、シーツであるため、比較的ゆっくりとした動作である。このスピードなら追える。あとはカードの重なり具合に注意をしなければ。
「交代です。立つ位置はそこでよろしいか」
 馬込ディーラーに言われて、ベッドの周囲を移動した。ハートの8を二枚ゲットできる最短距離で身構える。
「では、用意――スタート!」
 僕はハートの8をめくる前に、もう一つ思い付いていた策を実行に移した。
「ああ?」
 悲鳴に近い叫び声は、帆里南のものだったろう。だが、かまわない。ルールで禁じられていなかったのだから、少なくともこの回、ディーラーは見逃してくれる。それで充分。
 僕は適当な二枚を選んでは、そのカードの左肩を破った。完全にはちぎり取らない。僕だけが数とマークを確認できればいい。そしてそれらを裏向きのまま、場に残す。この作業を十枚に施してから、目星を付けていたハートの8二枚をめくった。
「おお、ペア完成」
 馬込が珍しく驚きの声を上げた。要したタイムは三秒だった。
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