34 / 59
コイカケその34
しおりを挟む
そこからペアを見付けるのに若干手間取ってしまったが、それでも全体で三十秒に収めた。これで持ち時間は残すところ二十五秒。リードは一秒に縮まってしまったが、効果はあったはず。
あとは混ぜるべきかどうかだが、先番の帆里がここで三秒マイナスになっても、相手が次のターン、二秒以内でペアを見付けるとは考えられない。破りのあるカード十八枚に、ペアとなる二枚はなかった。
「混ぜてください」
破りのあるカード以外に、帆里自身がペアを出すまでにめくったカードもある。それらの位置を分かりにくくすることは重要だ。
「やれやれ。追っかけで同じように破るのは、予想しないでもなかったけれども、こんなに早く対処法に気付かれたのは誤算」
弱ったような顔つきをするが、それはふりだけかもしれない。むしろ、そのどことなく余裕の残る口ぶりに、まだ奥の手を持っているのではないかと感じる帆里だった。
「用意――スタート!」
そして彼女の懸念と不安は、ターン開始後一秒で現実のものになる。
「よし! スペードのキング、ペア完成!」
破った痕のあるスペードのキングと、普通のスペードのキング。見事に揃えてきた。
* *
実質、コンマ五秒レベルの早さでペアを完成させたが、息止め時間二十九秒あまりを切り上げて三十秒にしてもらった手前、ここは一秒かかったことにしておこう。残している持ち時間は二十三秒と二十二秒ということになり、逆転できた。
「……どうやって当てたのよ」
驚愕込みの鋭い眼差しで、こっちを睨んでくる帆里。僕は怖さもあって、肩をすくめた。
「ちょ。まだ勝敗が決していないのに、それを聞きます?」
「はっきり言うと、もう戦える精神状態にはちょっと届きそうにないの。一分以上あったリードをたったの三戦でひっくり返された。運不運もあるでしょうけれど、いかなる方法でさっきのスペードのキングを当てることができたのか、知らないままだと、勝負に集中できそうにない」
「それは……現時点で僕の勝利を認めてくださるってことですか?」
期待も露わに尋ねる。帆里南は目を伏せがちにして、一つ息を吐いた。
「悔しい、けれども仕方がない。実力の査定の役は果たしたと自認している。馬込ディーラー、どう?」
「私も同意見です。酷い勝ち方もありましたが、柔軟で独創的な考え方ができるのは魅力です」
馬込からそう言われ、続いて僕の勝利が宣せられた。二勝一敗の勝ち越しで、僕は準決勝進出が晴れて認められた。
「準決勝開始まで、あまり余裕はない。早く説明をしてもらいたいのですが」
帆里は水着姿の身体にガウンを羽織るでもなく、懸命に聞いてくる。これでは僕も着替えに引っ込めない。
「えーと。最初に、後先の順番を決めたでしょう? あのとき、僕が選んだカードはスペードのキング」
「――まさか、そのときにガン付けをしていた?」
「正解です。ようく見てやっと分かる程度の極小の傷を、爪で付けました。そしてさっきのターン、破ったカードの中にスペードのキングがあり、しかもそれは僕が爪で印を付けた物とは別のもう一枚だと分かった。あとは抜け目なく二枚のスペードのキングの位置を確実に目で捉えておき、スタートの合図を待つこと。これだけなんです」
「……適切な言い回しではないかもしれませんが」
帆里は馬込ディーラーから羽織る物を受け取りながら、ゆっくりと言った。
「『幽霊の正体見たり、枯れ尾花』の心地です」
それは暗に、僕の弄した策略が大したことないと言っている?
なーんか引っ掛かるものがあったけど、僕ものんびりしていられない。新たな対戦相手が待っている。
折角なので、カジュアルからインフォーマルに着替えるとしようか。
第一部終わり
あとは混ぜるべきかどうかだが、先番の帆里がここで三秒マイナスになっても、相手が次のターン、二秒以内でペアを見付けるとは考えられない。破りのあるカード十八枚に、ペアとなる二枚はなかった。
「混ぜてください」
破りのあるカード以外に、帆里自身がペアを出すまでにめくったカードもある。それらの位置を分かりにくくすることは重要だ。
「やれやれ。追っかけで同じように破るのは、予想しないでもなかったけれども、こんなに早く対処法に気付かれたのは誤算」
弱ったような顔つきをするが、それはふりだけかもしれない。むしろ、そのどことなく余裕の残る口ぶりに、まだ奥の手を持っているのではないかと感じる帆里だった。
「用意――スタート!」
そして彼女の懸念と不安は、ターン開始後一秒で現実のものになる。
「よし! スペードのキング、ペア完成!」
破った痕のあるスペードのキングと、普通のスペードのキング。見事に揃えてきた。
* *
実質、コンマ五秒レベルの早さでペアを完成させたが、息止め時間二十九秒あまりを切り上げて三十秒にしてもらった手前、ここは一秒かかったことにしておこう。残している持ち時間は二十三秒と二十二秒ということになり、逆転できた。
「……どうやって当てたのよ」
驚愕込みの鋭い眼差しで、こっちを睨んでくる帆里。僕は怖さもあって、肩をすくめた。
「ちょ。まだ勝敗が決していないのに、それを聞きます?」
「はっきり言うと、もう戦える精神状態にはちょっと届きそうにないの。一分以上あったリードをたったの三戦でひっくり返された。運不運もあるでしょうけれど、いかなる方法でさっきのスペードのキングを当てることができたのか、知らないままだと、勝負に集中できそうにない」
「それは……現時点で僕の勝利を認めてくださるってことですか?」
期待も露わに尋ねる。帆里南は目を伏せがちにして、一つ息を吐いた。
「悔しい、けれども仕方がない。実力の査定の役は果たしたと自認している。馬込ディーラー、どう?」
「私も同意見です。酷い勝ち方もありましたが、柔軟で独創的な考え方ができるのは魅力です」
馬込からそう言われ、続いて僕の勝利が宣せられた。二勝一敗の勝ち越しで、僕は準決勝進出が晴れて認められた。
「準決勝開始まで、あまり余裕はない。早く説明をしてもらいたいのですが」
帆里は水着姿の身体にガウンを羽織るでもなく、懸命に聞いてくる。これでは僕も着替えに引っ込めない。
「えーと。最初に、後先の順番を決めたでしょう? あのとき、僕が選んだカードはスペードのキング」
「――まさか、そのときにガン付けをしていた?」
「正解です。ようく見てやっと分かる程度の極小の傷を、爪で付けました。そしてさっきのターン、破ったカードの中にスペードのキングがあり、しかもそれは僕が爪で印を付けた物とは別のもう一枚だと分かった。あとは抜け目なく二枚のスペードのキングの位置を確実に目で捉えておき、スタートの合図を待つこと。これだけなんです」
「……適切な言い回しではないかもしれませんが」
帆里は馬込ディーラーから羽織る物を受け取りながら、ゆっくりと言った。
「『幽霊の正体見たり、枯れ尾花』の心地です」
それは暗に、僕の弄した策略が大したことないと言っている?
なーんか引っ掛かるものがあったけど、僕ものんびりしていられない。新たな対戦相手が待っている。
折角なので、カジュアルからインフォーマルに着替えるとしようか。
第一部終わり
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サウンド&サイレンス
崎田毅駿
青春
女子小学生の倉越正美は勉強も運動もでき、いわゆる“優等生”で“いい子”。特に音楽が好き。あるとき音楽の歌のテストを翌日に控え、自宅で練習を重ねていたが、風邪をひきかけなのか喉の調子が悪い。ふと、「喉は一週間あれば治るはず。明日、先生が交通事故にでも遭ってテストが延期されないかな」なんてことを願ったが、すぐに打ち消した。翌朝、登校してしばらくすると、先生が出勤途中、事故に遭ったことがクラスに伝えられる。「昨日、私があんなことを願ったせい?」まさかと思いならがらも、自分のせいだという考えが頭から離れなくなった正美は、心理的ショックからか、声を出せなくなった――。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
観察者たち
崎田毅駿
ライト文芸
夏休みの半ば、中学一年生の女子・盛川真麻が行方不明となり、やがて遺体となって発見される。程なくして、彼女が直近に電話していた、幼馴染みで同じ学校の同級生男子・保志朝郎もまた行方が分からなくなっていることが判明。一体何が起こったのか?
――事件からおよそ二年が経過し、探偵の流次郎のもとを一人の男性が訪ねる。盛川真麻の父親だった。彼の依頼は、子供に浴びせられた誹謗中傷をどうにかして晴らして欲しい、というものだった。
神の威を借る狐
崎田毅駿
ライト文芸
大学一年の春、“僕”と桜は出逢った。少しずつステップを上がって、やがて結ばれる、それは運命だと思っていたが、親や親戚からは結婚を強く反対されてしまう。やむを得ず、駆け落ちのような形を取ったが、後悔はなかった。そうして暮らしが安定してきた頃、自分達の子供がほしいとの思いが高まり、僕らはお医者さんを訪ねた。そうする必要があった。
籠の鳥はそれでも鳴き続ける
崎田毅駿
ミステリー
あまり流行っているとは言えない、熱心でもない探偵・相原克のもとを、珍しく依頼人が訪れた。きっちりした身なりのその男は長辺と名乗り、芸能事務所でタレントのマネージャーをやっているという。依頼内容は、お抱えタレントの一人でアイドル・杠葉達也の警護。「芸能の仕事から身を退かねば命の保証はしない」との脅迫文が繰り返し送り付けられ、念のための措置らしい。引き受けた相原は比較的楽な仕事だと思っていたが、そんな彼を嘲笑うかのように杠葉の身辺に危機が迫る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる