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コイカケ2の1
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神田部静流の部屋のドアがノックされたのは、トーナメントの準決勝二試合が始まろうかという頃合いだった。
「誰? 番外戦の結果なら、もう聞いているわ」
先走ってそう言いながら、扉のそばへと足を運ぶ。
「その話ではございません」
「三ツ矢ね、この声は。どうかしたのかしら」
「それが、野杁竹子さんが話があると息巻いておりまして」
「誰も息巻いてなんかいないわ」
野杁の高い声が、扉越しでもはっきり聞こえる。静流は眉間にかすかなしわを作り、
「野杁さん、神田部家主催のイベントにわざわざ乗り込んできて、何用です?」
と、ドアノブを掴んだまま聞いた。
「何用って――賭博OKの海上クルーズ船にギャンブラー二人……勝負でしょう」
「……今回は何の漫画からの受け売り? 船にはギャンブラーが何人も乗ってるし」
「――うるっさいわね。敵地まで乗り込んできてあげたのだから、尋常に勝負なさい」
「あなた、面倒くさい感じで強いから、あんまりやりたくないのよね」
「そんなこといって、逃げるつもり?」
「いつぞやみたいに、軍資金があるからって、いつまでも負けを認めずに引き延ばそうとしないでくれたら、考えてあげてもいいわ。あのときは賭け代はお金ではないのに、お金お金うるさくて鬱陶しいったらなかった」
「今回はお金のことは言わないし、お金の勝負はしないと誓うわよ。とにかく、早く開けなさい」
このまま無視しても、あとでまた仕掛けてくることは簡単に想像できた。静流はドアを開けた。
途端に野杁が赤っぽい髪をたなびかせ、勢いよく入って来た。次いで、
「だいたいねえ、この使用人が気に入らない。何で『さん』付けなのよ。『様』でしょ、普通。あなたのところの教育がなってないからよ」
とわめき立てる。
静流は耳を塞ぐポーズをしながら、三ツ矢も中へ通した。
「おあいにく様だけど、三ツ矢は誰に対してもこんな具合よ。私にだって『お嬢さん』だもの」
「それを許しているの?」
信じられないとばかり、目を見開く野杁。いつもはきつね顔とセットの細目だから、表情がちょっと違って見える。
「こちらの勝手でしょう。それよりも、ギャンブルをしたいというのでしたら、早く話を進めてくださいます? もちろん、納得の行く話でなければお断りします」
「それならずばり、言わせてもらうわ」
部屋の奥に立ち、一旦、背を向けた野杁。そしておもむろに振り返ると、静流を左の人差し指で指差してきた。
「神田部静流、あなたが一族の代表面をしているのが納得できない」
「その台詞は、同じ神田部の人間が言えばこそ、なのでは」
「何を言っているの。私とあなたそれぞれの父親同士が兄弟なんだから、つまりは私も一族でしょうが」
「ですが、野杁家は暖簾分けをして出て行かれたものとばかり」
「たとえ分かれても、つながりはある。当然の権利として、私は要求する。このトーナメントにおけるあなたの地位を賭けて、私と闘えと」
「無理じゃない?」
即断する静流に、野杁は手をわななかせた。
「何でよ。闘わなくても勝負は見えているとでも言いたいわけ?」
「いえ、そこまでは言わないわ。ただ、私の代わりってことになると、トーナメントを勝ち上がって来た殿方と、場合によっては結婚することになるのよ。恐らくよく知りもしない男性と夫婦になる覚悟、あるのかしらと思って」
「負けなければよいのだろう? 勝って私は好きな男と一緒になる!」
「誰? 番外戦の結果なら、もう聞いているわ」
先走ってそう言いながら、扉のそばへと足を運ぶ。
「その話ではございません」
「三ツ矢ね、この声は。どうかしたのかしら」
「それが、野杁竹子さんが話があると息巻いておりまして」
「誰も息巻いてなんかいないわ」
野杁の高い声が、扉越しでもはっきり聞こえる。静流は眉間にかすかなしわを作り、
「野杁さん、神田部家主催のイベントにわざわざ乗り込んできて、何用です?」
と、ドアノブを掴んだまま聞いた。
「何用って――賭博OKの海上クルーズ船にギャンブラー二人……勝負でしょう」
「……今回は何の漫画からの受け売り? 船にはギャンブラーが何人も乗ってるし」
「――うるっさいわね。敵地まで乗り込んできてあげたのだから、尋常に勝負なさい」
「あなた、面倒くさい感じで強いから、あんまりやりたくないのよね」
「そんなこといって、逃げるつもり?」
「いつぞやみたいに、軍資金があるからって、いつまでも負けを認めずに引き延ばそうとしないでくれたら、考えてあげてもいいわ。あのときは賭け代はお金ではないのに、お金お金うるさくて鬱陶しいったらなかった」
「今回はお金のことは言わないし、お金の勝負はしないと誓うわよ。とにかく、早く開けなさい」
このまま無視しても、あとでまた仕掛けてくることは簡単に想像できた。静流はドアを開けた。
途端に野杁が赤っぽい髪をたなびかせ、勢いよく入って来た。次いで、
「だいたいねえ、この使用人が気に入らない。何で『さん』付けなのよ。『様』でしょ、普通。あなたのところの教育がなってないからよ」
とわめき立てる。
静流は耳を塞ぐポーズをしながら、三ツ矢も中へ通した。
「おあいにく様だけど、三ツ矢は誰に対してもこんな具合よ。私にだって『お嬢さん』だもの」
「それを許しているの?」
信じられないとばかり、目を見開く野杁。いつもはきつね顔とセットの細目だから、表情がちょっと違って見える。
「こちらの勝手でしょう。それよりも、ギャンブルをしたいというのでしたら、早く話を進めてくださいます? もちろん、納得の行く話でなければお断りします」
「それならずばり、言わせてもらうわ」
部屋の奥に立ち、一旦、背を向けた野杁。そしておもむろに振り返ると、静流を左の人差し指で指差してきた。
「神田部静流、あなたが一族の代表面をしているのが納得できない」
「その台詞は、同じ神田部の人間が言えばこそ、なのでは」
「何を言っているの。私とあなたそれぞれの父親同士が兄弟なんだから、つまりは私も一族でしょうが」
「ですが、野杁家は暖簾分けをして出て行かれたものとばかり」
「たとえ分かれても、つながりはある。当然の権利として、私は要求する。このトーナメントにおけるあなたの地位を賭けて、私と闘えと」
「無理じゃない?」
即断する静流に、野杁は手をわななかせた。
「何でよ。闘わなくても勝負は見えているとでも言いたいわけ?」
「いえ、そこまでは言わないわ。ただ、私の代わりってことになると、トーナメントを勝ち上がって来た殿方と、場合によっては結婚することになるのよ。恐らくよく知りもしない男性と夫婦になる覚悟、あるのかしらと思って」
「負けなければよいのだろう? 勝って私は好きな男と一緒になる!」
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