コイカケ

崎田毅駿

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コイカケ2の15

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 最初に聞いていた話と違って来ているなと思った。
 まず、集合場所の変更があった。当初は馬込さんから客室の一つを指定されていたのに、中ホールに変わったと三ツ矢さんから伝えられた。
 中ホールは、普段のクルーズでは、乗船客が集まってのレクリエーションに利用されることが多いと聞いた。人気なのはビンゴゲームで、豪華賞品が用意されるらしい。
 一方、これからギャンブルの二回戦に臨もうという僕らには、一体どんな物が用意されているのやら。
 馬込さんの案内で中ホールに入ってみると、中には六人の男達がいて、その半数は馬込さんや三ツ矢さん達とと同じ、神田部家に仕える人、つまりはディーラーと見て分かる。
 残りの三人に羽柴が含まれている。ということは、対戦相手は羽柴? でも、それなら残りの二人の男は何だろう。年齢はやや高めの西洋人と、ロン毛で軽そうだが切れ者っぽいめつきの若い日本人(多分)が一人ずつ。どちらもトーナメント参加者だと見なして、何らおかしくない。
 と、そのとき、背後でホールの扉がきっちり閉ざされた。こりゃあ僕が一番遅くに来たんだなと察した。とりあえず、言い訳込みで謝っておこう。
「遅れてすみません。ちょっと番外戦をやらされていたもので」
 羽柴を含めた三人が振り返った。いずれの顔も、特段怒っているとか不機嫌になっている気配は漂わせていない。笑ってもいないが、これは勝負を目前に控えているのだから当然だろう。ひとまずほっとして、羽柴に近付く。
「どうなってるん?」
 室内の雰囲気から、ひそひそ声で聞いた。
「分からない」
 羽柴はどこか楽しそうな笑みを浮かべつつ、首を横に振った。
「ディーラー連中も教えてくれないんだよ。二回戦というか準決勝の組み合わせ抽選でもやるのかと考えたんだが、それなら当初からここに集まるように言われるだろう」
「うん。あ、一回戦ではフォロー、サンクス。助かったよ」
「なんのなんの。あれはおまえの意思とは関係ないところで、勝手にやったことだからな。今後、もし使える場面が訪れて、必要であれば躊躇なく使う。そして恩義に感じているのであれば、俺がピンチのときは助けてもらうぜ」
「もちろんさ。君が対戦相手でなければね」
 僕が答えた矢先、黒い影が差した。その方向を振り返ると、さっき言及した西洋人がぬっと立っていた。続いて、もう一人の日本人もゆっくり歩いてくる。
「主催する神田部家には、どうも手前勝手なところがある」
 その日本人が言い放ち、適度な距離のところで立ち止まった。
「人を急かせておきながら、何が行われるのやら、説明はまだのようだから、トーナメント参加者同士、先に簡単に自己紹介でもしておきませんか」
 やっぱり、参加者だったか。
 僕と羽柴が、いいですよとハモって答えると、提案した日本人も外人さんも軽く笑った。
「お二人は実に仲がよいようで。えーでは、言い出した私から自己紹介をしましょう。板文博士いたぶみひろしと言います。トレーダーを気取っていたが、恐慌のときに対処しきれず大損を出してしまって。ギャンブルに転向したら何故だか知らないがよく勝てましてね。神田部貴一さんのお目に留まったようなんです」
 この程度の自己紹介でいいのか。本当に簡単だ。彼に続いて羽柴、僕の順で名乗った。
 最後に西洋人。頭一つ分以上背が高く、文字通り頭抜けている。年齢は恐らく四人の中では一番高齢で、三十代後半から四十半ばではないか。尤も、顎から頬に掛けてを覆う白っぽい髭のせいで、年寄りらしく見えるということはあるかもしれない。
「自分はケイン・コストナーという名前です」
 若干、嗄れ気味の声で日本語が流れ聞こえた。ハスキーと言えばハスキーだ。
「アメリカ合衆国生まれですが、約三年前からは日本暮らしです。元心理学者、元詐欺師、そして作家をしています」
「え、詐欺師?」

 続く


※前回末尾での予告を違えて、休載がふた月となったことをお詫びします。以下、言い訳など。
 構想していた準決勝のゲームが、某漫画作品終盤のあるギャンブルと、内容は全然違うものの、対戦者達の置かれる構図が似ている気がしたので、これはまずいかもと判断し、取り止めた次第です。某漫画のコミックスが古本で値下がりするのを待って読んでいたので、知るのが今頃になってしまいました。
 代わりに捻り出したネタはまだ固まっていないため、今後の更新は間延びするかと思いますが、気長によろしくお願いします。今回の更新は、執筆継続の意思表示と受け取っていただけると幸いです。
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