コイカケ

崎田毅駿

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コイカケ2の19

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 顔を向けると彼は両手の平を上向きにし、それぞれに物を持つ仕種をした。天秤よろしく両手をゆらゆらさせ、じきにつり合う。それから右手の指で、1、○、○、○、○とサインを形作った。
 結構分かり易い合図で、僕はほっとした。狙いもちょっと考えれば理解できた。羽柴が僕を騙そうとしている可能性もあるが、少なくともゲーム序盤で裏切るメリットはあるまい。ここは乗ることにする。
「入札をお願いします。制限時間は初回で不慣れな点もあるでしょうから、三分とします。遅れた場合は、今回の入札権利を放棄したものと見なし、罰金の対象となります。制限時間内であっても全員の入札が確認された段階で締め切ります。やり直しは利きませんので、ご注意を」
 三ツ矢さんの声がホールに響く。全員が入札を終えるのに、二分と掛からなかっただろう。



「結果を発表します。最も高値を付けたのは4番で、二百万」
 何?という声が上がり、僕を含めた残り三名は4番の板文に注目した。当の板文は僕らの方を振り向くことなく、微動だにしないでいる。ただ、その横顔にはにやりと上を向いた口の形がはっきり浮かんでいた。
 それにしても……現時点で考えられる最高値での入札。絶対に二番目になりはしないのだから、端から落札する意図がないことになる。つまり、板文の狙いは、自らが半額の百万を失ってでも、二位の値を付けた落札者に二百万を支払わせ、破産に追い込むことにあったのだ。
「二番目に高値を付け、落札の権利を得たのは3番で、十万と二十五」
 コストナー氏が頭を抱える。彼も状況は当然飲み込めている。二十五という端数を加えた小細工がもの悲しく映る。
「なお、残る二人の入札は一万でした」
 この発表に、今度は板文が「何?」と声を上げた。腰を浮かせ気味になりつつ、三ツ矢さんに確認を取る。
「二人とも一万ということかい?」
「さようで。ルールに則り、この回の入札は不成立となりました」
 板文はがっかりしたように嘆息し、命拾いをした形のコストナー氏は「イエス、イエス」とガッツポーズ。実に分かり易い。
「参ったね」
 板文が僕と羽柴に声を掛けてきた。
「初っ端だから様子見の者が出ることは予想の範囲内だったが、まさか同じ値とは」
「偶然ですよ」
 羽柴はしれっと言い放った。無論、嘘だ。入札前のサインを受けて、僕と羽柴は一万円を付けたまでのこと。
「だがまあ、こちらにとっても悪くはない。二百万持っている僕のこの作戦、なかなかの脅威だと思うのだが、いかがかな」
 そうなのである。厄介極まりない策だと言える。資金をあまり減らす訳にもいかないだろうから、行使できるのは一度きりだと思うけれども、こういう策があるんだぞとちらつかされるだけでも、他の三人は二位を狙いにくくなり、萎縮してしまう。
「確かに悪くない策だと思いますけどね。あなただって、二位を何度か取らなきゃいけないんだから」
 僕が評するのへ、板文は鼻で笑うような仕種を見せた。
「いいんだ。手始めに一人、潰しておきたいだけだから」
「駆け引きを兼ねた雑談はそろそろ切り上げて、次に参りましょうか」
 三ツ矢さんの声が響いた。
「先程の『神棚』は不成立で流れてしまいましたが、いずれまた壇上にのぼることもあるかと思います。揃えるべきアイテムのヒントにもなりましょうから、ここは次の品を」
 合図で、別のディーラーがフリップ小脇に入って来た。同じ手順で頭上に掲げる。
「次は『静岡産のうなぎ』。さあ、入札をどうぞ。制限時間は二分とします」
 「静」の字が入っているということは、やっぱり「神田部静流」五文字の内の四つを揃えたらいいのか。

 つづく
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