それでもミステリと言うナガレ

崎田毅駿

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0-2 心理の足跡

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「どうも。じゃあ、反論があればいつでも受け付けるということで、続きを聞いてください。――このクラブに入って、諸先輩方の癖や行動パターンをそれとなく見て、記憶してたんですけれども、寺居先輩は験を担ぐ方ですよね。複数あるものの中から選ぶ局面では、4や9を避けて7か8を狙う。ドアは必ず右手で開ける――開けにくい位置関係にあった場合でも必ず。仏滅や十三日の金曜日を気にする、といった」
「それが? 程度の大小はあるかもしれないけれども、みんな似たり寄ったりじゃない?」
「いやあ、先輩は比較的徹底している方じゃないですか。一昨年の夏合宿は十三日の金曜日を含んでいるからという理由で辞退したそうですね。学園祭の当番がくじ引きで十三時からに決まり、変更が利かないと分かると、そのシフト表にあった『13:00~』という文字を線で消して、『PM1:00~』に直していた。あと、高校時代にはバレンタインデーが仏滅だったから、相手の男性には一日早く渡したとか」
「よく知っているわね。確かにその通りだけど、それが何? そんなにおかしい?」
「おかしくはありません。寺居先輩が先輩の行動基準に沿って振る舞っているから、おかしくない。でも、今回の冬合宿に参加したのはおかしいです」
「何が」
「僕が気付いたのはつい最近なんですけど、ほら、壁のカレンダーを見てください。十三日のところ。金曜日で仏滅となっているでしょう? 日程の中に十三日の金曜日かつ仏滅の日を含んでいるというのに、寺居先輩は真っ先に参加を決めた。先輩の行動原理に合っていない、ちょっと変です」
「それは……留学が決まったから、最後くらいは無理してでも参加して、みんなと思い出作りをしておこうとした、ではだめかしら」
「判断が難しいですね。何年も離ればなれになるのならまだしも、短期留学ですから。それにもう一つ、似たような不自然な心理の足跡を見付けたんですよ、僕……」
「……勿体ぶらずに、言ってみなさいよ」
「別に勿体ぶったのではなく、先輩の反応を見たかっただけなんですが。二人目の犠牲者となる木根さんがいなくなったとき、あなたはかなり早い段階で捜索を主張された」
「どこがおかしいの? 仲間がいなくなったら、捜すでしょうが」
「木根さんが阿賀さんを殺した犯人である可能性を考慮せずに、てんでばらばらに捜索を始めたのには少々違和感を覚えたです、はい。そこに加えて、真っ先に、空き部屋である十三号室を調べに走ったのも不思議でした。あれって、あの部屋に遺体があると知っていたからこそ、忌み嫌うナンバーの部屋でも駆け付けた」
「誤解よ。唯一の空き部屋と聞いていたから、一番に捜す気になったの。そもそも、万が一にも私が犯人だとして、どうして遺体のある部屋に一番に飛び込まなきゃいけないのかしら」
「犯行時、現場に証拠を残してしまった可能性を考えての振る舞いではないでしょうか? 被害者である木根さんの衣服に、寺居先輩のその長い髪の毛が付着した、あるいはその恐れがあった。だから無理をしてでも第一発見者になって、髪の毛が付いていてもおかしくない状況を作りたかった。事実、先輩はあのとき、木根さんの身体に取り縋り、髪を振り乱して泣いていました」
「……だとしたら、十三を嫌う私がわざわざ十三号室で殺人を起こしたことになるけれども?」
「逆なんじゃないでしょうか。これはまったくの想像になりますが、木根さんは阿賀さんが殺された時点で、寺居さんの犯行を疑った。このままだと次にやられるのは自分かもしれないという自覚もあった。でもそのことを公にすると、木根さん自身の立場も悪くなる。だから皆には黙って、あなたを口封じするか、脅すつもりであなたの嫌いな十三号室に呼び付けた。だけど寺居先輩もこの事態は想定内であり、充分な対策を準備していたから易々と木根さんも殺害できた……と、こんな風に考えてみました。
 験を担ぐこだわりのある人でも、一つや二つは目を瞑ることがたまにあるかもしれません。でも、これだけ重なるとどうでしょう。偶然も積み重なれば必然となる裏事情を疑るのが、真っ当な思考だと思います。もし納得の行く説明をすべてにしてくださるのなら、大人しく拝聴します」
「……無理っぽいわね」
「「「寺居っ!? まさかおまえ、本当に……?」」」
「最高の弁護士を雇えればどうにかなるかもしれないけれども、そんな伝や費用はないから。――まさか、あなたみたいな一年生に見抜かれるなんてね。あのとき、入部に反対しておけばよかったな、嫌な予感はあったのに」
「え?」
「あなたが入ると、部員数が十三人になるところだったの。でも、流君の入部に反対しても、そのあと新たな希望者が来れば同じことの繰り返しになるから、さっさと十三を終わらせて、十四人にした方がいいわと思ったのよね」

 ――0番目のミステリ、終わり
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