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8.見舞いと報告
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案外と落ち着いた声で答えた。これが父母や恋人であったらなら、遺体に抱きついておんおん泣くことも珍しくないが、主従のつながりであればそこまでいかぬものらしい。尤も、店の主が女中の遺体を見て、取り縋って泣き叫んだら、それはそれで二人の関係を怪しむべきかもしれない。
「確かか。髪型が違っていると思うが」
念押しの質問をする高岩。元五郎は首をゆるゆると左右に振り、
「見間違いようがありません。器量を買って、雇うと決めたのですから」
と再度、断言した。将来の看板娘に育てるつもりだった、ということか。
「およしの身内の者を知っておるか。いるのなら知らせてやらねばならん」
「当人の口から聞いた限りでは、両親ともに早くに先立たれて、独りだったと。住まいは、うちの店の一部屋を与えてやっていました」
「雇い入れる前はどうしていたか、分かるか?」
「いえ、詳しくは。あちこちの親戚を頼って、転々としていたとしか聞いておりませんでした」
「まことか。ならばしょうがない」
血縁のある者に知らせるにしても手間取りそうだ、と高岩は感じたか、眉間のしわを深くした。
「ではおよしがこのような目に遭う心当たりはないか」
「あ、あの、お役人様。こんな目とは……? 私、亡くなったと聞いただけでしたが、てっきり不幸な事故か何かだとばかり」
「ううん、そうであったな。実は、殺しの線が濃厚である」
「殺し」
絶句する元五郎。信じられないという思いが、顔に書いてあるようだ。
「細かい説明は今ここではせんが、殺されたと思って間違いない」
死因そのものははぐらかして、高岩は言い切った。
「ついては、橋元屋、そなたのところの客で、およしと深い仲になっていた客や、逆におよしに袖にされた客なんてのは、いなかったか。いれば正直に話すのだ」
「も、もちろん知っていることは包み隠さずお伝えする所存ですが、あいにくと私は店の繁盛と銭の計算が専らの仕事でして。お客様に関しては、女中頭が詳しいはずですから、彼女にお尋ねください」
「それもそうか。そういえば、今も店を開けているだろうに、主のそなたは外れても問題ないのだな」
「さようでございます。遣いに来られた方が気の回るお人で、店に飛び込んで来て声高に知らせるのではなく、裏に回ってこっそりと耳打ちしてくれたというのもありますが」
そう言うと当の男の姿を探すような仕種を見せた元五郎だったが、すでに帰ったあとらしく、どこにも見当たらなかった。
* *
「――てな具合に、高岩の旦那もそれなりに手際よくやっておられましたよ」
およしの遺体が空き家で見付かってから二日後、法助は堀馬佐鹿の邸を訪れた。事件の目処が立ったのと、堀馬の症状が回復に向かい出したと聞いたからである。
「手際よく、ねえ」
話を黙って聞いていた堀馬は短く呟くと、布団を肩からすっぽりと被り直し、熱い茶をすすった。
「いやもちろん堀馬さんとは段違いでしたが、そこはそれ、あの御仁なりに頑張っておられたという気遣いからの評ですよ。あ、私ごときが同心の高岩さんを畏れ多くも評価なんてするのは、ここだけの話だからでして」
「分かってるよ。んで? 殺しなのは明らかなんだ。誰の仕業なのか、目星は付いたのか」
「確かか。髪型が違っていると思うが」
念押しの質問をする高岩。元五郎は首をゆるゆると左右に振り、
「見間違いようがありません。器量を買って、雇うと決めたのですから」
と再度、断言した。将来の看板娘に育てるつもりだった、ということか。
「およしの身内の者を知っておるか。いるのなら知らせてやらねばならん」
「当人の口から聞いた限りでは、両親ともに早くに先立たれて、独りだったと。住まいは、うちの店の一部屋を与えてやっていました」
「雇い入れる前はどうしていたか、分かるか?」
「いえ、詳しくは。あちこちの親戚を頼って、転々としていたとしか聞いておりませんでした」
「まことか。ならばしょうがない」
血縁のある者に知らせるにしても手間取りそうだ、と高岩は感じたか、眉間のしわを深くした。
「ではおよしがこのような目に遭う心当たりはないか」
「あ、あの、お役人様。こんな目とは……? 私、亡くなったと聞いただけでしたが、てっきり不幸な事故か何かだとばかり」
「ううん、そうであったな。実は、殺しの線が濃厚である」
「殺し」
絶句する元五郎。信じられないという思いが、顔に書いてあるようだ。
「細かい説明は今ここではせんが、殺されたと思って間違いない」
死因そのものははぐらかして、高岩は言い切った。
「ついては、橋元屋、そなたのところの客で、およしと深い仲になっていた客や、逆におよしに袖にされた客なんてのは、いなかったか。いれば正直に話すのだ」
「も、もちろん知っていることは包み隠さずお伝えする所存ですが、あいにくと私は店の繁盛と銭の計算が専らの仕事でして。お客様に関しては、女中頭が詳しいはずですから、彼女にお尋ねください」
「それもそうか。そういえば、今も店を開けているだろうに、主のそなたは外れても問題ないのだな」
「さようでございます。遣いに来られた方が気の回るお人で、店に飛び込んで来て声高に知らせるのではなく、裏に回ってこっそりと耳打ちしてくれたというのもありますが」
そう言うと当の男の姿を探すような仕種を見せた元五郎だったが、すでに帰ったあとらしく、どこにも見当たらなかった。
* *
「――てな具合に、高岩の旦那もそれなりに手際よくやっておられましたよ」
およしの遺体が空き家で見付かってから二日後、法助は堀馬佐鹿の邸を訪れた。事件の目処が立ったのと、堀馬の症状が回復に向かい出したと聞いたからである。
「手際よく、ねえ」
話を黙って聞いていた堀馬は短く呟くと、布団を肩からすっぽりと被り直し、熱い茶をすすった。
「いやもちろん堀馬さんとは段違いでしたが、そこはそれ、あの御仁なりに頑張っておられたという気遣いからの評ですよ。あ、私ごときが同心の高岩さんを畏れ多くも評価なんてするのは、ここだけの話だからでして」
「分かってるよ。んで? 殺しなのは明らかなんだ。誰の仕業なのか、目星は付いたのか」
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