仮想空間に探偵は何人必要か?

崎田毅駿

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13.ルール変更が多過ぎる

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<はい、騒がない。まだ続きがあるんだ。だからもうちょい、静粛でいてくれたまえよ。
 追加の二つ目は、二番手に甘んじた入札者に対するペナルティ的支払いについて。これまでだと入札した額の半分を出せばよかったけれども、今回はそっくりそのまま入札額通りを払ってもらいます>
 きついな、という独り言めいた声が聞こえた。
<何にももらえないのに満額払うのは馬鹿らしくてきついかもしれないけれど、こっちだって落札額は二位の数値でいいと言ってるんだから、そこは我慢してもらわないといけない。さあて、追加の三つ目だ>
 まだあるのかよ、という空気になる。吹田の話しっぷりは委細かまわずと表現するのがぴったりだった。
<入札額はトップだけど複数チームが同額で並んでいた場合、それは全て無効になるよん。二チームが並んだ場合は、残りの一チームがカードを獲得。この場合、支払うディテクは当該チームが入札した額とする。また入札額トップで並んだ二チームについて、ペナルティ的支払いは免除する。
 で、三チームが同額入札をしたときはその回自体が無効と見なされ、入札のやり直しになる。だけどまあ常識的に考えて、端数を認めた入札でぴったり同じ額なんて起こらないから、気にしないでよろしい>
 吹田の声が途切れた。だが最早、参加者の誰もがまだ続きがあるに違いないと思い、待っている。
<――最後に四つ目>
 案の定である。しかしこの四つ目は、今までとは多少違っていた。
<これはルールの追加変更ではなく、ゲームの進め方についての話になるんだ。この第四の争奪戦からは、VRの世界にて競ってもらうとしよう>
「え、何のために?」
 高田が声を上げると、他の女性陣も続いた。
「ただ単に数を書いて入札するだけなのに、顔が隠れて、髪の乱れるヘッドセットを付けなくちゃいけないのかしら」
 これは片薙。近くで聞いていた桐生は「さすがアイドルだな」と思った。
「仮想空間では対戦相手の生の表情が見られない。この入札ゲームの数少ない見せ所である、読み合いの妙味が失われるのでは?」
 馳はゲームそのものをこき下ろした。これを受けて吹田が答える。
<僕は司会を仕事で引き受けてるだけだから詳しくは知らないけれども、不人気種目のてこ入れだそうだよ。素顔がお互い見えなくなるのはしょうがないけれども、ビジュアルはこれまで以上にリアルかつ美しいものに仕上がってるからその点は満足が行くんじゃないかな。それよりも肝心なことがある。次の入札ゲームで仮想空間の世界に入ったら、ずっとそのままの状態で進行していくことになっているんだ>
 そのままの状態って何だ。意味するところががすぐには飲み込めない。桐生はいくつかの可能性を検討し、「まさか、そのまま探偵ゲームに突入するってか?」と口走った。
<はいその通り>
 吹田の声に、何らかの乾いた音が重なる。司会者自身が拍手したようだが音だけだと分かりづらい。
<入札ゲーム、カードドラフト、そして本番の探偵ゲーム。全てを仮想空間で競ってもらおうということ。適宜、休憩時間は取るのでご安心を>
 そこはこれまでの探偵ゲームと変わらないようだ。技術的には飲食や排泄といった生理現象も、仮想空間内でリアルタイムに反映させることは可能だそうだが、コストを掛けてそこを凝っても、イベントとしての魅力の向上に貢献しないので採用していない。
<ついでに探偵ゲームでの追加機能もここで伝えておくよ。何せ、仮想空間に入ってもらったあとにくどくどと説明するのは、興ざめも甚だしいからね。あ、メモを取りたい人は取ってもいいけれど、そのメモはゲーム内には持ち込めないのであしからず。いざとなったらヘルプでルールを参照できるから、現時点で神経質になる必要はないよ>
 そうして吹田が披露したルール改定とそこから派生する注意事項は、次の通り。

・今までは探偵は常に安全地帯におり、犯人確保のための格闘はあっても、犯人から不意を突かれて襲われることはなかった。これを改め、睡眠時に限って探偵が襲われる可能性があるものとする。

・今まではパートナーではない探偵とも協力するのは自由としていたが、これを改め、開始から十二時間と、終了までの十二時間はパートナー以外の探偵と協力することを禁ずる。

・ライバルチームを蹴落とすために偽の手掛かりをこしらえたり、嘘の情報を吹き込んだりといった行為を認めないのはこれまで通りであるが、犯人と目した人物に罠を仕掛ける目的で嘘偽りを述べ、それが結果的に他のチームの者を騙す結果になっても、原則的にこれを覆すことはない。

 つづく
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