人を選ぶ病

崎田毅駿

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五.臨時代行すぐ消滅

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「まあね。そこまで言うのなら考えておくよ」
 面倒になってきたのでそうあしらってから、石上は持って来てくれた缶詰と果物とを今一度かかげ、「ありがたくもらっとく。何かお返しできればいいんだが、実家からの物となると気長に待っていてくれ」と礼を言った。
「気にしなくていいよ。こちとら食べ慣れている物ばかりっていうか、もう飽きが来てるレベルなんで、ひょっとしたらまた持って来るかも」
 それじゃと腰を上げた吾妻だったが、玄関ドアの方を向き開けて途中で顔を戻した。
「志熊先輩、どこ行ったか知ってる? さっき持って行ったんだけど、いなくて無駄足を踏んじゃったんだよね」
「あ、志熊さんなら今日から新しいバイトを入れたんじゃなかったかな」
「あれ? それって前に言っていたカフェだよね? 確か強面すぎて不採用になったと自虐的にこぼしていたのを聞いたんだけどな」
「それがあとから電話があって、やっぱり来てくれってなったとか新たに聞いた。欠員が出たみたいだ」
「ふうん。ま、今のご時世なら結構起こりえるかもなあ。変な病気が流行っているし」
「――そうだな」
 反応するまで間が開いた。そのことに吾妻も気が付いたらしく、さらに数秒経ってから「あ、ごめん。鏑木康太郎のことがありながら、こんな言い方しちゃって」と石上に謝ってきた。
 そう解釈してくれたのならありがたいと、内心、安堵する石上。感染経路が不明の奇病Xとはいえ、罹っていることを知られたらとてもこんな風な付き合いはできやしまい。
「身内じゃあるまいし、そこまで気にすることはないさ」
「そうか」
 吾妻はそれでも申し訳なく思ったらしく、気持ち、ぺこぺこする動作をしながら部屋を出て行った。
 それから三十分ほど経過した頃、アパートの住人が帰ってくるのが気配で分かった。物音が上の部屋から聞こえたので、志熊で間違いない。
 やけに早いなと、大学からバイト先のカフェまで、さらにカフェからこのアパートまでの時間をざっと概算してみた。実働一時間もないんじゃないか、これはいよいよ変だと話を聞きに行くことにした。
 ドアを出ところで吾妻が先行しているのに気付き、早歩きで追い付く。
「あ、石上君。先輩が帰って来たみたいだから、田舎からの荷物、もらってもらおうと思ってさ。君は?」
「帰りがちょっと早すぎると思うんだ。まさかバイト先でトラブルがあったんじゃないかと変な予感がしたものだから」
 訝しむ理由をざっと伝える。吾妻も得心した様子で、「そりゃ変だね」と小首を傾げた。二人して静かに志熊の部屋の前まで行き、ノックも控え目にした。
「志熊先輩、お帰りになったみたいなんで、田舎からの物、お裾分けにもらってもらおうと思いまして」
 機嫌が悪い場合を想定して緊張したのか、しゃべりがいささかおかしい吾妻。
 だが、案に相違して中からの返事は快活だった。
「おう、そりゃありがたい。入れ入れ」
 ドアを勢いよく開けて、中へと手招きする。石上がくっついてきていることも気にしていない様子だ。つなぎ風の外出着を脱ぎかけていたようだが、そのまま着直して応対してくれる。
「志熊さん、随分と帰りが早い気がしたんですけど何かあったんですか」
 機嫌がいい内にと、単刀直入に聞いた。
「あん? ああ、あった」
 お裾分けを吾妻から受け取り、片付けながら答える志熊。手が空いたところで、髪をかきむしった。
「店に入って店主の親父さんから段取りを聞いていたんだが、急に顔色が悪くなって椅子から前のめりに落ちちまってよ。他の従業員に聞いても持病なんてないみたいだし、救急車を呼んで搬送してもらって」
「へえ、大変だったんですね」
 吾妻が如才なく合いの手を入れる。
「いや、俺はそうでもないんだけどな。付き添っていったのは古株の従業員だったし、倒れたときの様子を説明しただけで帰れた」
「えっと、他の従業員やお客は残されたみたいに聞こえますが」
「客も帰されたが、従業員は全員検査を受けるように言われて、病院に直行させられたよ。当然、店は閉めたはず」
「検査ってまさか」
 石上と吾妻の声が揃った。志熊は厳つい顔でにやりと笑う。
「おうよ。例の奇病Xになった疑いがあるんだとよ、店主は」
 この台詞に固まる石上。一方の吾妻は「な、何で先輩は帰れたんです?」と身を引き気味に聞いた。
「国が内密に定めた基準があると言っていた。あ、だからこのあとの話は他言無用な。人に言いふらすのはもちろん、ネットで拡散させるのもなしだ」
 石上も吾妻も黙ってうなずく。
「病の正体不明、感染経路不明ってことで、感染者と何らかの接触があった人の内、これまでに亡くなった人についてつぶさに調べ上げた結果、発症から遡ること一週間以内に、六畳間ぐらいまでの広さの部屋で三十分以上、感染者と過ごしたという条件がだいたい当てはまるらしいんだ」
 その内密な調査結果を聞いて、石上は心中で首を傾げた。
(自分はその条件に当てはまらないはずだが。だいたいと言うからには例外もあるってことだよな)
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