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4.悪い意味で煮詰まる
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上目遣いに御厨の様子をうかがう。と、相手はすぐに首を横に振った。
「無理無理。あの部屋の中、じっくり見たことないだろ? 人が隠れられる空間なんてどこにもないぜ。絶対に気づかれる」
「気が動転していたら」
「いくら何でも、ない。本当に、さえぎる物は何もないんだからな。せいぜい、椅子の後ろぐらいだろうな。でもそこは、ボックス内を動き回る内に見たんだ」
「分かったわ。怪しい人影はどこにもなかったのね」
「いよいよ、奇妙な現象ってことになりそうだな」
何がおかしいのか、作ったような声で笑う大室。
「御厨君。警察で発表された以外に、何か気づいたことはないかね?」
「気づいたことですか……。あれも奇妙と言えば奇妙かな」
一人、うなずいている御厨。
「早く話しなさいよ」
「うるせえな。関係あるかどうか、考えてんだ」
礼南が急かすと、御厨は荒っぽい口調で答えた。普段の自分を取り戻したと言ったところか。
「その判断は私達がするわ。ねえ?」
大室に同意を求める。
「そうだな。頼むよ、御厨君」
「……同じ曲が記録されてたんです」
「と言うと?」
「『CRY-MAX』っていう曲が、七回連続でかかるように機械に入力されていました」
「カラオケに詳しいとは言えないんだが、その曲が気に入ってるんなら、七回連続でも不思議ではないとも思えるが」
高校生二人の顔を交互に見やる大室。
「七回は異常よ」
礼南は即座に否定した。
「たまたま四人の好みがいっしょで、一度ずつ、唱うにしたって、四回で充分。それが七回だなんて」
「その七回分は、すでに唱ったあとだったのかな?」
大室の質問に、御厨はすぐに答える。
「はい。人気の度合いを調べるため、カウントする仕組みになっていて、あとからでも記録を見れば分かるんです」
「『CRY-MAX』七回を唱い終わったあと、四人組は何か唱っていた?」
ふと思い付き、礼南は尋ねた。
「いや……。そう、七回連続のあとは、何も入力されていなかったよ」
「だったら、『CRY-MAX』を七回連続で唱ってから、四人の人達の身に何かが起こったことになるのね。これ、意味があるのかしら?」
大室の様子をうかがう。
「あるかもしれん。真っ先に思い付くのは、サブリミナル効果だな。『CRY-MAX』って曲、人気あるのだろうか?」
「大ヒットというわけじゃないですけど、それなりに人気ありますよ。あの店でも結構、かかっていたみたいだし」
「それじゃあ、サブリミナルの線はないな。他の客にも異変が生じているならまだしも、あの四人組だけに変事が起こるなんて、あり得ない」
「サブリミナルの仕掛けがされてたとして、大室さん、事件をどういう風に考えてるの?」
「現実的に考えてる。つまり……サブリミナル効果によって四人の精神に、ある意識が刷り込まれた。『隣の奴をマイクのコードで絞め殺せ』ってな具合かな。そんな意識に忠実に、四人が行動を開始したとすれば、マイクのコードを持って、絞め殺し合いになるだろう? 結果、三人が死に、一人はどうにか助かったが、そいつも精神にダメージが残った」
「なるほど。ボックスの内側から鍵がかかったままでも、それならどうにか説明がつきますね」
光明を見出したか、御厨の声が大きくなる。
「だが、他の客にはトラブルがまったく起きていないはず。起きていたら、全国各地で話題かつ騒ぎになっているはずだからな。この仮説は外れだろう」
「七回連続で聞いて、初めて効果が現れるようなサブリミナルはないんですか」
「聞いたことないな。たとえそういうことが起こったにしても、おかしい点が残る。『CRY-MAX』は当然、CDになってるだろう? そいつの出来を調べる連中がいるよな。七回ぐらい、悠に聞くんじゃないかね。それに、曲の売り込みをする場合を考えてみれば、何度も繰り返して聞いている輩はたくさんいそうだ。音楽関係者の中に、『CRY-MAX』を聞いた直後、周囲の人間の首を絞め始めたなんて奴がいれば、話は別だが」
あいにく、そういう話はどこからも伝わってきていない。
「カラオケ映像の方に仕掛けがされたとしても、同じことですよね」
「そうなるな」
行き詰まってしまった。
「他に何かないか。公表されていない情報」
「他ですか。ちょっと気になってるんですが、部屋のテーブルに、砂時計があったんですよ」
「気になるからには、店の物じゃないんだね?」
「もちろん。あのグループが持ち込んだに違いありません」
「砂時計の数は?」
礼南が聞いた。
「一つだけ。かなり大きめだったが、プラスチックの安物だな、あれは。多分、三分計だと思う」
「カラオケで時間を計るようなこと、あるのか?」
再び見渡す大室。高校生二人は、少し顔を見合わせ、共に首を振った。
「紅茶でも飲むのなら、いるかもしれないけど」
付け足す礼南。
「あと、カップラーメンかサウナだな」
大室は面白くもなさそうに吐き捨てた。
礼南は考えている内に、全然別のことを思い出した。
「四人が何を注文したのか、聞いてなかったわ」
「そうだっけか。四人とも酒だったぜ。女性二人はカクテル。ほら、チェリーを浮かべたあれさ。男の内、一人はビール。多分、運転役なんだろうな。もう一人の男は水割りだった」
「アルコールか。もしも酔っ払ったとしても、殺し合うとは思えない」
大室はここでも否定。
「どん詰まりってやつだな」
「無理無理。あの部屋の中、じっくり見たことないだろ? 人が隠れられる空間なんてどこにもないぜ。絶対に気づかれる」
「気が動転していたら」
「いくら何でも、ない。本当に、さえぎる物は何もないんだからな。せいぜい、椅子の後ろぐらいだろうな。でもそこは、ボックス内を動き回る内に見たんだ」
「分かったわ。怪しい人影はどこにもなかったのね」
「いよいよ、奇妙な現象ってことになりそうだな」
何がおかしいのか、作ったような声で笑う大室。
「御厨君。警察で発表された以外に、何か気づいたことはないかね?」
「気づいたことですか……。あれも奇妙と言えば奇妙かな」
一人、うなずいている御厨。
「早く話しなさいよ」
「うるせえな。関係あるかどうか、考えてんだ」
礼南が急かすと、御厨は荒っぽい口調で答えた。普段の自分を取り戻したと言ったところか。
「その判断は私達がするわ。ねえ?」
大室に同意を求める。
「そうだな。頼むよ、御厨君」
「……同じ曲が記録されてたんです」
「と言うと?」
「『CRY-MAX』っていう曲が、七回連続でかかるように機械に入力されていました」
「カラオケに詳しいとは言えないんだが、その曲が気に入ってるんなら、七回連続でも不思議ではないとも思えるが」
高校生二人の顔を交互に見やる大室。
「七回は異常よ」
礼南は即座に否定した。
「たまたま四人の好みがいっしょで、一度ずつ、唱うにしたって、四回で充分。それが七回だなんて」
「その七回分は、すでに唱ったあとだったのかな?」
大室の質問に、御厨はすぐに答える。
「はい。人気の度合いを調べるため、カウントする仕組みになっていて、あとからでも記録を見れば分かるんです」
「『CRY-MAX』七回を唱い終わったあと、四人組は何か唱っていた?」
ふと思い付き、礼南は尋ねた。
「いや……。そう、七回連続のあとは、何も入力されていなかったよ」
「だったら、『CRY-MAX』を七回連続で唱ってから、四人の人達の身に何かが起こったことになるのね。これ、意味があるのかしら?」
大室の様子をうかがう。
「あるかもしれん。真っ先に思い付くのは、サブリミナル効果だな。『CRY-MAX』って曲、人気あるのだろうか?」
「大ヒットというわけじゃないですけど、それなりに人気ありますよ。あの店でも結構、かかっていたみたいだし」
「それじゃあ、サブリミナルの線はないな。他の客にも異変が生じているならまだしも、あの四人組だけに変事が起こるなんて、あり得ない」
「サブリミナルの仕掛けがされてたとして、大室さん、事件をどういう風に考えてるの?」
「現実的に考えてる。つまり……サブリミナル効果によって四人の精神に、ある意識が刷り込まれた。『隣の奴をマイクのコードで絞め殺せ』ってな具合かな。そんな意識に忠実に、四人が行動を開始したとすれば、マイクのコードを持って、絞め殺し合いになるだろう? 結果、三人が死に、一人はどうにか助かったが、そいつも精神にダメージが残った」
「なるほど。ボックスの内側から鍵がかかったままでも、それならどうにか説明がつきますね」
光明を見出したか、御厨の声が大きくなる。
「だが、他の客にはトラブルがまったく起きていないはず。起きていたら、全国各地で話題かつ騒ぎになっているはずだからな。この仮説は外れだろう」
「七回連続で聞いて、初めて効果が現れるようなサブリミナルはないんですか」
「聞いたことないな。たとえそういうことが起こったにしても、おかしい点が残る。『CRY-MAX』は当然、CDになってるだろう? そいつの出来を調べる連中がいるよな。七回ぐらい、悠に聞くんじゃないかね。それに、曲の売り込みをする場合を考えてみれば、何度も繰り返して聞いている輩はたくさんいそうだ。音楽関係者の中に、『CRY-MAX』を聞いた直後、周囲の人間の首を絞め始めたなんて奴がいれば、話は別だが」
あいにく、そういう話はどこからも伝わってきていない。
「カラオケ映像の方に仕掛けがされたとしても、同じことですよね」
「そうなるな」
行き詰まってしまった。
「他に何かないか。公表されていない情報」
「他ですか。ちょっと気になってるんですが、部屋のテーブルに、砂時計があったんですよ」
「気になるからには、店の物じゃないんだね?」
「もちろん。あのグループが持ち込んだに違いありません」
「砂時計の数は?」
礼南が聞いた。
「一つだけ。かなり大きめだったが、プラスチックの安物だな、あれは。多分、三分計だと思う」
「カラオケで時間を計るようなこと、あるのか?」
再び見渡す大室。高校生二人は、少し顔を見合わせ、共に首を振った。
「紅茶でも飲むのなら、いるかもしれないけど」
付け足す礼南。
「あと、カップラーメンかサウナだな」
大室は面白くもなさそうに吐き捨てた。
礼南は考えている内に、全然別のことを思い出した。
「四人が何を注文したのか、聞いてなかったわ」
「そうだっけか。四人とも酒だったぜ。女性二人はカクテル。ほら、チェリーを浮かべたあれさ。男の内、一人はビール。多分、運転役なんだろうな。もう一人の男は水割りだった」
「アルコールか。もしも酔っ払ったとしても、殺し合うとは思えない」
大室はここでも否定。
「どん詰まりってやつだな」
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