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11.犯人不在?
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そうなると緑川が犯人だとしても、その狙いは最初から神取氏にあったはず……。神取氏がオーストラリアで仕事に当たっていた頃、緑川もオーストラリアを旅していたのだろうか。そして偶然、二人は知り合って、緑川が神取氏に何らかの殺意を抱くに至った……。
これもおかしい。神取氏の娘の誕生パーティの日に、殺人を決行せねばならない理由が分からない。これは緑川だけでなく、誰が犯人であっても言える。関わり合いになる人物が多くなるから?
たとえそういう理由からこんな日に殺人を決行したのだとしても、まだ壁はある。繰り返しになるが、緑川は犯行推定時刻、現場たる神取家にいなかった。アリバイが成立しているのだ。自動的に人を殴り殺し、そのあと消滅してしまうような機械的仕掛けがあれば話は別だが、実際にそんな物あるはずない。殺害方法が撲殺なのだ。小細工のしようがないだろう。
ここは一つ、アリバイのない人物に限定してしまっていいのではないか。そうなると、理恵子さんの言っていたように、デウィーバーを含めると容疑者は三人。デウィーバーから依頼を受けた私としては、被害者の妻・神取幸子か片岡の二人に絞っていい。いや、依頼者に不実があれば、それを暴いてもかまわないのだが、こと今回に限っては、私はそんな気は毛頭ない。
が、では残る二人に神取氏を殺す動機があるかというと、全く見当たらない。警察がデウィーバーを釈放したあと、目立った動きを見せていないことから、私の調査ぶりがまずいというわけでもないらしい。私のできることは全てやったつもりだ。関係者全員に当たった上、今度はその関係者らの生活ぶりや態度などに変化が見られないかまで聞き込んだのだが、犯人が分からない。手詰まりだ。今度の場合、動機が皆目見当着かないため、つかみどころがないというのが正直な印象である。
人の心が読めたら……。私は研究者時代のことを思い出した。そして次に、北川君の顔を思い浮かべた。
事件を嗅ぎ回っている男が、新しく若造を連れて来たのが気になるのだろう。相手は皆一様に、愛想笑いと共に怪訝な表情を見せる。
「そちらも調査員、ですか?」
代表する形で聞いてきたのは、片岡。
「そうです」
北川君が答える。自信に溢れた態度。先日、私が協力を頼んだとき、渋っていた彼とは別人のよう。人の死に関わることを強調したのが奏功したらしく、ようやく引き受けてもらったのだが。
片岡を筆頭に、神取氏の妻・幸子や娘の知子、緑川の四人は互いに顔を見合わせている。
私が北川君に頼んだのは、今度の事件で私が怪しいと考えている二人――片岡と神取幸子に対して、その心に「神取氏を殺害したか?」という質問をして、その答を引き出してほしいというもの。動機が分からないし、証拠も自力で見つけねばならないが、少なくとも犯人が誰かだけは分かるわけだ。
私は予定通り、その二人を含めた先の四人と雑談――名目上は聞き込み――を始めた。横目で北川君を見ると、彼は唇をきゅっと結んで、意識を集中させている様子。能力を発揮するには、よい状態とは決して言えない。対称となる人物の他にも人がいるし、静かに意識を集中することもできない。だが、時間をかければ問題ないと北川君は言う。北川君と初めて会ったときのことを思い出し、私はうなずけた。
「京極さん」
雑談を始めて二十分足らずといったところだったか。北川君が小さな声で呼びかけてきた。
「失礼」
私は一言断り、立ち上がった。北河君も続く。部屋を出て、彼から「結果」を聞くのだ。
廊下に出、部屋の扉をきちんと閉じたのを確認してから、なおかつ、声を低くして聞く。
「どうだった?」
「それが……」
言い淀む北川君。何だか、嫌な予感がした。
「あの人達の中に、犯人はいません。みんな、ノーの返事でした」
「……本当か?」
嘘のはずがないと分かっていながら、聞き返してしまう。
「はい……」
重い沈黙。
「片岡、神取幸子の両名が犯人じゃないのなら、残りの二人に。緑川なんかは、オーストラリアに行ったことがあるみたいだから」
「違うんです」
私の言葉は遮られた。
「僕、四人とも聞いてみました。全員、殺人なんかやっていません」
「……何だって……」
声を低くしているのが煩わしくなってきた。
「……心で嘘をつく、なんてことは……」
「できません。相手がそういう能力を持っているのなら別でしょうが……。まず、そういうことはないでしょうし」
「だったら、どういうわけなんだろう? あの四人の誰も犯人でないなんて」
デウィーバーではないと分かっていた。彼については、真っ先に北川君にやってもらって、ノーの答を引き出しているのだ。
「クラスメイトがいるでしょう?」
「ああ。だが、いくら何でも動機が……。それにアリバイもある」
分からない。と言って、いつまでも戻らないでいては、四人に不審に思われるだろう。私達は平静を装って、元の部屋に引き返した。
これもおかしい。神取氏の娘の誕生パーティの日に、殺人を決行せねばならない理由が分からない。これは緑川だけでなく、誰が犯人であっても言える。関わり合いになる人物が多くなるから?
たとえそういう理由からこんな日に殺人を決行したのだとしても、まだ壁はある。繰り返しになるが、緑川は犯行推定時刻、現場たる神取家にいなかった。アリバイが成立しているのだ。自動的に人を殴り殺し、そのあと消滅してしまうような機械的仕掛けがあれば話は別だが、実際にそんな物あるはずない。殺害方法が撲殺なのだ。小細工のしようがないだろう。
ここは一つ、アリバイのない人物に限定してしまっていいのではないか。そうなると、理恵子さんの言っていたように、デウィーバーを含めると容疑者は三人。デウィーバーから依頼を受けた私としては、被害者の妻・神取幸子か片岡の二人に絞っていい。いや、依頼者に不実があれば、それを暴いてもかまわないのだが、こと今回に限っては、私はそんな気は毛頭ない。
が、では残る二人に神取氏を殺す動機があるかというと、全く見当たらない。警察がデウィーバーを釈放したあと、目立った動きを見せていないことから、私の調査ぶりがまずいというわけでもないらしい。私のできることは全てやったつもりだ。関係者全員に当たった上、今度はその関係者らの生活ぶりや態度などに変化が見られないかまで聞き込んだのだが、犯人が分からない。手詰まりだ。今度の場合、動機が皆目見当着かないため、つかみどころがないというのが正直な印象である。
人の心が読めたら……。私は研究者時代のことを思い出した。そして次に、北川君の顔を思い浮かべた。
事件を嗅ぎ回っている男が、新しく若造を連れて来たのが気になるのだろう。相手は皆一様に、愛想笑いと共に怪訝な表情を見せる。
「そちらも調査員、ですか?」
代表する形で聞いてきたのは、片岡。
「そうです」
北川君が答える。自信に溢れた態度。先日、私が協力を頼んだとき、渋っていた彼とは別人のよう。人の死に関わることを強調したのが奏功したらしく、ようやく引き受けてもらったのだが。
片岡を筆頭に、神取氏の妻・幸子や娘の知子、緑川の四人は互いに顔を見合わせている。
私が北川君に頼んだのは、今度の事件で私が怪しいと考えている二人――片岡と神取幸子に対して、その心に「神取氏を殺害したか?」という質問をして、その答を引き出してほしいというもの。動機が分からないし、証拠も自力で見つけねばならないが、少なくとも犯人が誰かだけは分かるわけだ。
私は予定通り、その二人を含めた先の四人と雑談――名目上は聞き込み――を始めた。横目で北川君を見ると、彼は唇をきゅっと結んで、意識を集中させている様子。能力を発揮するには、よい状態とは決して言えない。対称となる人物の他にも人がいるし、静かに意識を集中することもできない。だが、時間をかければ問題ないと北川君は言う。北川君と初めて会ったときのことを思い出し、私はうなずけた。
「京極さん」
雑談を始めて二十分足らずといったところだったか。北川君が小さな声で呼びかけてきた。
「失礼」
私は一言断り、立ち上がった。北河君も続く。部屋を出て、彼から「結果」を聞くのだ。
廊下に出、部屋の扉をきちんと閉じたのを確認してから、なおかつ、声を低くして聞く。
「どうだった?」
「それが……」
言い淀む北川君。何だか、嫌な予感がした。
「あの人達の中に、犯人はいません。みんな、ノーの返事でした」
「……本当か?」
嘘のはずがないと分かっていながら、聞き返してしまう。
「はい……」
重い沈黙。
「片岡、神取幸子の両名が犯人じゃないのなら、残りの二人に。緑川なんかは、オーストラリアに行ったことがあるみたいだから」
「違うんです」
私の言葉は遮られた。
「僕、四人とも聞いてみました。全員、殺人なんかやっていません」
「……何だって……」
声を低くしているのが煩わしくなってきた。
「……心で嘘をつく、なんてことは……」
「できません。相手がそういう能力を持っているのなら別でしょうが……。まず、そういうことはないでしょうし」
「だったら、どういうわけなんだろう? あの四人の誰も犯人でないなんて」
デウィーバーではないと分かっていた。彼については、真っ先に北川君にやってもらって、ノーの答を引き出しているのだ。
「クラスメイトがいるでしょう?」
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