ホシは誰だか知っている、が

崎田毅駿

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10.聞き込み

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 あまりにも即座に、かつきっぱりと断言されてしまったので、私はごみを放れなかった。もうディスカッションによる刺激も受けたことだし、そのまま外出しようと決めた。行き先は――。
「片岡? あいつがどうかしたの?」
 学生食堂で会った男子学生は、最初から馴れ馴れしかった。まあ、その方が聞き易い。
「この頃、彼、おかしなところないかな?」
「おかしなところって?」
 うむ。思っているほど、話が進まない。
「六月二十日以降、いつもと違うなって言えるような態度とか話し方とか、なかったかな」
「……なかったなあ、そんなことは」
 しばらく考えていた彼は、疲れたように返事をよこした。
「そうかい……。あと、緑川って人、知っているかな?」
「男? 女?」
「女性で、ここの学生なんだけど……。三回生」
「いや、聞いたことないな。ここ、結構学生数多いし」
「くどいようだけど、確認させてほしい。片岡君が緑川という人のことを口にしているのを聞いた覚えもないだろうか?」
「ないっすよ」
 面倒臭くなったか、彼は頭を後ろに反らし気味になった。
 ここらが潮時と思い、私は礼の言葉とジュース代を残し、席を立った。
 他にも何人かに当たって、片岡と緑川に深いつながりはないらしいとの感触を得た。片岡が犯人でないかどうかまでは、まだ分からないが。
 ついでに、私は緑川の友人にも会っておくことにした。
「みどりのこと? そうねえ」
 そう切り出したこちらの友人は察しがよく、私が皆まで聞かない内に、勝手に喋ってくれた。と言っても、得られた結果は、緑川の態度等におかしな様子は見られないということで終わった。
「ねえ、おじさん」
 私をおじさん呼ばわりした彼女は、おばさん臭い物腰と手つきである。
「殺人事件の調査してるの?」
 どうして知っているのだろう。不思議に思って、聞き返してみた。
「だって、新聞にも載ったし、みどり自身、話してたから」
「なるほど。彼女自身が」
 どうやら被害者が身内でもなければ、殺人事件は友人に自慢できるネタだと見える。片岡が吹聴していないらしいのとは対照的である。
「あの事件、終わったんじゃないの? 名前忘れたけど、外人が捕まって」
「終わっていないんだ」
 必要最小限の答を返し、この場を立ち去ろうとした。が、相手の女学生はかまわず話を続けている。
「ふうん、そうなの。オーストラリア人よね? みどり、オーストラリアに行ったことあるから、その関係かなと思っていたんだけど、実際はどうなの?」
「緑川さんは、オーストラリアに行ったことがあるのかい?」
 少しに気になって、私は再び腰を下ろした。
「そんなこと言ってたわ。高校の頃の話だって」
「……」
「ねえ、それよりも、あの外人、みどりとは関係ないの?」
「あ、ああ。あの人は亡くなった人の知り合い。緑川さんがオーストラリアに行ったときの話、他に何か聞いていない?」
 手がかりに乏しいこともあって、私は食い下がった。
「聞いていないわ、そんな詳しくは。直接聞いたらいいじゃない。どうせ、みどりとも会ってるんでしょ?」
 どうやらこれ以上は無理らしい。まあ、ケーキセットで引き出した情報にしては、上出来か。
 私は緑川の友人と別れてから、しばらく考えた。
 緑川がオーストラリアに行ったことがあるっていうのは初耳だ。緑川自身が話さなかったことを、どう考えるべきか。最近では海外旅行なんて常識で、わざわざ言うほどでもないのかもしれない。でも、気になる。例えば、オーストラリアで緑川はデウィーバーと出会っていた。デウィーバー自身は彼女を知らなかったが、デウィーバーに対して何らかの恨みを持った緑川が、彼に罪を被せるために……。
 いや、それではしっくりこない。仮に事件の日、何年かぶりに緑川とデウィーバーが再会して、緑川の眠っていた恨みが呼び覚まされたとしても、どうして神取氏を殺して、デウィーバーに罪をなすりつける等というややこしい手順を踏まねばならないんだ。デウィーバー自身を狙うのが自然じゃないか?
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