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7.少女
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ライトについてのさっきの推論は伏せておくことにした。なお、あのあとすぐにライトの固定されていた場所が調べられ、何の細工の痕跡もなかったことが判明している。
「風雲、急って感じだね」
何故か愉快そうにしている杠葉。俺は彼の言葉は無視した。
「テレビ局の人間かと思っていたが、分からなくなった。昨日はあっち、今日はこっちという風に局を変われるもんじゃない。たとえバイトだとしても、そんな都合よくできるはずがない」
「言われてみればそうですね。おかしい……」
俺の意見に長辺はうなずくが、杠葉は我関せずの体だ。
「どこから手を着けていいのか、分からなくなったな。ちょっと離れて、違う角度から攻めてみたいんだが、いいかな、長辺さん?」
俺の申し出を、マネージャー氏は心底驚いて受け止めたらしい。彼は目を大きく見開いた。
「で、ですが、あなたがいないと、私一人じゃ護りきれませんよ」
「自分がいたって、ライトが落ちてきた。大丈夫、何人いようがやられるときはやられる、無事なときは無事なんだ」
我ながらいささか無責任な言葉を吐いたものだ。
「ででも、は犯人の手口はエスカレートしています。これ以上過激な方法になったら、とても私一人じゃ」
どもりがはっきりとしてくる長辺。落ち着かせるために、希望的観測を断定的に述べる。
「何とかする。心配しなさんな、この調査で手がかりが掴めるはずなんだ。だから、俺に別行動を取らせてほしい」
「そうですか……」
長辺は杠葉へ目を向けた。
「達也はそれでいいか」
「別に……」
ふてくされたような杠葉。また生意気な態度に戻っている。
「自信がない人には下りてもらえばいい」
「言ってくれるね」
俺は軽くにらんでやった。別にガキ相手に本気になるつもりはないが、人と人との関係には節度が必要である。
びくっとして全身を引く杠葉。ここらでいいだろう。
「じゃ、そこの角で降ろしてもらいますか」
俺は手をひょいと挙げ、さっさと車から降りてやった。
別角度から調べると言ったのは、目算があってのことだ。
杠葉の彼女――名を島原明奈と言った――に会ってみるつもりなのだ。その娘に会えば、杠葉の普段の顔が分かるかもしれない。そして、杠葉が自覚していない周囲の人間関係から、何かが新しく見えてくることを期待しているわけだ。
「あなたが探偵さん?」
島原は物珍しそうにしている。彼女の前には色々ごちゃごちゃつまったパフェがあり、俺の前にはブラックコーヒーがある。窓の外を眺めると、夕闇の迫る気配が少しだけ感じられた。
「そうだが、この私が探偵だと知っているということは、杠葉から連絡があったんだね?」
言外に咎める響きを含んだような、分別くさい言い種になってしまった。まあいい、必要なことだけ聞き出せばいいのだ。
「そう。達也、適当にあしらっとけって言ってたけど、私、探偵にも興味あるから」
脈絡に乏しい文章だった。だが、杠葉がこの娘を気に入ってるのも分かる気がした。
「それで何を」
「聞きたいの?」という続きの言葉は、スプーンにのせたクリームとともに飲み込んでしまったらしい。
「杠葉達也の普段が知りたくてね」
「――あなた、本当に探偵? まるで芸能週刊誌かなんかの記者みたいだ」
アイスの冷たさに片目をつぶりながら、島原はずけずけと言う。
「そんな発言をするところをみると、君は芸能週刊誌の記者に取材を受けたことがあるのかい?」
「は」
ころころ笑い始める島原。
「そりゃそうよね。そんな経験ないのに言ったらだめだな。でも、ほんと、相原さんって記者っぽいんだから」
俺もつられ、笑った。いい歳した大人の男が、こんな小娘相手に笑っているのは、端から見れば変だろう。だが、話に弾みが着くのならよしとする。
「達也はね、ふつーだよ」
「普通?」
「そう。テレビなんかで見せてるのは嘘、この世を忍ぶ仮の姿」
冗談のように続ける。とにかく聞こう。
「風雲、急って感じだね」
何故か愉快そうにしている杠葉。俺は彼の言葉は無視した。
「テレビ局の人間かと思っていたが、分からなくなった。昨日はあっち、今日はこっちという風に局を変われるもんじゃない。たとえバイトだとしても、そんな都合よくできるはずがない」
「言われてみればそうですね。おかしい……」
俺の意見に長辺はうなずくが、杠葉は我関せずの体だ。
「どこから手を着けていいのか、分からなくなったな。ちょっと離れて、違う角度から攻めてみたいんだが、いいかな、長辺さん?」
俺の申し出を、マネージャー氏は心底驚いて受け止めたらしい。彼は目を大きく見開いた。
「で、ですが、あなたがいないと、私一人じゃ護りきれませんよ」
「自分がいたって、ライトが落ちてきた。大丈夫、何人いようがやられるときはやられる、無事なときは無事なんだ」
我ながらいささか無責任な言葉を吐いたものだ。
「ででも、は犯人の手口はエスカレートしています。これ以上過激な方法になったら、とても私一人じゃ」
どもりがはっきりとしてくる長辺。落ち着かせるために、希望的観測を断定的に述べる。
「何とかする。心配しなさんな、この調査で手がかりが掴めるはずなんだ。だから、俺に別行動を取らせてほしい」
「そうですか……」
長辺は杠葉へ目を向けた。
「達也はそれでいいか」
「別に……」
ふてくされたような杠葉。また生意気な態度に戻っている。
「自信がない人には下りてもらえばいい」
「言ってくれるね」
俺は軽くにらんでやった。別にガキ相手に本気になるつもりはないが、人と人との関係には節度が必要である。
びくっとして全身を引く杠葉。ここらでいいだろう。
「じゃ、そこの角で降ろしてもらいますか」
俺は手をひょいと挙げ、さっさと車から降りてやった。
別角度から調べると言ったのは、目算があってのことだ。
杠葉の彼女――名を島原明奈と言った――に会ってみるつもりなのだ。その娘に会えば、杠葉の普段の顔が分かるかもしれない。そして、杠葉が自覚していない周囲の人間関係から、何かが新しく見えてくることを期待しているわけだ。
「あなたが探偵さん?」
島原は物珍しそうにしている。彼女の前には色々ごちゃごちゃつまったパフェがあり、俺の前にはブラックコーヒーがある。窓の外を眺めると、夕闇の迫る気配が少しだけ感じられた。
「そうだが、この私が探偵だと知っているということは、杠葉から連絡があったんだね?」
言外に咎める響きを含んだような、分別くさい言い種になってしまった。まあいい、必要なことだけ聞き出せばいいのだ。
「そう。達也、適当にあしらっとけって言ってたけど、私、探偵にも興味あるから」
脈絡に乏しい文章だった。だが、杠葉がこの娘を気に入ってるのも分かる気がした。
「それで何を」
「聞きたいの?」という続きの言葉は、スプーンにのせたクリームとともに飲み込んでしまったらしい。
「杠葉達也の普段が知りたくてね」
「――あなた、本当に探偵? まるで芸能週刊誌かなんかの記者みたいだ」
アイスの冷たさに片目をつぶりながら、島原はずけずけと言う。
「そんな発言をするところをみると、君は芸能週刊誌の記者に取材を受けたことがあるのかい?」
「は」
ころころ笑い始める島原。
「そりゃそうよね。そんな経験ないのに言ったらだめだな。でも、ほんと、相原さんって記者っぽいんだから」
俺もつられ、笑った。いい歳した大人の男が、こんな小娘相手に笑っているのは、端から見れば変だろう。だが、話に弾みが着くのならよしとする。
「達也はね、ふつーだよ」
「普通?」
「そう。テレビなんかで見せてるのは嘘、この世を忍ぶ仮の姿」
冗談のように続ける。とにかく聞こう。
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