闘技者と演技者

崎田毅駿

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2-11.意外な名

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「勝った方がプロレス界真の代表として、MMAに出るっていう理屈だ。俺の方はそういう名目でやるのもいいと思ったんだが、長辺さんがな。あの人はあくまでもプロレス内の人だから。あの身体があるんだし、ガチンコでも弱いわけがない。若くて動けていた頃は、真剣勝負でも強かったのに、本人の性格だな、そのつもりがまるでない」
「あのう、社長」
「ん、何だ」
「対抗戦をすること自体に、社長は反対ではないんで?」
「俺のいないところで、俺より目立つことをするな!って怒鳴り飛ばしたいところだが、MMAに出ると決めた俺が言っても、みんな言うこと聞くかね、あっはっは」
「笑い事じゃないですよ。タイミングを間違えたら、盛り上がるものも盛り上がらなくなるかもしれませんぜ」
「……それは俺がMMAで負けた場合を言っているのか」
 笑みをたたえたままの目で見据えられ、福田は何故か寒気を覚えた。
「滅相もない。自分が言いたいのは、MMAの殺伐とした空気に慣れた客がプロレスの会場に来ても、別物と察しちまうんじゃないかと」
「今どき、別物じゃないと思っている客の方が珍しいさ。細けえことは気にするな。プロレスにはプロレスなりの殺気あふれる試合ってのがある。道山先生から俺へと受け継がれた伝統のな。おまえらもイースタンプロレスのレスラーなら、できんはずがない」
「そ、そりゃもちろん、ですとも」
 口では肯定した福田だが、内心では実木社長、あんたは特別中の特別なんですよとため息交じりに指摘しておいた。
「留守にしている間、頼むぞ。ついでに、と言っちゃあなんだが、若い奴ら――本当の若手の中から何人か見繕って、MMA用の戦い方を仕込んでやってくれ。推薦したい奴はいるか? 誰でもいいぞ」
「え?……っと。答える前に、質問を一ついいですか」
「おう」
「そういうトレーニングをさせようってのは、試合に出すためですか、それとも社長のトレーニングに付き合わせるためですか」
「どっちもだ。ああ、俺だけじゃなく、海斗のトレーニングにも付き合わせるかもしれんがな。試合に出すのは、その中でも強い奴一人か二人。経験を積ませてやろう」
「そうですか……。一番即戦力になりそうなのは、自分の見るところ、鶴口なんですが――」
「ばかやろ。あいつはもうトップクラスの一人だろ。若手だよ若手」
「でしたら、モンゴルの」
 モンゴル相撲から転身した、プロレスラーとしてはまだちょぼちょぼのキャリアしかない選手の名を挙げようとしたら、
「ウルフ・カンはすでにリストに入れてある」
 と来た。
「あいつは技はまだまだだが、パワーがある。引っこ抜いてぶん投げる技は、MMAでも大いに有効だろ。他にないか。おまえならではの選択眼で、他の格闘技のバックボーンがない奴から選ぶとしたら」
 後付けで条件を出され、福田はちょっぴり苦々しく思ったが、表には出さない。
「すみません、そういう、MMAで通用するか否かなんて見方はしてこなかったもんで。自分は、若い連中に教えるのはいざというときに対処できるような技術――」
「それでいいんだよ。その手の技術の飲み込みが早い奴から、特に適したのを言ってみろ」
「と言われましても、ねえ。MMAには打撃に適応できる能力が必須でしょうが、そういった視点では見ていないわけで」
 昔の福田なら、「プロレスラーの頑丈さがあれば、多少の打撃を喰らったって平気で突進できる」と妄信していたが、現在は考えを修正していた。頑丈さにプラスして、ガードやカットなど防御のスキルがなければ、たいていはやられてしまう。福田自身、かつて異種格闘技戦としてプロのキックボクサーと対戦し、痛い目に遭ったことが二度ほどある。その経験から得た結論だった。
「いないか? いないんなら、よそから一人か二人、もらい受けようと思っているんだがな」
「え? よそからとは、一体何の格闘技ですか。レスリングか柔道ですか?」
 名前と実績のあるアスリートならまあいい。しかし、よそのプロレス団体からとなると、話が違ってくる。「うち(イースタンプロレス)にはMMAに適した若手がいないと」世間に受け取られるのは好ましい状況ではなかった。そのことは社長も承知のはず。だからこそ、福田は「レスリングか柔道ですか?」と聞き返した。
 実木からの返事は、鼻で笑うようなニュアンスを含んでいた。
「そんなとこから、簡単に“一人か二人”もらえるわけないだろ」
「ではどこから」
「志貴斗だ」
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