闘技者と演技者

崎田毅駿

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2-18.台本通りとアドリブと

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「ま、さっきも言った通り、流れ次第だ。今度の京都の興行を買ってくれたのは、M企画さんだろ? あそこには昔から世話になっている。それなりによいカードを提供してしかるべきだよな」
「そう、ですね。福田とのシングルを組みにくい流れのときは、どんなカードにすればいいのか……社長のお知恵、拝借できますか」
「おいおい、こういうのはお前の方が得意だろ。ファン目線で夢を見るプロレス業界人、それが新妻寿人の本質であり、神髄だと俺は思ってる」
「……お褒めの言葉、痛み入ります。ではいざというときの代替カード案として、実木社長とガイジンのタッグ結成を出してみたいと」
「ははあ、そう来るか」
 新妻の提案にニヤリと笑う実木。
「だが、おまえの考えているのはどうせマドックとのタッグ結成だろ?」
「そ、その通りです」
 実木のGPWFに挑んで敗北したマドックが軍門に降り、小石川戦に備えて協力するというシナリオだ。ずばり言い当てられては、先ほどの褒め言葉も帳消しだなと、新妻は痛感した。
「悪くはないが、それってつまり、福田が俺から寝返るのとほとんど変わらない、焼き直しみたいなもんじゃねえか。だったらいっそ、意外性のある男と組みたいね」
「意外性のあると言われましても、それ以前に社長と釣り合う外国人がマドック以外、今シリーズには……」
「いるじゃねえか。いや、来たじゃねえかと言うべきかな、ふふん」
 意味ありげに微笑を浮かべた実木から、その具体的な名前を聞き出すのには時間が掛かった。

 発表済みカードの一部変更を経て、宮城大会は滞りなく挙行された。
 セミファイナルに組まれた、GPWFヘビー挑戦者決定戦マドックvsアダニスは殴る蹴るが目立つラフな展開のあと、場外戦を経て、先にリングに戻ったマドックが、エプロンに立ったアダニスを捕らえて得意のブレーンバスターを敢行。が、アダニスがトップロープを掴んだことでバランスが崩れる。下敷きになったマドックをそのままアダニスがフォールに入り、レフェリーがカウント三つを叩く。しかしマドックの左足先が三段目ロープの外に出ており、場内騒然。マドックの抗議が認められてノーコンテストに変更された。無論、両者とも収まらず、次週での再戦が決定と相成る。
 メインイベントはタッグマッチ、実木&福田vs小石川&森内。この時点での格を言えば森内が一段劣るが、地元の出身とあって人気は抜群。かつて若手の番頭格だったのが、今では堅実なテクニックを駆使する業師の評価を得ていた。それでも最後に取られる――要するに負け役になるのは森内だと見るのが、大方の予想であったろう。
 実際はかなり違った。大歓声を受けて小石川と森内コンビがペースを握り、実木に集中攻撃を仕掛ける。再三のフォールや関節技もクリアしていく実木だが、中盤に入って“異変”が蠢き始める。実木がどれほどピンチに陥っても、福田が一切助けに入らないのだ。最初は実木が負けるはずないと信じているからカットに入らないとも思えたのだが、やがてこの“異変”が鮮明化する。森内にフォールの態勢に入られた実木が、自軍コーナーの福田を見ながら手招きで「カットに入れ!」と意思表示したにもかかわらず、福田はスルー。実木は自力で返すと、森内を放って自軍に戻り、福田に詰め寄る仕種を見せる。そして強引に福田とタッチ交代しようとするも、福田が拒否してエプロンから場外に降りてしまった。その隙を突いて、森内が実木に後ろからドロップキック。続けて、前につんのめった実木を背後から捕らえ、投げっぱなしジャーマンに切って捨てる。ふらつく実木を見て、小石川にタッチしようと森内は背中を見せた。隙を逃さないことでは、実木が森内よりも圧倒的に上だ。交代が成立する直前に、森内に絡みつくとコブラツイスト、さらにグランドへ移行し、一気にピンフォールを奪い、強引に試合を終わらせた。
 勝負が決したあとも技を解かず、締め上げる実木。これもまた異常事態だ。小石川が飛び込んでストンピングを見舞う。そこへカムバックした福田もやって来て、ようやく実木の援護に回るかと思いきや、小石川と同様に実木に蹴りを叩き込んだ。二人掛かりで踏み付けられてはたまらないと森内から離れた実木だったが、福田はその首根っこを捕らえる得意の一本足頭突きを続けざまに三発叩き込んだ。完全にダウンした実木は、そのままセコンド陣に押されてゴロゴロと転がり、強制的にリング下に避難させられた。
 戸惑いの色を表情に浮かべるのは小石川。大まかなストーリーは聞かされていたものの、二週続けて、アドリブを求められる状況となっていた。
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