54 / 58
2-17.世代交代の青写真
しおりを挟む
「ん、まあいいんじゃねえか。マドックとやるにしてもアダニスとやるにしても、マンネリ気味だし、注目の度合いで言えば、国技館に向けての露払いみたいなもんだろ。その一方で、ご当地初のヘビー級タイトルマッチと銘打てば大きな売りになるし、マンネリ気味の顔合わせでも多少は新鮮に映る」
そう言ってから実木は自尊心からか、間を置かずに言葉を継ぎ足した。
「もちろん、必要とあらば、マドックとのこなれたやり取り、お約束を排除して、真新しい戦いをやってのける自信はあるぜ」
「社長なら造作もないことでしょう、分かってますって。けど、そういう新しい戦いは国技館なんかでマドックと一戦やらなきゃいけなくなったときのために、取っておいてください。というか、社長としては次の防衛戦、マドックがご希望なんでしょうか。当初の予定通りと言っちゃあ予定通りですが」
「アダニスでも構わねえと思ってるよ。世代闘争って意味じゃあ、ガイジンの次世代トップの一人、アダニスとやるのも意味がある。問題っていうか肝心なのは、マドックがアダニスに抜かれることをよしとするか、じゃねえか?」
「それはまあ確かに。ではどちらが上がってくるか、連中に任せても構わないと?」
「いいよ。ああ、だが万が一、テレビ中継のある試合でガチをやろうとするんなら、事前に知らせるようにとだけ伝えておいてもらおうか。今後のこともあるし、アメリカでの仕事にも関連する話だから、連中がおいそれとガチでやるわけないけどな」
あるとすれば、本気で、つまりプライベートで仲違いしている場合くらいだ。しかしそれとて、マドックの絡む試合では可能性が低い。プライベートと仕事をきっちり分けてこなすタイプのレスラーだからだ。そして、たとえ相手が仕掛けて来ても対応できるだけの実力を備えているのが、ディッキー・マドックである。
新妻は忘れぬようにとメモ帳に書き付けてから、少し前に持ち上がった懸案事項を切り出した。
「すると、福田との一戦はどうしましょう、金沢の翌週は京都になっていますが」
「盛り上がり次第だな。場合によっちゃ、福田とは国技館の翌日、最終戦の後楽園ホールでやるのも悪くないと思い始めたところだ」
「ええ? 福田選手はそれ、よしとするんでしょうか? 予定では社長は国技館での小石川戦の直後、リング上でMMA出陣を高らかに宣言。当面のプロレスラストマッチが翌日の後楽園で、カードは未定ですが、六人タッグぐらいがちょうどよいかと思っていました。シングルよりも負担が少ないでしょうし、最後に肌を合わせておきたい、あるいは組んでみたいという選手が大勢いますから」
「MMAっぽい試合をやるのも一つの手じゃないか。そういうのなら、福田は適任だろう」
「それはちょっと……。お言葉になりますが、小石川とプロレスでの大一番を終えた翌日、福田とシングルでMMAっぽい試合をやるのは、比較される可能性が大です。下手すると、『どうして小石川拓人には、こういう厳しい極め技を使わなかったんだ?』となりかねません」
「今のファンはおおよそ、承知の上だと思うがな」
「純粋な少年少女のファンもいますよ。パーセンテージは低くても」
「わはは、確かにな。そういうファンの夢を壊さぬようにするのが大事か。ははは」
笑い声を引っ張る実木に、新妻は声を落として尋ねた。
「あの、それで福田とのシングルはどこに入れましょうか……?」
「そうだな。どうせなら、ノーテレビ、ノー配信、ノー収録の会場でいいんじゃねえの」
「え。それはそれで勿体ないというか……」
「その日の会場に来たお客さんにだけ見せる、というシチュエーションの方が、福田もやり易かろう。いや、やりやすいと言うよりも、好きにできるはずだ。その方があいつの強さがきっと出る」
全国のファンの目に触れる機会のある試合だと、福田は見られていること、魅せることを意識して、いくらかオーバアークションに走ったり、お約束の攻防に拘ったりするところがある。そういった諸々を気にせず、彼本来の力を存分に発揮できる環境を最優先にするならば、観客は少なければ少ないほどいいのかもしれない。
そう言ってから実木は自尊心からか、間を置かずに言葉を継ぎ足した。
「もちろん、必要とあらば、マドックとのこなれたやり取り、お約束を排除して、真新しい戦いをやってのける自信はあるぜ」
「社長なら造作もないことでしょう、分かってますって。けど、そういう新しい戦いは国技館なんかでマドックと一戦やらなきゃいけなくなったときのために、取っておいてください。というか、社長としては次の防衛戦、マドックがご希望なんでしょうか。当初の予定通りと言っちゃあ予定通りですが」
「アダニスでも構わねえと思ってるよ。世代闘争って意味じゃあ、ガイジンの次世代トップの一人、アダニスとやるのも意味がある。問題っていうか肝心なのは、マドックがアダニスに抜かれることをよしとするか、じゃねえか?」
「それはまあ確かに。ではどちらが上がってくるか、連中に任せても構わないと?」
「いいよ。ああ、だが万が一、テレビ中継のある試合でガチをやろうとするんなら、事前に知らせるようにとだけ伝えておいてもらおうか。今後のこともあるし、アメリカでの仕事にも関連する話だから、連中がおいそれとガチでやるわけないけどな」
あるとすれば、本気で、つまりプライベートで仲違いしている場合くらいだ。しかしそれとて、マドックの絡む試合では可能性が低い。プライベートと仕事をきっちり分けてこなすタイプのレスラーだからだ。そして、たとえ相手が仕掛けて来ても対応できるだけの実力を備えているのが、ディッキー・マドックである。
新妻は忘れぬようにとメモ帳に書き付けてから、少し前に持ち上がった懸案事項を切り出した。
「すると、福田との一戦はどうしましょう、金沢の翌週は京都になっていますが」
「盛り上がり次第だな。場合によっちゃ、福田とは国技館の翌日、最終戦の後楽園ホールでやるのも悪くないと思い始めたところだ」
「ええ? 福田選手はそれ、よしとするんでしょうか? 予定では社長は国技館での小石川戦の直後、リング上でMMA出陣を高らかに宣言。当面のプロレスラストマッチが翌日の後楽園で、カードは未定ですが、六人タッグぐらいがちょうどよいかと思っていました。シングルよりも負担が少ないでしょうし、最後に肌を合わせておきたい、あるいは組んでみたいという選手が大勢いますから」
「MMAっぽい試合をやるのも一つの手じゃないか。そういうのなら、福田は適任だろう」
「それはちょっと……。お言葉になりますが、小石川とプロレスでの大一番を終えた翌日、福田とシングルでMMAっぽい試合をやるのは、比較される可能性が大です。下手すると、『どうして小石川拓人には、こういう厳しい極め技を使わなかったんだ?』となりかねません」
「今のファンはおおよそ、承知の上だと思うがな」
「純粋な少年少女のファンもいますよ。パーセンテージは低くても」
「わはは、確かにな。そういうファンの夢を壊さぬようにするのが大事か。ははは」
笑い声を引っ張る実木に、新妻は声を落として尋ねた。
「あの、それで福田とのシングルはどこに入れましょうか……?」
「そうだな。どうせなら、ノーテレビ、ノー配信、ノー収録の会場でいいんじゃねえの」
「え。それはそれで勿体ないというか……」
「その日の会場に来たお客さんにだけ見せる、というシチュエーションの方が、福田もやり易かろう。いや、やりやすいと言うよりも、好きにできるはずだ。その方があいつの強さがきっと出る」
全国のファンの目に触れる機会のある試合だと、福田は見られていること、魅せることを意識して、いくらかオーバアークションに走ったり、お約束の攻防に拘ったりするところがある。そういった諸々を気にせず、彼本来の力を存分に発揮できる環境を最優先にするならば、観客は少なければ少ないほどいいのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
サウンド&サイレンス
崎田毅駿
青春
女子小学生の倉越正美は勉強も運動もでき、いわゆる“優等生”で“いい子”。特に音楽が好き。あるとき音楽の歌のテストを翌日に控え、自宅で練習を重ねていたが、風邪をひきかけなのか喉の調子が悪い。ふと、「喉は一週間あれば治るはず。明日、先生が交通事故にでも遭ってテストが延期されないかな」なんてことを願ったが、すぐに打ち消した。翌朝、登校してしばらくすると、先生が出勤途中、事故に遭ったことがクラスに伝えられる。「昨日、私があんなことを願ったせい?」まさかと思いならがらも、自分のせいだという考えが頭から離れなくなった正美は、心理的ショックからか、声を出せなくなった――。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる