闘技者と演技者

崎田毅駿

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2-16.予定は未定であり決定にあらず

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 残された小石川は途方に暮れかける。が、咄嗟に標的を新妻にチェンジした。
「どういうことですか?」
 これまた地声を張り上げ、新妻に詰め寄る。胸ぐらを掴まんばかりの勢いと迫力に、新妻は欧米人がやるような「押さえて、押さえて」のポーズをする。
「国技館、実木さんとやるのは俺じゃないんですか? 実木さんからフォールなら、前のシリーズ、俺だって取っている!」
 小石川の主張をファンは支持した。それは当然で、シリーズクライマックスの国技館で、実木vs外人よりも、実木vs小石川が見たいに決まっているし、そもそも師弟対決が確定事項だと思っていたのだから。
「も、もちろん、小石川選手の実績は尊重する」
 どもりながら新妻が応対する。彼は再び観客に向けて、マイクを取った。
「マドックとアダニスの勝者によるGPWF挑戦は、再来週の札幌大会。その勝者に小石川選手が国技館で挑戦する、という線で話をまとめたいと思いますが、如何でしょうか?」
 どうだと見得を切る新妻。拍手と歓声が沸き起こったが、中には「ノンタイトルでもいいから実木と小石川で発表してくれ~」みたいな声もちらほらあった。


 開幕戦のハプニングを受けて、二週目のテレビ中継がある宮城大会は、予定されていた実木vsマドックのシングルを解体。マドックvsアダニスの挑戦者決定戦をセミに据え、実木&福田vs小石川&水橋のタッグがメインに変更と発表された。


 宮城大会までは北上する巡業ルートを取る。第二戦の千葉大会では、外人対決も前哨戦を組んで盛り上げねばということで、マドック&坂上vsアダニス&ラッドが組まれたが、まともな試合にならず、五分足らずでノーコンテストに。山形大会ではマドック&ヘンダーソンvsアダニス&ラッド、福島大会ではマドックとアダニスがそれぞれジュニアヘビー級の外人を従えて、一勝一敗のスコアを記録。いずれの会場でも、この外人対決は受けていた。
「こりゃあ、マドックとアダニスのシングルを組むの、早まりましたかね」
 宮城大会前日、巡業に同行している新妻が、ホテルで実木の部屋を訪ねた。最終的な意思確認のためである。
「まだまだ外人対決で引っ張って、シリーズの盛り上げに一役買わせられるってか」
「はい。今シリーズ、マドックらにもスポットライトが当たるように企画したんですけど、ここまで盛り上がるとは予想していませんでした。日本人対決は確かに人気はありますし、支持されていますが、今年に入って散々やってきましたからね。そろそろ次の展開がほしいと、ファンは思い始めているんでしょうか」
「次の展開は、俺のMMAがあるだろ」
「あ、もちろんそれは言うまでもありません。現時点で表に出せるもので、という意味で、新しいもの、珍しいものを欲しているのは確かですよ」
「なら、好きなようにすりゃいい。マドックvsアダニスは今さら引っ込められんだろうから、一度は引き分けでさらに一週間後に再戦でいいだろ」
「すると、札幌大会のメイン、社長の相手が空白になりますが。あそこのハコはでかいですから、それなりの相手を用意しなくては」
「福田とやろう。元々、このシリーズで組む予定だったし、明日の宮城、タッグであいつが俺に牙を剥く予定なんだから」
「えっと、それだとちょっと順序に狂いが。福田はシングルの前に小石川と組んで、社長と当たる一戦を挟む予定でしたが」
「そうだったな。じゃあ、札幌のタイトル戦は中止だな。札幌で福田と拓に組ませて、俺と誰かとのコンビとやる。セミファイナルにマドックとアダニスの再戦を組めば、文句は出るまい」
「なるほど。あの、あと、外人の勝者の挑戦を受ける試合をどこに入れるか、ですが」
「札幌の次のテレビ中継はどこだ?」
「金沢です。GPWFヘビーのタイトルマッチが組まれたことは、かつて一度もありません。確か、先代の頃から、シングルヘビー級のタイトル戦は組まれていないんじゃないかな……」
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