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落ち着いて基本から
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五所川原刑事が見せた写真には、ビデオソフトのパッケージがくっきり写っていた。セーラー服姿の女性が縄で椅子に拘束された状態で、忍者か覆面レスラーみたいな格好の人物に胸などを触られているところだった。
女優名?も記してあって、名前・姓の順序でイニシャルを書くとM・S。
「本名ではないと思いますが、これってSMに掛けてあるんでしょうかね」
「知らんよ。検索だけではまるで出てこない。テレビ局の女子アナに同姓同名がいるが、もちろん違う人物だ。しょうがないんで、企画・制作のPという会社を調べてるんだが、やはり見付からない。ビデ倫マークがないし、もぐりなのかもしれん。とにかく、情報がさっぱりない」
「黎明期は、マークがないからもぐりというわけでもないみたいですが、いつ頃に制作されたのかも分からないと?」
「ああ。この名前の女優が他の作品に出ていたという記録もないようだし、手詰まりだ」
「ということは、関係者にこの女優と同じ名前がMなり名字がSなりの人はいないんですね?」
「そうだ。単純に、頭文字SMってやつもいない」
「ねえ、二人とも」
大前田あきらが不意に注意喚起してきた。
「いくら珍しいダイイングメッセージだからって、浮き足立ってるんじゃない? 栄尾口さんは事件の概要すらまだ何にも聞いてないでしょ」
「おお、そうだった」
五所川原刑事はメモ帳のページをいくらか戻った。
「今回はダイイングメッセージが絡んでいるので、関係者の氏名もなるべく本名で行く。被害者は勅使河原玄蔵、六十二歳。広い屋敷に独り暮らしの独身で、本来は塾講師だったのが、何人かの生徒の月謝を仮想通貨で受け取ったことで状況が一変。思いも寄らぬ値上がりにより一財産できた。その結果、塾をやめて趣味の世界に生きるようになった」
五所川原刑事の担当する事件の被害者が勅使河原……微妙に韻を踏んだような感じ、気にならないでもなかった栄尾口だが、言葉にはせずにおいた。
「趣味、ですか」
「ある種のコレクションだ。こう言うと、アダルトビデオを掴んで死んでいたぐらいだからそれのコレクションなんだろうと思うかもしれないが、違う。被害者は似たような物を集めるのを趣味としていた。世間で流行った物のパロディ的なネタ集めだな」
五所川原刑事は視線をメモにやった。
「たとえばお菓子では、『白い恋人』に対する『面白い恋人』。あるいは特撮。ウルトラマンにそっくりなスタルマンというプロレスラーがいて、その覆面を持っていた。アニメや漫画ともなると枚挙にいとまがないようで、主に海外の権利を侵していそうな作品を集めていたよ」
「じゃあ、『SMっぽいのが大好き』も『SMぽいの好き』のパロディというか、類似品として集めていた訳ですか」
「ああ。アダルトビデオだと他に、通常の地上波ドラマ『高校教師』をパロディにしたようなのがあって、しっかりコレクションしていたと聞いている。ともかくそういった品々を並べた部屋で暮らし、そして殺された」
「死因は何でした?」
「失血死だな。凶器はまだ見付かっていないが、首の辺りを鋭利な刃物で切られている。しばらくは息があったと見られるから、ダイイングメッセージを残しても不思議じゃない。問題のビデオソフトは被害者の身体の下に隠されるような形だったから、犯人が気付かずに立ち去った可能性は大いにある」
「被害者はコレクションの中から、このビデオに絞って手に取った様子でしたか」
「そう思えたね。ラックがあって、上から二段目の中程がちょうど一本分空いていたので、そこから取ったようだ」
続く
女優名?も記してあって、名前・姓の順序でイニシャルを書くとM・S。
「本名ではないと思いますが、これってSMに掛けてあるんでしょうかね」
「知らんよ。検索だけではまるで出てこない。テレビ局の女子アナに同姓同名がいるが、もちろん違う人物だ。しょうがないんで、企画・制作のPという会社を調べてるんだが、やはり見付からない。ビデ倫マークがないし、もぐりなのかもしれん。とにかく、情報がさっぱりない」
「黎明期は、マークがないからもぐりというわけでもないみたいですが、いつ頃に制作されたのかも分からないと?」
「ああ。この名前の女優が他の作品に出ていたという記録もないようだし、手詰まりだ」
「ということは、関係者にこの女優と同じ名前がMなり名字がSなりの人はいないんですね?」
「そうだ。単純に、頭文字SMってやつもいない」
「ねえ、二人とも」
大前田あきらが不意に注意喚起してきた。
「いくら珍しいダイイングメッセージだからって、浮き足立ってるんじゃない? 栄尾口さんは事件の概要すらまだ何にも聞いてないでしょ」
「おお、そうだった」
五所川原刑事はメモ帳のページをいくらか戻った。
「今回はダイイングメッセージが絡んでいるので、関係者の氏名もなるべく本名で行く。被害者は勅使河原玄蔵、六十二歳。広い屋敷に独り暮らしの独身で、本来は塾講師だったのが、何人かの生徒の月謝を仮想通貨で受け取ったことで状況が一変。思いも寄らぬ値上がりにより一財産できた。その結果、塾をやめて趣味の世界に生きるようになった」
五所川原刑事の担当する事件の被害者が勅使河原……微妙に韻を踏んだような感じ、気にならないでもなかった栄尾口だが、言葉にはせずにおいた。
「趣味、ですか」
「ある種のコレクションだ。こう言うと、アダルトビデオを掴んで死んでいたぐらいだからそれのコレクションなんだろうと思うかもしれないが、違う。被害者は似たような物を集めるのを趣味としていた。世間で流行った物のパロディ的なネタ集めだな」
五所川原刑事は視線をメモにやった。
「たとえばお菓子では、『白い恋人』に対する『面白い恋人』。あるいは特撮。ウルトラマンにそっくりなスタルマンというプロレスラーがいて、その覆面を持っていた。アニメや漫画ともなると枚挙にいとまがないようで、主に海外の権利を侵していそうな作品を集めていたよ」
「じゃあ、『SMっぽいのが大好き』も『SMぽいの好き』のパロディというか、類似品として集めていた訳ですか」
「ああ。アダルトビデオだと他に、通常の地上波ドラマ『高校教師』をパロディにしたようなのがあって、しっかりコレクションしていたと聞いている。ともかくそういった品々を並べた部屋で暮らし、そして殺された」
「死因は何でした?」
「失血死だな。凶器はまだ見付かっていないが、首の辺りを鋭利な刃物で切られている。しばらくは息があったと見られるから、ダイイングメッセージを残しても不思議じゃない。問題のビデオソフトは被害者の身体の下に隠されるような形だったから、犯人が気付かずに立ち去った可能性は大いにある」
「被害者はコレクションの中から、このビデオに絞って手に取った様子でしたか」
「そう思えたね。ラックがあって、上から二段目の中程がちょうど一本分空いていたので、そこから取ったようだ」
続く
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