栄尾口工はAV探偵

崎田毅駿

文字の大きさ
7 / 11

落ち着いて基本から

しおりを挟む
 五所川原刑事が見せた写真には、ビデオソフトのパッケージがくっきり写っていた。セーラー服姿の女性が縄で椅子に拘束された状態で、忍者か覆面レスラーみたいな格好の人物に胸などを触られているところだった。
 女優名?も記してあって、名前・姓の順序でイニシャルを書くとM・S。
「本名ではないと思いますが、これってSMに掛けてあるんでしょうかね」
「知らんよ。検索だけではまるで出てこない。テレビ局の女子アナに同姓同名がいるが、もちろん違う人物だ。しょうがないんで、企画・制作のPという会社を調べてるんだが、やはり見付からない。ビデ倫マークがないし、もぐりなのかもしれん。とにかく、情報がさっぱりない」
「黎明期は、マークがないからもぐりというわけでもないみたいですが、いつ頃に制作されたのかも分からないと?」
「ああ。この名前の女優が他の作品に出ていたという記録もないようだし、手詰まりだ」
「ということは、関係者にこの女優と同じ名前がMなり名字がSなりの人はいないんですね?」
「そうだ。単純に、頭文字SMってやつもいない」
「ねえ、二人とも」
 大前田あきらが不意に注意喚起してきた。
「いくら珍しいダイイングメッセージだからって、浮き足立ってるんじゃない? 栄尾口さんは事件の概要すらまだ何にも聞いてないでしょ」
「おお、そうだった」
 五所川原刑事はメモ帳のページをいくらか戻った。
「今回はダイイングメッセージが絡んでいるので、関係者の氏名もなるべく本名で行く。被害者は勅使河原玄蔵てしがわらげんぞう、六十二歳。広い屋敷に独り暮らしの独身で、本来は塾講師だったのが、何人かの生徒の月謝を仮想通貨で受け取ったことで状況が一変。思いも寄らぬ値上がりにより一財産できた。その結果、塾をやめて趣味の世界に生きるようになった」
 五所川原刑事の担当する事件の被害者が勅使河原……微妙に韻を踏んだような感じ、気にならないでもなかった栄尾口だが、言葉にはせずにおいた。
「趣味、ですか」
「ある種のコレクションだ。こう言うと、アダルトビデオを掴んで死んでいたぐらいだからそれのコレクションなんだろうと思うかもしれないが、違う。被害者は似たような物を集めるのを趣味としていた。世間で流行った物のパロディ的なネタ集めだな」
 五所川原刑事は視線をメモにやった。
「たとえばお菓子では、『白い恋人』に対する『面白い恋人』。あるいは特撮。ウルトラマンにそっくりなスタルマンというプロレスラーがいて、その覆面を持っていた。アニメや漫画ともなると枚挙にいとまがないようで、主に海外の権利を侵していそうな作品を集めていたよ」
「じゃあ、『SMっぽいのが大好き』も『SMぽいの好き』のパロディというか、類似品として集めていた訳ですか」
「ああ。アダルトビデオだと他に、通常の地上波ドラマ『高校教師』をパロディにしたようなのがあって、しっかりコレクションしていたと聞いている。ともかくそういった品々を並べた部屋で暮らし、そして殺された」
「死因は何でした?」
「失血死だな。凶器はまだ見付かっていないが、首の辺りを鋭利な刃物で切られている。しばらくは息があったと見られるから、ダイイングメッセージを残しても不思議じゃない。問題のビデオソフトは被害者の身体の下に隠されるような形だったから、犯人が気付かずに立ち去った可能性は大いにある」
「被害者はコレクションの中から、このビデオに絞って手に取った様子でしたか」
「そう思えたね。ラックがあって、上から二段目の中程がちょうど一本分空いていたので、そこから取ったようだ」

 続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

籠の鳥はそれでも鳴き続ける

崎田毅駿
ミステリー
あまり流行っているとは言えない、熱心でもない探偵・相原克のもとを、珍しく依頼人が訪れた。きっちりした身なりのその男は長辺と名乗り、芸能事務所でタレントのマネージャーをやっているという。依頼内容は、お抱えタレントの一人でアイドル・杠葉達也の警護。「芸能の仕事から身を退かねば命の保証はしない」との脅迫文が繰り返し送り付けられ、念のための措置らしい。引き受けた相原は比較的楽な仕事だと思っていたが、そんな彼を嘲笑うかのように杠葉の身辺に危機が迫る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

奇異なる事象万お委せあれ:奇異探偵社

崎田毅駿
ミステリー
高校生の礼南は、巫女姿で探偵をするという珍しいバイトに精を出している。社長の大室がこの度引き受けてきた依頼は、なんと礼南の同級生で幼馴染みでもある御厨からのものだった。何でも、御厨がバイトをしているカラオケボックスの一室で、四人の男女が首を絞められ、うち三名が死亡、一名だけどうにか命を取り留めたという。その部屋を担当していた御厨に容疑が向きかねない状況だったため、近場の探偵社に依頼を出したところ、たまたま礼南のバイト先だったようだ。幼馴染みの前で、首尾よく解決となるか?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...