栄尾口工はAV探偵

崎田毅駿

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本物か偽装か

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「ではこれが一番肝心だと僕は思うんですが、被害者が助けを呼ぼうとした形跡はありましたか」
「そこなんだよ。ないんだ」
 栄尾口が聞くと、五所川原の方も聞かれると分かっていたかのような応答をする。
「喉をやられたんだから声は出せないにしても、電話で助けを呼ぼうとするのが最もありそうだろ。なのにない。電話をいじった形跡はないし、パソコンも同様。無論、メールを送ってもいなかった。自分で応急手当を試みたのなら、救急箱に手が伸びるだろうに、それもまたなし。家を出ようとした様子も皆無だ」
「ないのなら、問題ですねえ。ダイイングメッセージが一気に、嘘っぽくなった。犯人による偽装である可能性を疑う方がいいかも」
「実を言えば、捜査会議でもそういう意見が出た。ただ、一方で解せない点もある。偽装なら、もっとはっきり、濡れ衣を着せたい奴の名前を示唆するメッセージを残すものじゃないかと」
「確かに。理屈です」
 腕組みをして考え込む栄尾口。まだ全然自信がない内から、とりあえず口を開いて意見を出す。
「たとえば、このソフトが被害者からのメッセージはなく、犯人からのメッセージだという線は?」
「その程度のことは当然、考え付くさ。被害者にSM趣味があって、そのことに不本意ながら付き合わされた人らの誰かが復讐した、とかなら分かり易いんだが、あいにくとそんな都合のいい事実はない。それにな、解せない点はまだある。このパッケージから出た被害者の指紋の付き方が自然で、とてもじゃないが他人が無理に掴ませたようには見えない。滴った血との兼ね合いで、科学的には偽装の可能性は低いという見解が出てる」
「うーん、ということは被害者が助けを求めなかった理由、原因を探った方がいいのかもしれません」
「なら、一番に考えられるのは、犯人が被害者が死ぬまで動けないように見張ったか拘束したっていうパターンだが……いや待て。それなら犯人は被害者がビデオソフトを手に取ったところを目撃したはず。そのままにして行くものか?」
「普通はしないでしょう。たとえどこが犯人自身を差し示しているのか分からなくても、犯人にとってダイイングメッセージは不気味です。ダイイングメッセージは破壊するに限る。――容疑者の中に視覚障害者はいませんよね」
「あん? ああ、いないな」
「アダルトビデオなんて汚らわしい、触るなんてとんでもない!的な潔癖症の人もいませんか」
「いたらとりあえず怪しいな。だがいないね。ついでに言っておくと、血がだめで、血に汚れた物は触れられないなんて奴も見当たらない」
「あ、それは最初から考えてません。そんな人が刺殺という手段を執るはずありませんから」
 栄尾口がさりげなく否定すると、五所川原は派手に舌打ちした。
「ふん。まあいいさ。その調子で、どんどん仮説を出してくれ。できればAVに関連したことの方がいいんだがな。捜査協力を依頼した名目が立つ」
「そう言われても。――君は何かないか」
 栄尾口は事務所にいる大前田あきらのことを思い出し、話を振った。
 彼女はずっとパソコンでネット検索を重ねていたようだった。
「助けを求めなかった理由は分からないけど、アダルトビデオの意味についてなら、思い付いたことはある」
「え」
 期待してなかったので、慌ててしまった。姿勢を崩しかけたが踏ん張り、椅子から立ち上がる。
「どんな思い付きだい?」
 五所川原と揃って、大前田のいる机を囲む。
「これ見て。サブカルチャーの取材や発信で有名な人のブログなんだけど、被害者の勅使河原氏も取材を受けてたみたい。一年近く前に」

 続く
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