9 / 10
9.不本意ながら競ってほしい
しおりを挟む
放課後、図書室に向かった。
とんでもない状況にあっても、とりあえずは彼――江上君にも会っておかないと。江上君とは会話を交わしたことも少ないので、本当は保子や理梨香に着いて来てもらいたい心境だったけど、フェアでないような気がしたから、やっぱり一人にした。
図書室の戸をそろりと開け、中に入る。
少し背伸び気味に、江上君を探す。
あれ? 記憶にある顔がない。
焦っていると、背中に声をかけられた。
「島川さん」
「はいっ?」
大声を出しそうになって、両手で口を覆う。
振り返ると、江上君がいた。でも、眼鏡をしていない……。
「あ、江上君」
「僕のこと、覚えてくれていたんですか」
びっくり目をしている江上君。久しぶりに話す彼は、丁寧語を使ってきた。
「もちろん、覚えてるわよ。一年のときは同じクラスだったじゃない」
「よかった。覚えてくれていて」
「あの、眼鏡はどうしたの? コンタクトにしたの?」
「はい。素顔の方が格好よく見えると言われ、変えてみたんですが」
眼鏡をしているときも充分、ルックスよかったけど、今の江上君はさらに三割増しだ。取っつきにくい印象は薄れ、人なつっこい笑みを浮かべている。
「おかしい?」
「ううん。今の方がいい」
「よかった。そ、それで……返事は……」
一転して、おずおずとした態度になる彼。一年生のときには見られなかった、江上君の別の面。
私、思わず、オーケーを出してしまいそうになった。首を振って、舞い上がりかけの気持ちを元に戻す。
「それがね、おかしなことになってて……」
事情を説明する。考えてみると、告白してきてくれた人に今の事情を話すのは、江上君が初めてなんだ。
「島川さん」
説明し終わると、何故か江上君は悲しそうに眉を下げた。
「断るのだったら、はっきり言ってください」
「ち、違うわ。本当のことよ」
慌てて両手を振る。
「信じにくい話かもしれない。私自身、そうだから。でも、本当。江上君さえよければ、これから他の三人にあってほしいんだけど」
「え?」
「勝手を言うようだけれど、私、四人みんなと付き合ってみたい。その上で、決めたい訳。だから、江上君達にも事情を知ってもらって、それでもいいっていう約束がほしいの」
「……分かりました」
大きくうなずく江上君。前髪が揺れた。
「僕はかまいません」
先に話しておいた江上君はともかく、他の三人は変な顔してる。無理ない。
「部活の途中で席を外してくれなんて言うから、何事かと思ったら」
先輩、怒ってる?
「普通なら、二年生の連中に担がれたと判断するところだ」
「何も知らねえって」
幸村は先輩にも、いつもの調子で口を利いてる。何てことするのよぅ。
「こっちだって、『狐につままれた』状態だぜ」
「あの朝、島川さんの様子がおかしいと思ったら、君がそんなことを言ってた訳だ」
佐々木君までも、いつもより言葉遣いが荒れている。みんなをご対面させるのは、やっぱりまずかったかしら……。
「あのなあ、佐々木。俺だっていい迷惑。折角、いいチャンスだと思って打ち明けたのに、ちっともうまくない」
「そっくり、同じ台詞を返す」
「二年のくせに、ませてるんだよ、おまえら」
収拾がつかなくなる前に、止めなきゃ。
「やめてよ。喧嘩する人、嫌いだから」
恥ずかしいのを我慢して言ってみたこの台詞、効果あったみたい。全員、静かになった。
調子に乗って、続ける。
「偶然で、こういうことになったんですけど、私の気持ちは、とにかくみんなのこと、先輩のこと、よく知りたい。だから、順番に付き合ってみたいんです。そういうやり方が嫌な人は、外れてください」
ちょっと変わった空気が流れる。
……ほっ。誰も出て行かなかった。
安堵する反面、みんな本気なんだと感じ取れて、緊張。安易に決められない。
「早速、決めようじゃないか。明日は誰だ?」
とんでもない状況にあっても、とりあえずは彼――江上君にも会っておかないと。江上君とは会話を交わしたことも少ないので、本当は保子や理梨香に着いて来てもらいたい心境だったけど、フェアでないような気がしたから、やっぱり一人にした。
図書室の戸をそろりと開け、中に入る。
少し背伸び気味に、江上君を探す。
あれ? 記憶にある顔がない。
焦っていると、背中に声をかけられた。
「島川さん」
「はいっ?」
大声を出しそうになって、両手で口を覆う。
振り返ると、江上君がいた。でも、眼鏡をしていない……。
「あ、江上君」
「僕のこと、覚えてくれていたんですか」
びっくり目をしている江上君。久しぶりに話す彼は、丁寧語を使ってきた。
「もちろん、覚えてるわよ。一年のときは同じクラスだったじゃない」
「よかった。覚えてくれていて」
「あの、眼鏡はどうしたの? コンタクトにしたの?」
「はい。素顔の方が格好よく見えると言われ、変えてみたんですが」
眼鏡をしているときも充分、ルックスよかったけど、今の江上君はさらに三割増しだ。取っつきにくい印象は薄れ、人なつっこい笑みを浮かべている。
「おかしい?」
「ううん。今の方がいい」
「よかった。そ、それで……返事は……」
一転して、おずおずとした態度になる彼。一年生のときには見られなかった、江上君の別の面。
私、思わず、オーケーを出してしまいそうになった。首を振って、舞い上がりかけの気持ちを元に戻す。
「それがね、おかしなことになってて……」
事情を説明する。考えてみると、告白してきてくれた人に今の事情を話すのは、江上君が初めてなんだ。
「島川さん」
説明し終わると、何故か江上君は悲しそうに眉を下げた。
「断るのだったら、はっきり言ってください」
「ち、違うわ。本当のことよ」
慌てて両手を振る。
「信じにくい話かもしれない。私自身、そうだから。でも、本当。江上君さえよければ、これから他の三人にあってほしいんだけど」
「え?」
「勝手を言うようだけれど、私、四人みんなと付き合ってみたい。その上で、決めたい訳。だから、江上君達にも事情を知ってもらって、それでもいいっていう約束がほしいの」
「……分かりました」
大きくうなずく江上君。前髪が揺れた。
「僕はかまいません」
先に話しておいた江上君はともかく、他の三人は変な顔してる。無理ない。
「部活の途中で席を外してくれなんて言うから、何事かと思ったら」
先輩、怒ってる?
「普通なら、二年生の連中に担がれたと判断するところだ」
「何も知らねえって」
幸村は先輩にも、いつもの調子で口を利いてる。何てことするのよぅ。
「こっちだって、『狐につままれた』状態だぜ」
「あの朝、島川さんの様子がおかしいと思ったら、君がそんなことを言ってた訳だ」
佐々木君までも、いつもより言葉遣いが荒れている。みんなをご対面させるのは、やっぱりまずかったかしら……。
「あのなあ、佐々木。俺だっていい迷惑。折角、いいチャンスだと思って打ち明けたのに、ちっともうまくない」
「そっくり、同じ台詞を返す」
「二年のくせに、ませてるんだよ、おまえら」
収拾がつかなくなる前に、止めなきゃ。
「やめてよ。喧嘩する人、嫌いだから」
恥ずかしいのを我慢して言ってみたこの台詞、効果あったみたい。全員、静かになった。
調子に乗って、続ける。
「偶然で、こういうことになったんですけど、私の気持ちは、とにかくみんなのこと、先輩のこと、よく知りたい。だから、順番に付き合ってみたいんです。そういうやり方が嫌な人は、外れてください」
ちょっと変わった空気が流れる。
……ほっ。誰も出て行かなかった。
安堵する反面、みんな本気なんだと感じ取れて、緊張。安易に決められない。
「早速、決めようじゃないか。明日は誰だ?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
文芸部なふたり
崎田毅駿
キャラ文芸
KK学園の文芸部は、今日もゆるい部活動に勤しむ。1.同部では毎月テーマを決めて部員達による競作を催しており、今回の当番である副部長が発表したお題は、「手紙」。この題材をいかにして料理するか。神林アキラと神酒優人は互いに生のアイディアを披露し合って、刺激を受けるのを常としているのだ。
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
化石の鳴き声
崎田毅駿
児童書・童話
小学四年生の純子は、転校して来てまだ間がない。友達たくさんできる前に夏休みに突入し、少し退屈気味。登校日に久しぶりに会えた友達と遊んだあと、帰る途中、クラスの男子数人が何か夢中になっているのを見掛け、気になった。好奇心に負けて覗いてみると、彼らは化石を探しているという。前から化石に興味のあった純子は、男子達と一緒に探すようになる。長い夏休みの楽しみができた、と思ったら、いつの間にか事件に巻き込まれることに!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる