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8.選び放題のはずが
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四時間目の前の休み時間には、何と、荻原先輩が私のクラスまでやって来たから、慌てた。
呼ばれて、廊下に出る。
あ、私、萎縮しちゃってる。
「……何を縮こまっているんだ」
「け、今朝のことなら」
「違う。こんなに早く、返事を聞きに来る奴なんていないぜ、普通。意識過剰と言うんだ」
手のひらで頭をぽんと、軽く叩かれた。
「じゃあ、いったい」
「部の話だ。名簿の整理、やっておいてくれないかな」
引き受けるかどうかの返事をしない内に、新旧二種類の部員名簿を手渡されてしまった。
「急がなくていいから」
「は、はい」
「頼んだぞ。じゃ」
言うだけ言って、先輩は足早に去って行った。
――私は選ぶ立場のはずよ。どうして、ここまで振り回される訳?
お昼。例によって、幸村は学食。佐々木君も今日は食堂利用らしい。
「ね、ね、ショウ。どうなった?」
ここぞとばかり聞いてくるのは、保子に利梨香。
「二人とも……」
「ん?」
「正直に答えてよ。私ってさあ、美人かな?」
「……はあ?」
表情を歪め、一旦、顔を見合わせてから、二人は私をしげしげと見てきた。
「それとも、性格が凄くいいかしら?」
「頭、大丈夫?」
「二人から告白されて、天狗になってるな、こいつ」
「ちっがーう!」
私は大声で否定すると、一転して声量を落とした。
「実は」
昨日の帰り際のラブレターと、今朝の先輩からの告白について、包み隠さず説明して聞かせた。
「作り話にしては、下手すぎるわね」
利梨香がウィンナーの玉子巻きを食べながら、もごもごと言った。
「作ってなんかないってばぁ。全部、本当」
「信じにくいよ、あまりにも」
保子が言う。信じがたい話だってことは、私にも分かっています。でも、事実は事実なんだから、曲げようがないじゃない。
「どうして急にもて始めたのか、気味悪いって訳ね」
利梨香がどうにか、まじめに応じてくれそう。
「気味悪いと言うか……うん。不自然なのよ」
「……私らから見て、ショウ、変わってないよ。ねえ」
「うん。ちっとも」
利梨香と保子は盛んにうなずき合っている。自分でも変わってないつもりだったけれど、そこまで簡単に、きっぱりと言われると、何か腹が立つ。
やがて保子が言った。
「ショウ、転校するとかってことない?」
「何よ、それ?」
「いやさあ、卒業や転校とかするってことになったら、もう会えなくなるかもしれないから、ショウに思いを寄せている男共が一斉に告白しても、まあ納得できるなと」
「……なるほど。でも、転校なんてしないわ、私。卒業はまだ先だし」
「荻原先輩みたいに、三年生ばかりが告白してきたのなら、筋道が通ったのに。惜しい」
「惜しいって、あのねえ……」
それは本末転倒というものよ。
「待ってよ。ショウが転校しなくてもいいんだわ。相手の男子が転校するかもしれない」
「そりゃあ理屈だけど、どこか変よ。今度は、私を気に留めてくれてる子が揃いも揃って同じ時期に転校する不自然さがあるじゃない」
「そうかあ」
結局のところ、納得のいく状況は見出せずじまい。
思わず、こぼす。
「占いが当たったとしか言い様がないのかな」
「占いって、何よ」
二人には言ってなかったんだと、思い出した。
「雑誌に載ってる週間占いのこと。よくあるでしょ。信じる信じないは別にして、何とはなしに毎週目を通していたのが、今週はぴたりと当たったみたいなの」
「何て書いてあった、それ?」
「待ってね。確か……思いも寄らない異性から告白されるとか、じっくり考えて結論を出すのがいいとか」
「思いも寄らないにもほどがあるってところか」
「……そうね」
苦笑いが出ちゃう。
占いを読まなかったら、こんなことにはなっていなかったかも。そうとさえ思えてしまう。
呼ばれて、廊下に出る。
あ、私、萎縮しちゃってる。
「……何を縮こまっているんだ」
「け、今朝のことなら」
「違う。こんなに早く、返事を聞きに来る奴なんていないぜ、普通。意識過剰と言うんだ」
手のひらで頭をぽんと、軽く叩かれた。
「じゃあ、いったい」
「部の話だ。名簿の整理、やっておいてくれないかな」
引き受けるかどうかの返事をしない内に、新旧二種類の部員名簿を手渡されてしまった。
「急がなくていいから」
「は、はい」
「頼んだぞ。じゃ」
言うだけ言って、先輩は足早に去って行った。
――私は選ぶ立場のはずよ。どうして、ここまで振り回される訳?
お昼。例によって、幸村は学食。佐々木君も今日は食堂利用らしい。
「ね、ね、ショウ。どうなった?」
ここぞとばかり聞いてくるのは、保子に利梨香。
「二人とも……」
「ん?」
「正直に答えてよ。私ってさあ、美人かな?」
「……はあ?」
表情を歪め、一旦、顔を見合わせてから、二人は私をしげしげと見てきた。
「それとも、性格が凄くいいかしら?」
「頭、大丈夫?」
「二人から告白されて、天狗になってるな、こいつ」
「ちっがーう!」
私は大声で否定すると、一転して声量を落とした。
「実は」
昨日の帰り際のラブレターと、今朝の先輩からの告白について、包み隠さず説明して聞かせた。
「作り話にしては、下手すぎるわね」
利梨香がウィンナーの玉子巻きを食べながら、もごもごと言った。
「作ってなんかないってばぁ。全部、本当」
「信じにくいよ、あまりにも」
保子が言う。信じがたい話だってことは、私にも分かっています。でも、事実は事実なんだから、曲げようがないじゃない。
「どうして急にもて始めたのか、気味悪いって訳ね」
利梨香がどうにか、まじめに応じてくれそう。
「気味悪いと言うか……うん。不自然なのよ」
「……私らから見て、ショウ、変わってないよ。ねえ」
「うん。ちっとも」
利梨香と保子は盛んにうなずき合っている。自分でも変わってないつもりだったけれど、そこまで簡単に、きっぱりと言われると、何か腹が立つ。
やがて保子が言った。
「ショウ、転校するとかってことない?」
「何よ、それ?」
「いやさあ、卒業や転校とかするってことになったら、もう会えなくなるかもしれないから、ショウに思いを寄せている男共が一斉に告白しても、まあ納得できるなと」
「……なるほど。でも、転校なんてしないわ、私。卒業はまだ先だし」
「荻原先輩みたいに、三年生ばかりが告白してきたのなら、筋道が通ったのに。惜しい」
「惜しいって、あのねえ……」
それは本末転倒というものよ。
「待ってよ。ショウが転校しなくてもいいんだわ。相手の男子が転校するかもしれない」
「そりゃあ理屈だけど、どこか変よ。今度は、私を気に留めてくれてる子が揃いも揃って同じ時期に転校する不自然さがあるじゃない」
「そうかあ」
結局のところ、納得のいく状況は見出せずじまい。
思わず、こぼす。
「占いが当たったとしか言い様がないのかな」
「占いって、何よ」
二人には言ってなかったんだと、思い出した。
「雑誌に載ってる週間占いのこと。よくあるでしょ。信じる信じないは別にして、何とはなしに毎週目を通していたのが、今週はぴたりと当たったみたいなの」
「何て書いてあった、それ?」
「待ってね。確か……思いも寄らない異性から告白されるとか、じっくり考えて結論を出すのがいいとか」
「思いも寄らないにもほどがあるってところか」
「……そうね」
苦笑いが出ちゃう。
占いを読まなかったら、こんなことにはなっていなかったかも。そうとさえ思えてしまう。
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