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7.急かされて
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「……な、な……何ですかあ、それ?」
立ったままの私は、鞄を落っことしそうになった。気が付けば、口をあんぐり、開けちゃってる私。みっともないから、急いで閉じた。
それにしても、何て直接的な聞き方。いや、それより、どうして先輩が聞いてくるの、そんなことを。
「文字通りの意味だ。聞こえなかったんなら、もう一度言ってやろう」
「い、いえ、聞こえました。だけど、単刀直入すぎて、びっくりしてしまいました……あはは」
「部員に対して、取材時のような権謀術数を用いる必要もあるまい」
「それはそうでしょうけど……」
「答えてくれ。まだ質問はあるんだから」
「……いません。今のところ」
ふっと、これってセクシャルハラスメントじゃないかしらという思いが、頭をよぎる。上司――先輩という地位を利用して、無理矢理プライバシーを聞き出そうとしている……。
「好きな奴はいるのかな?」
抗議するよりも、先輩からの質問が早かった。
「……いません。あの」
「じゃあ、僕が立候補しよう。島川祥子さん、僕と付き合ってもらえないだろうか」
「――」
真っ白。頭の中が空っぽになったような。
「こればかりは、すぐに答えてくれとは言えないな」
何だろう。先輩はいつもの先輩らしくなく、照れたように目の下辺りを赤らめている。
「受験体制に入る前に、伝えておきたかった。だから、本当のところ、なるべく早い返事を頼みたいんだが、こればかりはな」
「あ、あの、先輩」
「先輩後輩という意識は捨てて、考えてほしい」
「か、考えます。と、と、とにかく、考えさせてくださいっ。返事は近い内に必ずしますから」
「――了解」
先輩は普段通りのまじめくさった口調で、でも、笑いながら答えた。
一時間目のあとの休み時間、机に上体を投げ出し、悶々としていると、頭を小突かれた。
「ゆ、幸村」
見上げてすぐ、顔を背ける。
「返事、まだかあ」
小さな声で聞いてくる幸村。いくら小声ったって、こんな場所、こんな時間に聞かなくてもいいじゃない。
「まだよっ」
「……何、怒ってんだ?」
「怒ってなんかない。返事は私からするから、それまで、そっちからは聞かないで!」
「ちぇ、分かったよ」
幸村には悪いけど、こう答えるぐらいしか、今の私には余裕がない。
三時間目の前の休み時間には、教室の中にいると息が詰まりそうなので、廊下に出た。すると、佐々木君が来た。
「どうかしたの? 何だか、疲れているみたいだ……」
「そ、そうかしらっ?」
笑いでごまかす。本当のところ、こんなに疲れるのって、生まれて初めてかもしれないわ。
「別に疲れてなんか。心配してくれて、ありがと」
「……その、昨日のことだけど」
佐々木君、やっぱりあなたもなのね。
私は皆まで言わせず、先手を打った。
「もう少し待って。昨日の今日じゃ、無理」
「そうか……。ひょっとして、好きな男子がいるのかな?」
真剣な表情に真剣な口調の佐々木君。
私の方が戸惑ってしまう。誰も聞いていないと分かっていても、つい、周囲が気になった。
「もし、島川さんに好きな相手がいて、そいつをあきらめ切れないって言うんなら、はっきり言ってほしい。そういうの、邪魔したくないから、俺」
「ううん、いないってば」
焦る。誰も傷つけたくないし、気を遣わせたくない。
「いたら、はっきり言う。今は考えさせて」
「それなら」
佐々木君の表情がやっと明るくなった。
「あ、そうだ。CD、よかった?」
CD、借りてたんだ。昨日から今朝にかけても次々に告白されたせいで、ほとんど忘れちゃってた。
「あ、うん。とっても」
なんて、嘘。心落ち着けて聴く暇なんて、なかったんだもの。
「あの、もう少し、貸してね。聴くのに夢中で、ダビングするの、忘れちゃってて」
嘘の言い訳だから、心苦しくて、変に饒舌になる。
でも、佐々木君はおかしいと思わなかったみたい。
「いいよ。聴き飽きるまで聴いて」
そう言い残すと、先に教室へ戻った。
立ったままの私は、鞄を落っことしそうになった。気が付けば、口をあんぐり、開けちゃってる私。みっともないから、急いで閉じた。
それにしても、何て直接的な聞き方。いや、それより、どうして先輩が聞いてくるの、そんなことを。
「文字通りの意味だ。聞こえなかったんなら、もう一度言ってやろう」
「い、いえ、聞こえました。だけど、単刀直入すぎて、びっくりしてしまいました……あはは」
「部員に対して、取材時のような権謀術数を用いる必要もあるまい」
「それはそうでしょうけど……」
「答えてくれ。まだ質問はあるんだから」
「……いません。今のところ」
ふっと、これってセクシャルハラスメントじゃないかしらという思いが、頭をよぎる。上司――先輩という地位を利用して、無理矢理プライバシーを聞き出そうとしている……。
「好きな奴はいるのかな?」
抗議するよりも、先輩からの質問が早かった。
「……いません。あの」
「じゃあ、僕が立候補しよう。島川祥子さん、僕と付き合ってもらえないだろうか」
「――」
真っ白。頭の中が空っぽになったような。
「こればかりは、すぐに答えてくれとは言えないな」
何だろう。先輩はいつもの先輩らしくなく、照れたように目の下辺りを赤らめている。
「受験体制に入る前に、伝えておきたかった。だから、本当のところ、なるべく早い返事を頼みたいんだが、こればかりはな」
「あ、あの、先輩」
「先輩後輩という意識は捨てて、考えてほしい」
「か、考えます。と、と、とにかく、考えさせてくださいっ。返事は近い内に必ずしますから」
「――了解」
先輩は普段通りのまじめくさった口調で、でも、笑いながら答えた。
一時間目のあとの休み時間、机に上体を投げ出し、悶々としていると、頭を小突かれた。
「ゆ、幸村」
見上げてすぐ、顔を背ける。
「返事、まだかあ」
小さな声で聞いてくる幸村。いくら小声ったって、こんな場所、こんな時間に聞かなくてもいいじゃない。
「まだよっ」
「……何、怒ってんだ?」
「怒ってなんかない。返事は私からするから、それまで、そっちからは聞かないで!」
「ちぇ、分かったよ」
幸村には悪いけど、こう答えるぐらいしか、今の私には余裕がない。
三時間目の前の休み時間には、教室の中にいると息が詰まりそうなので、廊下に出た。すると、佐々木君が来た。
「どうかしたの? 何だか、疲れているみたいだ……」
「そ、そうかしらっ?」
笑いでごまかす。本当のところ、こんなに疲れるのって、生まれて初めてかもしれないわ。
「別に疲れてなんか。心配してくれて、ありがと」
「……その、昨日のことだけど」
佐々木君、やっぱりあなたもなのね。
私は皆まで言わせず、先手を打った。
「もう少し待って。昨日の今日じゃ、無理」
「そうか……。ひょっとして、好きな男子がいるのかな?」
真剣な表情に真剣な口調の佐々木君。
私の方が戸惑ってしまう。誰も聞いていないと分かっていても、つい、周囲が気になった。
「もし、島川さんに好きな相手がいて、そいつをあきらめ切れないって言うんなら、はっきり言ってほしい。そういうの、邪魔したくないから、俺」
「ううん、いないってば」
焦る。誰も傷つけたくないし、気を遣わせたくない。
「いたら、はっきり言う。今は考えさせて」
「それなら」
佐々木君の表情がやっと明るくなった。
「あ、そうだ。CD、よかった?」
CD、借りてたんだ。昨日から今朝にかけても次々に告白されたせいで、ほとんど忘れちゃってた。
「あ、うん。とっても」
なんて、嘘。心落ち着けて聴く暇なんて、なかったんだもの。
「あの、もう少し、貸してね。聴くのに夢中で、ダビングするの、忘れちゃってて」
嘘の言い訳だから、心苦しくて、変に饒舌になる。
でも、佐々木君はおかしいと思わなかったみたい。
「いいよ。聴き飽きるまで聴いて」
そう言い残すと、先に教室へ戻った。
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