その占いには裏がある、ない、どっち?

崎田毅駿

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6.続いて四人目

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「……」
 もう一度、江上君からの手紙を読み直し、笑いそうになる。
 彼がこの手紙を書いた様子を考えると、いろんな風に想像できて、おかしくなってくる。女子と話した経験が少ないから、きっと、これだけの文章に何時間もかかったんじゃない?
 手紙を封筒に戻そうとして、肘が固い物に触れた。
 CDのケース。佐々木君から借りた物。
 悩まざるを得ない状況を思い知らされる。
「やっぱり当たってたのかな、占い」
 ふう、とため息が出た。
 彼氏がいたらなあと、人並みに思わないでもないけど、まさか三人同時になんて。選ばねばならないとしたら、贅沢な悩みに違いない。
 本命がいたらな、とも思う。
 私の本命……今はいない。
 中学一年の頃、強く意識する子――小泉樹輝也こいずみじゅきや君――がいたけれど、二年になると同時に彼、転校しちゃったもんね。今思えば、あのとき告白しとけばよかったかな、なんて。
 昔の話を蒸し返しても仕方ないか。佐々木君、幸村、江上君の三人へ、返事をどうしようか考えなければいけない。
「時間がほしい」
 切にそう願いたい気分。時間をかけて、みんなと付き合ってみないと決められないってば、やっぱりさ。
 言わなきゃ。三人に言って、順番に付き合ってもらう。別に女王様気分を味わいたいってんじゃない。これが一番公平だと思うから。
 このやり方が気に入らないなら、その子には最初から外れてもらおう……って、三人ともにそっぽ向かれたら、どーしよー。
 いやいや、そんなことあるまい。自分からコメディにしてどうする。同時に三人から気持ちを打ち明けられたのでさえ、コメディっぽいのに。
 ……何だか、どきどきの度数が下がってきたような気がする。これって、三人もいるからかしら? 一対一なら、もっと緊張し続けていると思うんだけど……。初めてのことだから、よく分からない。
 いいや。明日から、じっくり考えて、決めればいいことよ。

 火曜日の朝は、いつも通りの時間帯に登校。
 なのに、眠い。
 昨日の晩、ベッドの中であれこれ考え過ぎちゃった結果よ、これ。
 下駄箱まで来ると、昨日のことが思い出されて、勝手に顔が熱くなる。
「あ、来たな」
 あらら、今朝も声をかけられるなんて。と言っても、新聞部の先輩だから、別に不思議じゃない。
荻原おぎわら先輩。何でしょう?」
「大した用じゃないんだが……ここではちょっとしにくい」
 目を細くして、周囲を見渡す先輩。睥睨するって表現がぴったり当てはまりそう。
「部室まで来られないか? 時間がなければ、かまわない」
「いえ、大丈夫です」
 見上げながら、笑みを浮かべた。背高くて、肩幅あって、目つき鋭いから、荻原先輩と初対面の人はたいてい、恐がってしまう(私もだった)。だけど、実際はそんなんじゃないって分かってからは、微笑みかけながらでも話せるようになった。
「すまない」
 先に歩き出した先輩。追いかけていく私は、今日、火曜が活動日だと思い出した。
「あ、あの。今日の部活、少し遅れて行くかもしれないんですけど」
 だって、江上君と話をしに、図書室に行かなくちゃ。
「……それで?」
 階段の踊り場を曲がったところで、先輩が聞いてきた。
「え? えっと」
「『遅れるかもしれないけど』のあとには何が続く? 許可してくださいとか、そのまま休みますとか、心配しないでくださいとか、色々あるだろうが」
「あ、え、えっと……お、遅れると思いますから、どうか見逃してください」
「見逃して、か。分かったよ」
 分かりにくい笑みを口元に浮かべて、先輩はどんどん先へ行く。
 私は胸をなで下ろしつつ、必死で追いかけた。
 新聞部の部室は、コピー機やガリ版刷りなんかを置いてある部屋――資料室なんて名前が付いている――とつながっていて、そっちの部屋が開いていたら、鍵がなくても簡単に入れる。
「用事って、何なんでしょうか」
 部室に入って、ドアをぴっちり閉めたところで、私は切り出した。
 先輩の方は、朝の忙しい時間だというのに、悠然と腰掛けてから話し始めた。
「島川は付き合っている奴がいるのか?」
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