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5.三人目は言の葉で
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「かもね。島川さん、音楽はどんなのが好み?」
「テレビドラマの主題歌とかエンディングとかだったら、ほとんど何でも」
「ちょうどいいや。自分もそうなんだ。あの、**の主題歌は持ってる?」
佐々木君は、始まったばかりの新番組の名を挙げた。
「ううん。でも、感じいい曲だから、レンタル屋に並ぶのを待って、ダビングするつもり」
「よかったら、貸してあげようか? CD、買ったんだ」
「持ってるの? じゃあ、お願いしよよっと。明日、持って来てくれる?」
「それよりさ、今日、これから取りに来られないかな」
職員室に到着。
「あ、置いてくる」
日誌と鍵を持って、職員室へと消える彼。
後ろ姿、目で追いかけながら、考える。
うーん。誘っている……んだよね、きっと。返事を待つと言いながら、何て気の早い。
「お待たせっ」
家にお邪魔するなんて、まだ決めてないのに。
佐々木君って割と自信家なのかもしれない。いや、そうに違いない。
などと思いながら、結構うれしい。
「あの……家の人、いるんじゃないの?」
今度は通用口へ向かう。
「いるけど、それが?」
佐々木君、きょとんとしている。
「そのぅ、いきなり女子が来たら、色々と……」
語尾は適当にごまかした。
「ああ、そういうこと。うちの方はかまわないけど、島川さんが気にするんだったら、玄関でCD、手渡しするだけにしようか」
「そ、それなら」
一も二もなく飛び付いた。
これで今日のところは乗り切れる。そう安心して、私は下駄箱の中を覗いて……。
「――わっ。まさか」
思わず声を上げてしまう。
「どうしたの?」
佐々木君が気にしてる。少し離れているから、見えなかったと思うけど……。
「ううん、何でもない」
私は背中にその『手紙』を隠しつつ、笑顔を作った。
借りたCDを聴くどころじゃなくなっちゃたじゃないの。
家に帰るなり、自分の部屋に一直線、鞄の隅に落し込んでおいた手紙を取り出した。宛名は島川祥子、間違いなく私に対して書かれた物。差出人の名はない。震える手でハサミを操り、慎重に慎重を重ね、開封。
出て来たのは、和紙っぽい便せん。手書きのインク文字が踊っている。上手な部類に入る字だと思う。分量は多くない。
<こんな手紙を突然出して、ごめん。僕の気持ちを知ってもらいたくて、書き
ました。
僕は島川さんが好きです。
一年のとき、同じクラスになって初めて島川さんを見かけて以来、ずっと気
になっていました。
今週一杯、毎日放課後、図書室で待っています。島川さんの都合のいいとき、
返事を聞かせてください。
二組 江上隆一>
他人のこと言えるかどうか分からないけど、つたない文章だと感じた。ラブレターなのよ。嘘でもいいから、歯の浮くような文章の一つがあっても、おかしくないのに。
が、それがかえって、真摯な印象を放っているような気がしてくる。
きちんと今のクラスを書いてある辺り、私が覚えているかどうか、自信がなかったのかしら?
「えがみ……りゅういち君、て読むんだったかな」
名前を口にしてみる。印象は強くない。けれど、覚えていたのだから、ちょっと自分にびっくり。
男子にしては細い体つきだけど、スポーツは一通りこなしていた。物理が異常によくできる、四角っぽい眼鏡をかけた子だ。男子ばかりならそれなりに話すけど、女子相手にはほとんど喋らなかったような記憶がある。だから手紙を書いたんだ、多分。
我に返ると、どきどきしている。
保子の冷やかしじゃないけど、急にもて始めたなあって。
いや、そうじゃない。
私が覚えていたのも道理。江上君、ルックスいいから、学年始めの頃はかなり人気あった。取っつきにくい印象のせいで、きっかけがなくて、女子のみんな、あきらめたようなところあったけど。
外見は、江上君が私の理想に一番近いかもしれない。
「テレビドラマの主題歌とかエンディングとかだったら、ほとんど何でも」
「ちょうどいいや。自分もそうなんだ。あの、**の主題歌は持ってる?」
佐々木君は、始まったばかりの新番組の名を挙げた。
「ううん。でも、感じいい曲だから、レンタル屋に並ぶのを待って、ダビングするつもり」
「よかったら、貸してあげようか? CD、買ったんだ」
「持ってるの? じゃあ、お願いしよよっと。明日、持って来てくれる?」
「それよりさ、今日、これから取りに来られないかな」
職員室に到着。
「あ、置いてくる」
日誌と鍵を持って、職員室へと消える彼。
後ろ姿、目で追いかけながら、考える。
うーん。誘っている……んだよね、きっと。返事を待つと言いながら、何て気の早い。
「お待たせっ」
家にお邪魔するなんて、まだ決めてないのに。
佐々木君って割と自信家なのかもしれない。いや、そうに違いない。
などと思いながら、結構うれしい。
「あの……家の人、いるんじゃないの?」
今度は通用口へ向かう。
「いるけど、それが?」
佐々木君、きょとんとしている。
「そのぅ、いきなり女子が来たら、色々と……」
語尾は適当にごまかした。
「ああ、そういうこと。うちの方はかまわないけど、島川さんが気にするんだったら、玄関でCD、手渡しするだけにしようか」
「そ、それなら」
一も二もなく飛び付いた。
これで今日のところは乗り切れる。そう安心して、私は下駄箱の中を覗いて……。
「――わっ。まさか」
思わず声を上げてしまう。
「どうしたの?」
佐々木君が気にしてる。少し離れているから、見えなかったと思うけど……。
「ううん、何でもない」
私は背中にその『手紙』を隠しつつ、笑顔を作った。
借りたCDを聴くどころじゃなくなっちゃたじゃないの。
家に帰るなり、自分の部屋に一直線、鞄の隅に落し込んでおいた手紙を取り出した。宛名は島川祥子、間違いなく私に対して書かれた物。差出人の名はない。震える手でハサミを操り、慎重に慎重を重ね、開封。
出て来たのは、和紙っぽい便せん。手書きのインク文字が踊っている。上手な部類に入る字だと思う。分量は多くない。
<こんな手紙を突然出して、ごめん。僕の気持ちを知ってもらいたくて、書き
ました。
僕は島川さんが好きです。
一年のとき、同じクラスになって初めて島川さんを見かけて以来、ずっと気
になっていました。
今週一杯、毎日放課後、図書室で待っています。島川さんの都合のいいとき、
返事を聞かせてください。
二組 江上隆一>
他人のこと言えるかどうか分からないけど、つたない文章だと感じた。ラブレターなのよ。嘘でもいいから、歯の浮くような文章の一つがあっても、おかしくないのに。
が、それがかえって、真摯な印象を放っているような気がしてくる。
きちんと今のクラスを書いてある辺り、私が覚えているかどうか、自信がなかったのかしら?
「えがみ……りゅういち君、て読むんだったかな」
名前を口にしてみる。印象は強くない。けれど、覚えていたのだから、ちょっと自分にびっくり。
男子にしては細い体つきだけど、スポーツは一通りこなしていた。物理が異常によくできる、四角っぽい眼鏡をかけた子だ。男子ばかりならそれなりに話すけど、女子相手にはほとんど喋らなかったような記憶がある。だから手紙を書いたんだ、多分。
我に返ると、どきどきしている。
保子の冷やかしじゃないけど、急にもて始めたなあって。
いや、そうじゃない。
私が覚えていたのも道理。江上君、ルックスいいから、学年始めの頃はかなり人気あった。取っつきにくい印象のせいで、きっかけがなくて、女子のみんな、あきらめたようなところあったけど。
外見は、江上君が私の理想に一番近いかもしれない。
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