4 / 10
4.鞘当てみたいな
しおりを挟む
「な、何よ、いきなり」
「関係あるから聞いてるんでしょ。いるの? いないの?」
「いないわよ」
断言する。事実、いない。
「本当でしょうね?」
私の顔を覗き込んでくる理梨香。相談されたのにかこつけて、聞き出そうとしているんじゃないか。そう思えてくるわ。
「身近な人の中に、いるかどうかって話でしょ? だったらいないってば」
「そうか、残念。いるんだったら、佐々木君と幸村をふって、本命一直線で行けってアドバイスしたのに」
大したアドバイスだわ、全く。
「いないとなればねえ。よく考えて、好きな方と引っ付いちゃえばいいんでないの」
「……相談しといて何ですけどね。それって、当たり前すぎるような」
「他に何があるって? 両方ともにいい顔しようと思っているんじゃないでしょうね」
「う」
実はそうなのだ。
二人のどちらかを選ぶのは難しいし、疲れる。返事、先送りにしたい。
「図星か。気を持たせておいて、あとでふる方がよほど酷いわよ」
「男子二人は、お互いのことを知ってるのかなあ?」
保子が聞いてきた。
「知ってるわよ、同じクラスなんだから」
「違うったら。佐々木君は幸村君がショウに告白したこととぉ、幸村君は佐々木君がショウに告白したこと、それぞれ知っているのかってこと」
「それは……知らないはず」
一瞬、頭の中で考えた。うん、知らないはず。
保子と互いに見合わせた理梨香が、したり顔を作った。
「いい子でいたいなら、双方に打ち明けておくべきね。あなたの他にもう一人、言い寄ってきてる人がいるのよって」
「そうかな。変に意識されたら、何だか悪い」
「『私のために喧嘩をしないで』ってところね」
また冷やかされた。友達としてはいいんだけどね、二人とも。相談相手にはちょっぴり、役不足か。
「そこー、何やってるー!」
ミス・マッスル――体育教師――の間延びした声で、授業に引き戻された。
長い体育が終わって、ホームルーム。
身体動かしていると、意外と忘れていられたけれど、着替えて席に収まってみて、また思い出した。
「――以上で連絡、終わりだ」
担任のY先生――名前が輪井なの――が、ばんと教壇を叩いた。
「掃除が終わったら、日直は日誌、忘れずに持って来いよ」
佐々木君がうなずいているのが、視界の隅っこでとらえられた。
気が重い。掃除が終わって当番のみんなが帰ったら、二人きりになる。
「帰り、待っててやろうか」
幸村ぁ。悩んでいるときに、拍車をかけてくれる。
「ごめん、今日はだめ」
「何で」
「察してよ」
かわい子ぶって、ウィンクなんかしてみた。
「ふん。なーるほど。察しましょ。じっくり考えて、いい答、出してくれよな」
幸村は私へ囁きかけるように言うと、鼻歌混じりに教室を出て行った。
ひとまず、ほっとする。幸村と佐々木君、二人共にいられると、かかる負担が大きすぎるんだから。
「何を話していたの?」
気になったのかどうか、佐々木君が聞いてきた。瞬間的に言い訳をまとめ上げる。
「大したことじゃないわ。明日も宿題、頼んだぜって。ずうずうしいんだから、あいつ」
「はは、あいつらしい」
疑いもせず、笑っている佐々木君。
悪いなぁ。佐々木君にも幸村にも悪いことしちゃってる。
いつの間にか、掃除が終わっていた。当番の子達はさっさと帰ってしまい、教室には私と佐々木君、二人きりになる。
日誌は書き終わっていた。掃除の出来映えをチェックして、カーテン閉めて、鍵をかける。
「島川さんは歩き?」
職員室へ行く途中で、佐々木君が聞いてくる。登下校の交通手段のことを言ってるのだ。
「自転車よ」
「じゃ、割と遠くから来ているんだ? 僕は徒歩五分という近距離でね」
「うらやましい。遅刻、絶対にしない」
「関係あるから聞いてるんでしょ。いるの? いないの?」
「いないわよ」
断言する。事実、いない。
「本当でしょうね?」
私の顔を覗き込んでくる理梨香。相談されたのにかこつけて、聞き出そうとしているんじゃないか。そう思えてくるわ。
「身近な人の中に、いるかどうかって話でしょ? だったらいないってば」
「そうか、残念。いるんだったら、佐々木君と幸村をふって、本命一直線で行けってアドバイスしたのに」
大したアドバイスだわ、全く。
「いないとなればねえ。よく考えて、好きな方と引っ付いちゃえばいいんでないの」
「……相談しといて何ですけどね。それって、当たり前すぎるような」
「他に何があるって? 両方ともにいい顔しようと思っているんじゃないでしょうね」
「う」
実はそうなのだ。
二人のどちらかを選ぶのは難しいし、疲れる。返事、先送りにしたい。
「図星か。気を持たせておいて、あとでふる方がよほど酷いわよ」
「男子二人は、お互いのことを知ってるのかなあ?」
保子が聞いてきた。
「知ってるわよ、同じクラスなんだから」
「違うったら。佐々木君は幸村君がショウに告白したこととぉ、幸村君は佐々木君がショウに告白したこと、それぞれ知っているのかってこと」
「それは……知らないはず」
一瞬、頭の中で考えた。うん、知らないはず。
保子と互いに見合わせた理梨香が、したり顔を作った。
「いい子でいたいなら、双方に打ち明けておくべきね。あなたの他にもう一人、言い寄ってきてる人がいるのよって」
「そうかな。変に意識されたら、何だか悪い」
「『私のために喧嘩をしないで』ってところね」
また冷やかされた。友達としてはいいんだけどね、二人とも。相談相手にはちょっぴり、役不足か。
「そこー、何やってるー!」
ミス・マッスル――体育教師――の間延びした声で、授業に引き戻された。
長い体育が終わって、ホームルーム。
身体動かしていると、意外と忘れていられたけれど、着替えて席に収まってみて、また思い出した。
「――以上で連絡、終わりだ」
担任のY先生――名前が輪井なの――が、ばんと教壇を叩いた。
「掃除が終わったら、日直は日誌、忘れずに持って来いよ」
佐々木君がうなずいているのが、視界の隅っこでとらえられた。
気が重い。掃除が終わって当番のみんなが帰ったら、二人きりになる。
「帰り、待っててやろうか」
幸村ぁ。悩んでいるときに、拍車をかけてくれる。
「ごめん、今日はだめ」
「何で」
「察してよ」
かわい子ぶって、ウィンクなんかしてみた。
「ふん。なーるほど。察しましょ。じっくり考えて、いい答、出してくれよな」
幸村は私へ囁きかけるように言うと、鼻歌混じりに教室を出て行った。
ひとまず、ほっとする。幸村と佐々木君、二人共にいられると、かかる負担が大きすぎるんだから。
「何を話していたの?」
気になったのかどうか、佐々木君が聞いてきた。瞬間的に言い訳をまとめ上げる。
「大したことじゃないわ。明日も宿題、頼んだぜって。ずうずうしいんだから、あいつ」
「はは、あいつらしい」
疑いもせず、笑っている佐々木君。
悪いなぁ。佐々木君にも幸村にも悪いことしちゃってる。
いつの間にか、掃除が終わっていた。当番の子達はさっさと帰ってしまい、教室には私と佐々木君、二人きりになる。
日誌は書き終わっていた。掃除の出来映えをチェックして、カーテン閉めて、鍵をかける。
「島川さんは歩き?」
職員室へ行く途中で、佐々木君が聞いてくる。登下校の交通手段のことを言ってるのだ。
「自転車よ」
「じゃ、割と遠くから来ているんだ? 僕は徒歩五分という近距離でね」
「うらやましい。遅刻、絶対にしない」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
わんこ系婚約者の大誤算
甘寧
恋愛
女にだらしないワンコ系婚約者と、そんな婚約者を傍で優しく見守る主人公のディアナ。
そんなある日…
「婚約破棄して他の男と婚約!?」
そんな噂が飛び交い、優男の婚約者が豹変。冷たい眼差しで愛する人を見つめ、嫉妬し執着する。
その姿にディアナはゾクゾクしながら頬を染める。
小型犬から猛犬へ矯正完了!?
文芸部なふたり
崎田毅駿
キャラ文芸
KK学園の文芸部は、今日もゆるい部活動に勤しむ。1.同部では毎月テーマを決めて部員達による競作を催しており、今回の当番である副部長が発表したお題は、「手紙」。この題材をいかにして料理するか。神林アキラと神酒優人は互いに生のアイディアを披露し合って、刺激を受けるのを常としているのだ。
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
化石の鳴き声
崎田毅駿
児童書・童話
小学四年生の純子は、転校して来てまだ間がない。友達たくさんできる前に夏休みに突入し、少し退屈気味。登校日に久しぶりに会えた友達と遊んだあと、帰る途中、クラスの男子数人が何か夢中になっているのを見掛け、気になった。好奇心に負けて覗いてみると、彼らは化石を探しているという。前から化石に興味のあった純子は、男子達と一緒に探すようになる。長い夏休みの楽しみができた、と思ったら、いつの間にか事件に巻き込まれることに!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる