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3.格好の話題
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勉強、一時間目から、ちっとも身が入らない。
授業前後の号令は、佐々木君。その声を耳にする度に、どきどき。
授業中、隣には常に幸村がいて、どきどき。
これで休み時間も、いつもみたいに幸村がちょっかいかけてきたら、どうにかなっちゃってたかも。けれど、その辺はあいつにもデリカシーあるらしくて、休みになったらどこかに消えていた。
日直の仕事は色々あって、佐々木君からは離れていられそうにない。
この休み時間も、クラス全員のノートを返却しておくようにと言われて、職員室まで取りに行く。
「重くない? 持とうか」
「いい、いい。平気」
昨日までだったら、何でもない一言なのに、今日はずっと緊張して聞かなくちゃならない。目も合わせづらいし。
「ごめんな、急で」
「え?」
何のことか一瞬、分からなかった。だけど、すぐに理解できた。謝るのも急だ、佐々木君は。
教室に戻って、みんなにノートを配る。
私は女子の分、佐々木君が男子の分を返す。ちょっと、ほっとする。
二時間目も三時間目も四時間目も緊張が取れなくて、首とか肩が痛くなってしまった。お昼を挟んで五、六時間目は合同体育なのに、大丈夫かしらって思えるほど凝ってる。
「何、年寄りくさいことやってんのよ」
右手で拳を作って、左肩をとんとん叩いていたら、とくちゃん――徳田保子と、えりりん――山添理梨香がお弁当箱を持って机を寄せてきた。
「勉強のしすぎなのだ」
お弁当を広げながら、私は恥ずかしさをごまかした。
「そうかな? 午前中、身が入ってないように見えたけど」
理梨香、君は観察していたのか、私のことを。
「そうね、何か上の空だったわよね、ショウったら」
保子も同調する。
ちなみにショウとは、私に与えられたニックネーム。祥子と書いて「よしこ」と読むんだけど、みんな「しょうこ」と呼ぶから、いつの間にか「ショウ」で定着してしまった。中学のときは「しま」で通ってて、気に入ってたのにな。
「悩んでるとか? 言ってごらん」
「えりりんに言っても」
口に出してから、しまったと後悔。もう遅い。
理梨香は大きくうなずいた。
「やっぱ、悩んでるんだ。白状しろっ」
箸で突っついてくる格好をする保子。
「え、と……」
横目で探る。
まず、幸村――いない。たいてい学食を利用するから、今日もそうなんだ。
次に佐々木君。席が離れているから、頭をぐるっと動かさないと。
彼もいなかった。そう言えば、三時間目が終わったとき、委員長としての仕事を何か言いつけられていたような。
とりあえず、これから話題にする男子二人がいないと確認できた。けど、いつ戻ってくるか分からない、そんな不安なまま話すのは遠慮したい。
「言ってもいいけど、今はだめ」
私はそう結論を出した。
「じゃあ、いつよ」
「次、体育でしょ。そんときに話す」
だって、体育は男女別なのだ。話しやすい。
「ふうん。絶対よ」
理梨香は強く念押ししてきた。
「声、上げたらやだよ」
と前置きして始めたのに、話し終わらない内に、二人は大げさに反応した。
「すっごーい!」
「立て続けにねえ」
保子、理梨香の順。
「しっ。みんなに聞こえるっ」
私は体育館の中を見回した。バレーボールの跳ねる音が反響していて、どうにか安心。外でラグビーをやってる男子はもちろんのこと、他の女子にも聞こえるはずがない。
「いきなりもてたご感想は?」
「ふざけないでよ、とくちゃん。本気で悩んでんだから」
頬を膨らませてやる。
「ごめんごめん。だけど、うらやましい話よね」
「ほんと。両天秤が悩みだなんて」
「違うわよ。両天秤にかける気なんかない。それ以前よ。佐々木君も幸村も、二人とも、そういう対象で見たことなかったから、どうしたらいいか分かんないのよ」
両手に握り拳を作り、力説しちゃう。どうも、面白半分にしか聞いてくれてないんだから。
「ねえ、ショウ。あんた、本命はいるの?」
授業前後の号令は、佐々木君。その声を耳にする度に、どきどき。
授業中、隣には常に幸村がいて、どきどき。
これで休み時間も、いつもみたいに幸村がちょっかいかけてきたら、どうにかなっちゃってたかも。けれど、その辺はあいつにもデリカシーあるらしくて、休みになったらどこかに消えていた。
日直の仕事は色々あって、佐々木君からは離れていられそうにない。
この休み時間も、クラス全員のノートを返却しておくようにと言われて、職員室まで取りに行く。
「重くない? 持とうか」
「いい、いい。平気」
昨日までだったら、何でもない一言なのに、今日はずっと緊張して聞かなくちゃならない。目も合わせづらいし。
「ごめんな、急で」
「え?」
何のことか一瞬、分からなかった。だけど、すぐに理解できた。謝るのも急だ、佐々木君は。
教室に戻って、みんなにノートを配る。
私は女子の分、佐々木君が男子の分を返す。ちょっと、ほっとする。
二時間目も三時間目も四時間目も緊張が取れなくて、首とか肩が痛くなってしまった。お昼を挟んで五、六時間目は合同体育なのに、大丈夫かしらって思えるほど凝ってる。
「何、年寄りくさいことやってんのよ」
右手で拳を作って、左肩をとんとん叩いていたら、とくちゃん――徳田保子と、えりりん――山添理梨香がお弁当箱を持って机を寄せてきた。
「勉強のしすぎなのだ」
お弁当を広げながら、私は恥ずかしさをごまかした。
「そうかな? 午前中、身が入ってないように見えたけど」
理梨香、君は観察していたのか、私のことを。
「そうね、何か上の空だったわよね、ショウったら」
保子も同調する。
ちなみにショウとは、私に与えられたニックネーム。祥子と書いて「よしこ」と読むんだけど、みんな「しょうこ」と呼ぶから、いつの間にか「ショウ」で定着してしまった。中学のときは「しま」で通ってて、気に入ってたのにな。
「悩んでるとか? 言ってごらん」
「えりりんに言っても」
口に出してから、しまったと後悔。もう遅い。
理梨香は大きくうなずいた。
「やっぱ、悩んでるんだ。白状しろっ」
箸で突っついてくる格好をする保子。
「え、と……」
横目で探る。
まず、幸村――いない。たいてい学食を利用するから、今日もそうなんだ。
次に佐々木君。席が離れているから、頭をぐるっと動かさないと。
彼もいなかった。そう言えば、三時間目が終わったとき、委員長としての仕事を何か言いつけられていたような。
とりあえず、これから話題にする男子二人がいないと確認できた。けど、いつ戻ってくるか分からない、そんな不安なまま話すのは遠慮したい。
「言ってもいいけど、今はだめ」
私はそう結論を出した。
「じゃあ、いつよ」
「次、体育でしょ。そんときに話す」
だって、体育は男女別なのだ。話しやすい。
「ふうん。絶対よ」
理梨香は強く念押ししてきた。
「声、上げたらやだよ」
と前置きして始めたのに、話し終わらない内に、二人は大げさに反応した。
「すっごーい!」
「立て続けにねえ」
保子、理梨香の順。
「しっ。みんなに聞こえるっ」
私は体育館の中を見回した。バレーボールの跳ねる音が反響していて、どうにか安心。外でラグビーをやってる男子はもちろんのこと、他の女子にも聞こえるはずがない。
「いきなりもてたご感想は?」
「ふざけないでよ、とくちゃん。本気で悩んでんだから」
頬を膨らませてやる。
「ごめんごめん。だけど、うらやましい話よね」
「ほんと。両天秤が悩みだなんて」
「違うわよ。両天秤にかける気なんかない。それ以前よ。佐々木君も幸村も、二人とも、そういう対象で見たことなかったから、どうしたらいいか分かんないのよ」
両手に握り拳を作り、力説しちゃう。どうも、面白半分にしか聞いてくれてないんだから。
「ねえ、ショウ。あんた、本命はいるの?」
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