その占いには裏がある、ない、どっち?

崎田毅駿

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2.二人目は隣

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「きゅう?」
「急すぎる。考えさせてくれないと……」
「ああ。考えてくれるんだ? それだけでも嬉しくなっちまいそう、俺って」
 またにっこり笑う。悪意のない顔してる。こっちはどっきんどっきんしてるのに。あ、何か暑いと思ったら、気温が高いんじゃなくて、顔が紅潮してるんだ、私。
「もう窓、開けていいよ」
 そう言われたって、頭がぼーっとしてる。手、カーテンをつかんだまま、動かない。
「何やってんの。代わろうか」
 すぐ側まで、佐々木君が来た。
「え! いや、いい。いいです。私、やる」
「だったら、俺、ごみを捨ててくる。ついでに黒板消しもはたいてくっか」
 彼は黒板消し四つに加え、ごみ箱をついと抱えると、ばたばたと出て行った。
 はぁ。何なのよ、もう……。
 窓を開けると、風がふんわり、流れ込んできた。顔の火照りが冷やされていく感じ。
「占い、当たったのかな」
 独り言を言ってると、廊下の方がまたばたばたと騒がしい。
 もう帰って来ちゃったのかと、再び顔が赤らむ思い。うつむいてしまう。
 ところが。
「島川?」
 佐々木君の声じゃなかった。はっと顔を上げ、確認するために振り返った。
 幸村ゆきむら。隣の席の幸村だった。
「な、何で」
 すぐ横を向いた。顔が赤いの、見られたくない。
「何で、幸村が来るのよ?」
「俺が来ちゃおかしい? クラス替えされた記憶はないんだけどなあ」
「馬鹿」
「ひっでえ」
 言いながら、幸村は入ってきた。サッカー部、朝練があったのか、水をかぶって頭が濡れてる幸村。
「馬鹿はないよなあ。俺、おまえの姿が見えたから、飛んで来たのに」
「ふざけないで。ほら、早く着替えてきなさいよ。部室の方でしょっ」
 今は誰とも話をしたくなかった。でも、特にこの幸村とは。普段、馬鹿話ばっかりしてるから、気取られるかもしれない。
「何のために来たと思ってる?」
「わ、忘れ物でもしたんじゃないの!」
「はずれ。聞いて驚くな」
 ふふん。そんな風に笑ったように見えた。
「二人っきりになれると思ったから来たんだよなあ、これが」
「……ど、どういう意味よ」
「俺がおまえを、すっごく好きだってこと」
「え――」
 視界がくらくら揺れてきた。
「告白するのにいいチャンスだと思って……。おーい、聞いてる?」
 気が付いたら、目の前で手を振られていた。
「ば、馬鹿。何やってんのよ!」
「いや、ほうけちゃってたから、おまえ」
「そんなことないわよっ。ええ、そんなことない」
「何、言い聞かせてんの。てことで、考えといて」
 さっさと行ってしまいそうな風情の雪村。
「ちょ、ちょっと。言うだけ言って、逃げるの?」
「逃げるとは心外だよなあ。返事できる? 無理だろ? だから猶予をあげる訳よ。それに日直の相方――佐々木か? 佐々木が来るかもしれないしな。んじゃま、よーく考えてくれたまえ」
 背中を向けて、片手を振りながら、幸村は教室を出て行った。
 ……とても疲れている私が一人、残された。
 が、休む間もなく、今度は本当に佐々木君が戻って来た。
「ゴミ捨ての蓋、固くって参ったよ」
「そ、そう。ご苦労さま」
「堅苦しい言い方。ひょっとして、さっきのを気にしている?」
 まだ窓を開けきっていない私を手伝いに、佐々木君が近寄ってきた。
「う、うん」
 頭の中はパニック起こしてたけど、説明するのも変だから、ただ単にうなずいておく。
「返事、なるべく早く聞かせてほしいな」
 佐々木君は無邪気な笑顔を、こちらに向けた。
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