20 / 20
エピソード4:処女懐胎 6
しおりを挟む
コナン警部が叫ぶ。
が、しかし。
「まだです! まだ、動いている!」
フランクの言う通り、ベラは両腕を突っ張ると、上半身を起こした。そして膝をつき、立ち上がろうとする。だが、すでに足がどうにかなっているのであろう、前のめりに倒れた。
それでも、まだ動こうとするベラ。両手で匍匐前進を始めた。
「フランク、とどめを!」
「……殺したくない」
「何だって?」
フランクの言葉に、己の耳を疑うコナン警部。
「殺したくないだと?」
「カインの奴から聞かされたんです! この女性がこうなる前の話を。それが事実だとしたら、あまりにも」
「だったら、どうだと言うんだ? 人間に戻せるのか? アベルがそんなことを言ったのか? 私の同僚が何人死んだと思っているんだ!」
「全てはカインのせいだ。と、とにかく、アベルを呼んできてください。お願いします」
一瞬、ためらったコナン警部。だが、フランクの叫びに必死さを読み取り、すぐにきびすを返した。
ロビンソン邸に駆け込むと、彼はアベルの姿を探した。
フランクは、できることならベラを助け起こしたかった。
「やめてくれ、ベラ」
先ほどから何度呼びかけても、彼女の耳には届かないらしい。相変わらず、這ってでも邸内を目指している。
「カインはあんたを見捨てた。もう奴に忠誠を尽くすことはない。大人しくしてくれ、頼む」
ベラは止まらない。
アベルがコナン警部と共に外に出て来た。
フランクはベラの側を離れ、二人のいるところへ向かった。
「アベル、助ける方法はないんですか?」
「分からない。だが、助けたいのは私も同意見だ」
「何ですと?」
今度はコナン警部が慌てる番のようだ。アベルの前に立ち、両腕を掴んで揺すぶる。
「何故ですか?」
「彼女――ベラを死なせると、キーナが助からないかもしれない。我々の目的の第一は、キーナの命を救うことだ。それを忘れてはならない」
「……そうか」
警部はわざとらしく、せき払いをした。
「ベラが死ぬと、キーナはどうなるのか? キーナのお腹の中にいる闇の赤子はどうなるのか? 分からないことばかりだ」
「いったい、どうする気だ? この女を助ける方法も分からないんだろう?」
まだ近付きつつあるベラを、じっと見やる警部。その目には、複雑な感情が渦巻いているようだ。
「真っ先に思い付くのは、魔玉を外すことだが」
フランクへ視線を投げてくるアベル。
魔玉は心臓に密着する形ではめ込まれている。装着する際に、すでに生死の境をさまようほどの困難を伴う。それを外すとどんなことになるのか、誰にも想像できない。
「自分には……思い切れるかどうか」
「そうだろうな……。警部。とにかく、ベラを収容したい。両腕さえ封じれば、危険はないでしょう。キーナの容態にもよるが、ぎりぎりまで研究してみようじゃないか」
「そうですな……車の手配をしましょう」
コナン警部は再び邸内へと走った。
「アベル……」
フランクはアベルに話しかけずにはおられなかった。
「ベラを見るに忍びないんです。でも、離れてはまずいでしょうね……」
「そ、そうだな」
アベルが肩越しにベラを振り返ったときだった。
ベラが立ち上がっていた! 両手を大きく広げ、今にもアベルの身体を挟もうとしている。
「危ないっ」
思い切り手を伸ばすフランク。
何も考えていなかった。考えていたとすれば、アベルを救うこと、ただ一つ。
右手の五指がベラの左胸を抉るように捕らえ、そこにあった魔玉に爪がかかった。
「フ、フランク……」
とっさに自らの身体を倒していたアベルは、そこに展開されている光景に、声をなくした。
ロビンソン博士とアニタを前に、アベルとフランクは改めて尋ねた。
「本当に、キーナは助かったのかい?」
「ええ」
アニタがうれしそうにうなずく。
「まだ完全に復調した訳ではないようですけど、バリアント先生も太鼓判を押してくださっています。一週間もすれば治るだろうって」
これまでになくはしゃいでいる。この辺は、まだまだ子供のようだ。
「そうか……よかった」
やっと安心できる。アベルとフランクは互いに顔を見合わせ、深くうなずいた。二人の面に、自然に笑みが浮かぶ。
「どうやったのだね」
ロビンソン博士が興味深そうに聞いてくる。
「アベルが襲われるのを見て、とっさのことだったんです。ベラ=カスティオンの魔玉を取り外した、ただそれだけでした」
「うまくいったのは結果論だ。幸運な偶然だったとしか言い様がない」
アベルは目を閉じ、首を幾度か小さく振った。
「ベラという女性は、どうなっておるのだね?」
「瀕死の状態で、警察病院へ担ぎ込まれました。現在は、何とか快方に向かいつつあるそうです。魔玉の力が消えているのも、まず間違いないと思われます。まあ、その点も含めて、調べてみなければなりません」
アベルはそれからポケットに手を入れ、中の物を取り出した。
「これを新たに入手できたのも大きい。今まで以上に、研究を進められる」
固い口調で語るアベルの手のひらには、丸い、赤い石――魔玉が乗っていた。
――「処女懐胎」.終
が、しかし。
「まだです! まだ、動いている!」
フランクの言う通り、ベラは両腕を突っ張ると、上半身を起こした。そして膝をつき、立ち上がろうとする。だが、すでに足がどうにかなっているのであろう、前のめりに倒れた。
それでも、まだ動こうとするベラ。両手で匍匐前進を始めた。
「フランク、とどめを!」
「……殺したくない」
「何だって?」
フランクの言葉に、己の耳を疑うコナン警部。
「殺したくないだと?」
「カインの奴から聞かされたんです! この女性がこうなる前の話を。それが事実だとしたら、あまりにも」
「だったら、どうだと言うんだ? 人間に戻せるのか? アベルがそんなことを言ったのか? 私の同僚が何人死んだと思っているんだ!」
「全てはカインのせいだ。と、とにかく、アベルを呼んできてください。お願いします」
一瞬、ためらったコナン警部。だが、フランクの叫びに必死さを読み取り、すぐにきびすを返した。
ロビンソン邸に駆け込むと、彼はアベルの姿を探した。
フランクは、できることならベラを助け起こしたかった。
「やめてくれ、ベラ」
先ほどから何度呼びかけても、彼女の耳には届かないらしい。相変わらず、這ってでも邸内を目指している。
「カインはあんたを見捨てた。もう奴に忠誠を尽くすことはない。大人しくしてくれ、頼む」
ベラは止まらない。
アベルがコナン警部と共に外に出て来た。
フランクはベラの側を離れ、二人のいるところへ向かった。
「アベル、助ける方法はないんですか?」
「分からない。だが、助けたいのは私も同意見だ」
「何ですと?」
今度はコナン警部が慌てる番のようだ。アベルの前に立ち、両腕を掴んで揺すぶる。
「何故ですか?」
「彼女――ベラを死なせると、キーナが助からないかもしれない。我々の目的の第一は、キーナの命を救うことだ。それを忘れてはならない」
「……そうか」
警部はわざとらしく、せき払いをした。
「ベラが死ぬと、キーナはどうなるのか? キーナのお腹の中にいる闇の赤子はどうなるのか? 分からないことばかりだ」
「いったい、どうする気だ? この女を助ける方法も分からないんだろう?」
まだ近付きつつあるベラを、じっと見やる警部。その目には、複雑な感情が渦巻いているようだ。
「真っ先に思い付くのは、魔玉を外すことだが」
フランクへ視線を投げてくるアベル。
魔玉は心臓に密着する形ではめ込まれている。装着する際に、すでに生死の境をさまようほどの困難を伴う。それを外すとどんなことになるのか、誰にも想像できない。
「自分には……思い切れるかどうか」
「そうだろうな……。警部。とにかく、ベラを収容したい。両腕さえ封じれば、危険はないでしょう。キーナの容態にもよるが、ぎりぎりまで研究してみようじゃないか」
「そうですな……車の手配をしましょう」
コナン警部は再び邸内へと走った。
「アベル……」
フランクはアベルに話しかけずにはおられなかった。
「ベラを見るに忍びないんです。でも、離れてはまずいでしょうね……」
「そ、そうだな」
アベルが肩越しにベラを振り返ったときだった。
ベラが立ち上がっていた! 両手を大きく広げ、今にもアベルの身体を挟もうとしている。
「危ないっ」
思い切り手を伸ばすフランク。
何も考えていなかった。考えていたとすれば、アベルを救うこと、ただ一つ。
右手の五指がベラの左胸を抉るように捕らえ、そこにあった魔玉に爪がかかった。
「フ、フランク……」
とっさに自らの身体を倒していたアベルは、そこに展開されている光景に、声をなくした。
ロビンソン博士とアニタを前に、アベルとフランクは改めて尋ねた。
「本当に、キーナは助かったのかい?」
「ええ」
アニタがうれしそうにうなずく。
「まだ完全に復調した訳ではないようですけど、バリアント先生も太鼓判を押してくださっています。一週間もすれば治るだろうって」
これまでになくはしゃいでいる。この辺は、まだまだ子供のようだ。
「そうか……よかった」
やっと安心できる。アベルとフランクは互いに顔を見合わせ、深くうなずいた。二人の面に、自然に笑みが浮かぶ。
「どうやったのだね」
ロビンソン博士が興味深そうに聞いてくる。
「アベルが襲われるのを見て、とっさのことだったんです。ベラ=カスティオンの魔玉を取り外した、ただそれだけでした」
「うまくいったのは結果論だ。幸運な偶然だったとしか言い様がない」
アベルは目を閉じ、首を幾度か小さく振った。
「ベラという女性は、どうなっておるのだね?」
「瀕死の状態で、警察病院へ担ぎ込まれました。現在は、何とか快方に向かいつつあるそうです。魔玉の力が消えているのも、まず間違いないと思われます。まあ、その点も含めて、調べてみなければなりません」
アベルはそれからポケットに手を入れ、中の物を取り出した。
「これを新たに入手できたのも大きい。今まで以上に、研究を進められる」
固い口調で語るアベルの手のひらには、丸い、赤い石――魔玉が乗っていた。
――「処女懐胎」.終
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
サウンド&サイレンス
崎田毅駿
青春
女子小学生の倉越正美は勉強も運動もでき、いわゆる“優等生”で“いい子”。特に音楽が好き。あるとき音楽の歌のテストを翌日に控え、自宅で練習を重ねていたが、風邪をひきかけなのか喉の調子が悪い。ふと、「喉は一週間あれば治るはず。明日、先生が交通事故にでも遭ってテストが延期されないかな」なんてことを願ったが、すぐに打ち消した。翌朝、登校してしばらくすると、先生が出勤途中、事故に遭ったことがクラスに伝えられる。「昨日、私があんなことを願ったせい?」まさかと思いならがらも、自分のせいだという考えが頭から離れなくなった正美は、心理的ショックからか、声を出せなくなった――。
江戸の検屍ばか
崎田毅駿
歴史・時代
江戸時代半ばに、中国から日本に一冊の法医学書が入って来た。『無冤録述』と訳題の付いたその書物の知識・知見に、奉行所同心の堀馬佐鹿は魅了され、瞬く間に身に付けた。今や江戸で一、二を争う検屍の名手として、その名前から検屍馬鹿と言われるほど。そんな堀馬は人の死が絡む事件をいかにして解き明かしていくのか。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密
まさき
青春
俺は今、東大院生の実験対象になっている。
ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。
「家庭教師です。住まわせてください」
突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。
桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。
偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。
咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。
距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。
「データじゃなくて、私がそう思っています」
嘘をついているような顔じゃなかった。
偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。
不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる