職能呪術娘は今日も淡々とガチャする

崎田毅駿

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3.踏み板が開くとそこは異世界だった

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 一度は、急激な落下とそれに伴う加速を体感していた俺だったが、はたと気付くと浮遊感が再び訪れていた。上昇を始めた直後のエレベータに乗っている、あの感覚。が、それは長くは続かず、じきに俺は二本の足で着地した。
 あり得ない。首に掛かっていた縄がぶち切れたんだとしても、こんな穏やかに、床に降り立つはずがない。
 そもそも、足元から伝わる感触が、床のそれではなかった。だから着地というのは厳密には違う。
「おい、どうなってんだ?」
 声が出た。まるで自分のものじゃないみたいだ。死に直面して、いつの間にやら喉がひりひりに乾いていたらしい。唾を飲み込んでみた。
 が、声の調子を見る前に、俺は後ろにすっ転んだ。若干ふわふわした踏み心地の足元は、予想以上に反発力があり、バランスを取りにくかったのだ。やばい、後頭部を打つ、と思う間もなく、転がった。しかし痛みはなく、足元と同じような感触に全身が包まれた。
「何なんだ、これ。死刑執行に見せ掛けたどっきりか? そんなので俺を笑いものにするつもりだったのか?」
 常識的に考えて日本の刑務所がそんなふざけた真似するはずないのだが、このときの俺は頭が変な方向に冴えて、次々と言葉があふれ出た。
「失敗したのならしたで、最初っからやり直せ。まずはこの目隠しと手枷足枷を外すんだ。何なら、最後の晩餐からやり直してくれてもいいぜ」
「やかましいですね」
 突然、若い男の声がした。こんな声の奴、いたっけか。そりゃあもちろん、若い係官もいるはだし、俺の知らない間に新顔が入ってもおかしくはない。ただ、今聞こえたのは口調が優しすぎる。職場でこんな調子の声を出す係官は、俺の経験上いない。
「誰だ」
 見えない相手を誰何する。しかし、問い掛けに対する返答はすぐにはなかった。
「喚き散らすというのは、これまでにもあった行動パターンの一つです。驚くべきところはそこではないでしょう」
 今度は女だ。やはり年若そうな女の声がする。男女それぞれの声が聞こえた方向から推測するに、俺を中心に一メートルほど離れた位置で、男と女は扇形をなしているような気がする。角度は四十五度から六十度くらい開いているだろうか。
 それよりも何よりも、俺の収監されていた刑務所には、女性職員はいなかった。あの施設の中で女性がいるとしたら、慰問に来た歌手かタレントぐらいだ。
「ですねえ。こういう格好は初めてだ」
 男の声が言う。俺を無視して、二人で会話を続けるつもりのようだ。
「流行りの服装、なわけないから、見たまんまでいいんでしょうかね。つまり、この異界人は処刑される寸前だった」
「そうね、テンドー。私も同意見よ。絞首刑か斬首刑かは分からないけれども」
 異界人? 普通は使わない言葉故、漢字を当てはめるのに時間が掛かった。
「あ、ラルコ様。この者、足も縛られていますよ。斬首なら足枷は必要ないです。恐らくは絞首刑だったのでしょう」
「なるほど、理屈です。さて、これからどう処遇するのがよいと思いますか」
「どうと言われましても、自分はその判断をする役目ではありませんです。ラルコ様の専権事項」
「では、私がその責任において、テンドーに問います。この状態でテストするのは無理がありますよね?」
「それはそうです」
「目隠しと手枷と足枷を解いても、私達の安全は保証できますか。処刑されているところだとしたら、この者は危険人物である可能性が高いと見なさざるを得ません」
 どことなく浮世離れした会話を交わしてやがるなと思っていたら、急に現実的な分析を始めた。まあ、当たってるな。何が起きたのかはまだ不明だが、絞首刑からはひとまず逃れられたらしい。ならばこのまま逃げ切るのを目指す。
「安全の保証ですか。難しいかもしれません」
 テンドーとかいう名前らしい若い男は、声を小さくして難しげに言った。拘束されている俺を見て、そこまで恐れるとは、なかなか謙虚じゃないか。
「難しいですか? 戦の場に立ったことのあるあなたにとっても?」
 戦だって? おいおい、じゃあ軍人なのかよ、この若い衆。ならば話は別だ。俺の身体能力はぎり、警官と五分ってところだ。職業軍人を相手にして、勝てる気がしない。逃げるのは保留。隙を突いて攻撃するなんてもっての外。引き続き様子見しかない。
「はい。“私達”と言うからには二人とも無傷でいられるかどうかを問われているのでしょう。ラルコ様は何に替えてでもお守りしますが、自分自身の身体が傷を負わないでいられるかは、何とも申し上げられません」
 さっき謙虚と言った評価は取り消そう。こいつ、自信満々じゃないか。声は若いが実は経験豊富なベテラン? もしくは身体能力抜群の巨漢か何かか? というか、武器を携帯しているのだろうか。銃でこちらを狙っているのかもしれない。首吊りを免れたかと思ったら、今度は銃殺の憂き目に遭うとしたら、まったくもってついていない。地獄から天国ならぬ、地獄からまた地獄へ、だ。
 ……俺は反省しない男だが、表面上、装うことはできる。だったら、今も下手に出るのが得策ではあるまいか。
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