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4.頭巾越しの口八丁
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「あの」
まずは呼び掛けてみた。少し前まで怒鳴り、喚き散らしていたのとは一転して、なるべく穏やかな声になるよう努める。
「おや。やっと話し掛けてきましたよ」
ラルコ様とやらのまたとぼけた感じの声に、すざっ、という音が重なる。後者の音は、テンドーが某かの武器を構えて、足の位置を整えて踏ん張ったものかもしれない。
「慌てないで、テンドー」
「慌ててはおりません。備えているまでです」
「そうだったわね。でも、この者は身動き取れない状態にあるのは明らかです。まずは話してみなければ」
「どうぞ、ラルコ様はラルコ様のお考えで、なさってください。自分はあなたに危害が及んだとき、お守りするのみ。今は備えるのが妥当かと」
「分かりましたから、しばらく静かにして頂戴。――私の名はラルコ・ウェイアイ。あなたを何とお呼びすれば……?」
ようやくコンタクトが取れそうだ。それにしても名前が、日本人とは思えないのが気になる。最初はあだ名か、もしくは俺の聞き違いと解釈していたのだが、どうやら違う。
「俺はシジマ。シジマ・タット。上でも下でも、どちらの名前でも好きに呼んでくれていい」
気持ち悪いくらい丁寧語で行こうかという考えが頭をよぎったが、それだと早い内にボロが出る恐れが高い。普段の俺を出しつつ、できる限りフランクな口ぶりを試そう。雰囲気がやばいと感じたら、変更すればいい。
「ではタットさん。故あって、今はまだあなたの手足を自由にする訳には参りませんが、こちらからの質問に正直にお答えいただければ、善処します。よろしいですか」
「ああ、理解できるよ。そちらにとっちゃあ俺は不審者だろうし、罪人にも見えるだろうからね」
「ああ、先ほどの話をちゃんと聞いていたんですね。ではちょうどいいので、確認の意味も込めてその件から参りましょう。あなたは日本という国の法律で処罰され、今まさに絞首刑を執行されるところでしたか?」
「その通りだ。罪状も言わなきゃならないか?」
「聞きたいですね」
適当に軽めの罪を犯したことにしようと考えていたが、相手は日本を知っており、法律もある程度は知っているらしい。そもそも日本語をしゃべっているくらいだし、ここはごまかしは通用しないと見た。
「やむを得ない事情があって、人を殺した」
若干の脚色や隠蔽はする。実際には欲望最優先という事情に従ったまでだ。
という俺のみみっちい細工に対し、相手は特に気に留めるでもなく、次の質問に移った。
「それではここからが本題となります。あなたは今、体調に何らかの異変を感じていますか」
「体調?」
健康状態のチェックでも始めるつもりか。だが、これが本題だと言った……。うーん、分からん。何の狙いがあっての質問なんだ?
「幸か不幸か、体調はいい。刑が執行される日は、朝から何かと世話を焼いてもらえるせいかもしれない」
自嘲気味に言った。けれども、見えない相手からは何故かため息が返って来た。
「タットさん、そのようなニュアンスで尋ねたのではありません。範囲がとても広くて言葉で明瞭に表現するのは難しいのですが……これまでにない感覚が宿っている、というような異変です」
「……たとえばどんなことなのか、例を挙げてもらえないか」
「そうですね。力が普段よりも出せそうだとか、直感が冴え渡っているとか、もしくは空を飛べるような気がするといったところです」
何だ何だ。聞いている内におかしなことを連想した。特撮ヒーロー物のパターンに、闇の組織に浚われて改造人間にされるってのがあったが、俺、もしかして改造された? でも改造した連中がしてくる質問にしては、辻褄が合わないような。特定の能力を発現させたいのであれば、その期待する能力についてのみ、俺に尋ねればいい。今の聞き方だと、どんな能力が出るのか蓋を開けてみるまでまったく分かっていないって感じだ。
「どうです?」
「いや、今のところは何も感じない」
能力が身に付いていた方が、ラルコ達にとってはきっと好ましいのだろう。しかし、嘘をついてもじきにばれるに決まっている。
「そうですか。でも、変化がないかどうか、このあともずっと意識し続けてくださいね。変化を感じたら、すぐに教えてもらいますよ」
「そうしたら手足を自由にしてくれるのかな?」
「もちろん、その方向で考えます。あっ、とりあえず、頭巾を取りましょう」
「ありがたい」
気持ち、首を差し出す格好をする。ラルコ“様”の柔らかな手が優しく……なんてのは期待していない。不審者の頭巾を外す役目は、テンドーとかいう若い男がやるに決まってる。せめて乱暴にしないでくれと思った。
「楽な姿勢を取って」
案の定、テンドーの声が命じてきた。俺は意味も分からず、全身の力を抜くと、身体の左側が下になる格好で、完全に横たわった。
「動かないで。――返事は?」
「はい」
俺は素直に返事した。声はたいして怖くないが、顔や姿が見えないだけに、どんな屈強な男なんだろうと、想像が膨らむ。
まずは呼び掛けてみた。少し前まで怒鳴り、喚き散らしていたのとは一転して、なるべく穏やかな声になるよう努める。
「おや。やっと話し掛けてきましたよ」
ラルコ様とやらのまたとぼけた感じの声に、すざっ、という音が重なる。後者の音は、テンドーが某かの武器を構えて、足の位置を整えて踏ん張ったものかもしれない。
「慌てないで、テンドー」
「慌ててはおりません。備えているまでです」
「そうだったわね。でも、この者は身動き取れない状態にあるのは明らかです。まずは話してみなければ」
「どうぞ、ラルコ様はラルコ様のお考えで、なさってください。自分はあなたに危害が及んだとき、お守りするのみ。今は備えるのが妥当かと」
「分かりましたから、しばらく静かにして頂戴。――私の名はラルコ・ウェイアイ。あなたを何とお呼びすれば……?」
ようやくコンタクトが取れそうだ。それにしても名前が、日本人とは思えないのが気になる。最初はあだ名か、もしくは俺の聞き違いと解釈していたのだが、どうやら違う。
「俺はシジマ。シジマ・タット。上でも下でも、どちらの名前でも好きに呼んでくれていい」
気持ち悪いくらい丁寧語で行こうかという考えが頭をよぎったが、それだと早い内にボロが出る恐れが高い。普段の俺を出しつつ、できる限りフランクな口ぶりを試そう。雰囲気がやばいと感じたら、変更すればいい。
「ではタットさん。故あって、今はまだあなたの手足を自由にする訳には参りませんが、こちらからの質問に正直にお答えいただければ、善処します。よろしいですか」
「ああ、理解できるよ。そちらにとっちゃあ俺は不審者だろうし、罪人にも見えるだろうからね」
「ああ、先ほどの話をちゃんと聞いていたんですね。ではちょうどいいので、確認の意味も込めてその件から参りましょう。あなたは日本という国の法律で処罰され、今まさに絞首刑を執行されるところでしたか?」
「その通りだ。罪状も言わなきゃならないか?」
「聞きたいですね」
適当に軽めの罪を犯したことにしようと考えていたが、相手は日本を知っており、法律もある程度は知っているらしい。そもそも日本語をしゃべっているくらいだし、ここはごまかしは通用しないと見た。
「やむを得ない事情があって、人を殺した」
若干の脚色や隠蔽はする。実際には欲望最優先という事情に従ったまでだ。
という俺のみみっちい細工に対し、相手は特に気に留めるでもなく、次の質問に移った。
「それではここからが本題となります。あなたは今、体調に何らかの異変を感じていますか」
「体調?」
健康状態のチェックでも始めるつもりか。だが、これが本題だと言った……。うーん、分からん。何の狙いがあっての質問なんだ?
「幸か不幸か、体調はいい。刑が執行される日は、朝から何かと世話を焼いてもらえるせいかもしれない」
自嘲気味に言った。けれども、見えない相手からは何故かため息が返って来た。
「タットさん、そのようなニュアンスで尋ねたのではありません。範囲がとても広くて言葉で明瞭に表現するのは難しいのですが……これまでにない感覚が宿っている、というような異変です」
「……たとえばどんなことなのか、例を挙げてもらえないか」
「そうですね。力が普段よりも出せそうだとか、直感が冴え渡っているとか、もしくは空を飛べるような気がするといったところです」
何だ何だ。聞いている内におかしなことを連想した。特撮ヒーロー物のパターンに、闇の組織に浚われて改造人間にされるってのがあったが、俺、もしかして改造された? でも改造した連中がしてくる質問にしては、辻褄が合わないような。特定の能力を発現させたいのであれば、その期待する能力についてのみ、俺に尋ねればいい。今の聞き方だと、どんな能力が出るのか蓋を開けてみるまでまったく分かっていないって感じだ。
「どうです?」
「いや、今のところは何も感じない」
能力が身に付いていた方が、ラルコ達にとってはきっと好ましいのだろう。しかし、嘘をついてもじきにばれるに決まっている。
「そうですか。でも、変化がないかどうか、このあともずっと意識し続けてくださいね。変化を感じたら、すぐに教えてもらいますよ」
「そうしたら手足を自由にしてくれるのかな?」
「もちろん、その方向で考えます。あっ、とりあえず、頭巾を取りましょう」
「ありがたい」
気持ち、首を差し出す格好をする。ラルコ“様”の柔らかな手が優しく……なんてのは期待していない。不審者の頭巾を外す役目は、テンドーとかいう若い男がやるに決まってる。せめて乱暴にしないでくれと思った。
「楽な姿勢を取って」
案の定、テンドーの声が命じてきた。俺は意味も分からず、全身の力を抜くと、身体の左側が下になる格好で、完全に横たわった。
「動かないで。――返事は?」
「はい」
俺は素直に返事した。声はたいして怖くないが、顔や姿が見えないだけに、どんな屈強な男なんだろうと、想像が膨らむ。
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