職能呪術娘は今日も淡々とガチャする

崎田毅駿

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6.戻れる? 戻れない?

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「じゃ、お水をイダハ・コミンに持って来てもらいましょう。テンドー、伝えて来て」
「承知しました」
 俺の方に鋭い目つきで一瞥をくれたテンドーは、くるりときびすを返した。簡易的な鎧は思った以上に軽い素材でできているらしく、その動作で一瞬浮く。
 向きを換えた勢いのままテンドーは一旦廊下のような通路に引っ込んで、誰か――多分、イダハ・コミンなる人物に水を持ってく売るようにと伝えるのが聞こえた。
 そのまましばらく待つテンドー、程なくして、通路の出入り口から腕が二本覗き、コップと水筒らしき円柱の物体がテンドーへと渡された。
「手を自由にするのはまだ早いので、悪いのですが、テンドーに飲ませてもらってください」
「仕方ないです。テンドー、さん。お願いします」
 俺が話し掛けてもテンドーは無言のまま。一度、コップなどを床に置き、俺の身体を引き起こした。後ろ手に手錠を填められ、足首も結ばれた格好のまま、中途半端な体育座りをさせられる。
「いてて。あの、もう少し優しく……」
「すまないが、がまんしてもらう。人間に対してどのくらい力を込めていいのか、加減が分からないのでね」
「はあ」
 俺は借りてきた猫みたいに大人しくするよう努めている。が、今さっきのテンドーの台詞に、聞き捨てならない単語が含まれていたことに数秒遅れで気が付いた。
「お、おい!」
「急に乱暴なしゃべりになりましたね」
「これが本性でしょうよ、きっと」
 ラルコとテンドーの掛け合いに俺は言葉をねじ込み割って入る。
「変なことに気付いた。俺の思い違いでなければ、何というか……薄気味悪い。質問させて欲しい」
「ラルコ様に問いたいのであれば、丁寧な言葉遣いに戻せ」
「いや、先にテンドーさん、あなたに聞きたい。さっき言ったよな、『人間に対してどのくらい力を込めていいのか分からない』とかどうとか」
「そのような意味のことを確かに言った。それがどうしたと?」
「“人間”て何だ。まるで、テンドーさん達は人間じゃないかのような言い方じゃないか」
「いや、人間だよ」
 少しだけおかしそうに唇の両端を上に向けるテンドー。どこに笑う要素があったんだろう?
「だが、タットさんが今言った僕の台詞の場合では、地球人という意味で言っている。自動的に翻訳されてそちらに聞こえるんだよ。その変換の際に、たまにノイズが入って、意味がちょっぴりずれることもあるらしい。地球人とは、タットさんにとって人間と同義だろう?」
「あ、ああ。確かにそう言えるが……じゃあ、あなた方は一体何なんだ」
「正確に合致する、適切な表現はないようですが、イメージが最も近いのは別世界人、異界人といった辺りになるみたいです」
 テンドーの口調が丁寧になり、それと同時に「ベッセカイジン」「イセカイジン」と、日本語を覚え立ての外国人がするような発音で聞こえた。
「お分かりか?」
 テンドーの口調が戻った。
「あ、ああ。何となくだが」
 別世界人、異世界人とは。俺には縁遠い、文学のジャンルの中でもライトなやつによくあるというあれか? 実在するとは知らなかった。まさか常識ではあるまい。
「ラルコ様やテンドーさん達は、俺のような人間、地球人、日本人と身体的にどこがどう違うんだろう?」
 純粋に興味がわいて、聞いてみた。ところがテンドーはラルコと目を見合わせたあと、一つ大きく頷き、それから俺に対しては首を横に振った。
「話せない。よく分かっていないということもあるが、もしかすると、そちらの世界の人々に対して、我らの弱点を示唆することにつながるかもしれない。なので、言えないのである」
「弱点……」
「敵対しようという訳ではありません」
 ラルコがフォローする。何だか役割が逆のように見える。テンドーが止め役をすべきじゃないのか。お姫様ではないにしても、神官だか巫女だかを、騎士が守るのがセオリーってものではないのかと思う。まあ、テンドーの方が若いみたいだから仕方がないか。
「ただ、お互いに別の世界なんて存在していると知ったら、互いに干渉しようと考える人が出て、色々と問題が発生するかもしれません。万が一にもそうなったときの備えです」
「えっと。ということは、俺、元の世界には戻れないのでしょうか?」
 戻ったところで処刑のやり直しになるだけかもしれないが、やはり気になるものは気になる。戻れないとはっきりすれば、こちらの世界で生きていくことにもより身が入ろうというものさ。
「何故、そんな風に思ったのですか?」
 質問に質問で返されてしまった。元いた世界での俺の立場なら、厳しく注意するところだけれども、現在は状況が異なる。そもそも、元の世界での俺も、所詮は周りを服従させるために、ポーズを取り続けていたに過ぎないんだが。
 ともかく、今は低姿勢を徹底する。口調もどんどん丁寧にしていこう。
「俺がうがち過ぎなだけかもしれません。でも、先ほどのお話を聞いた限りでは、異なる世界が存在することを、話してはいけない雰囲気があるじゃないですか。だとしたら、俺を一人で帰すなんてさせずに、ずっとこちらの世界に留め置く方が安心で確実、と想像したんです」
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