ベッド×ベット

崎田毅駿

文字の大きさ
6 / 24

マナーといたずらと

しおりを挟む
だいぶ以前、テレビ番組で、木の枝をささくれ立った形状に剥いて、歯ブラシにしている民族を紹介しているのを見たことがある。そのときの映像を思い起こして、口中の水分が吸い取られるイメージを持った。
「歯磨きのために生えてきたような草で、穂をひと撫ですると弾けるんだ。すると羽毛みたいなのが表れるから、折を見て口に入れる」
「折を見てって、どういう……」
「言葉の説明が面倒だから、実際にやってみせるわ。来て」
 勝手口に足を向けるビッツ。彼女にちょいちょいと指で招かれ、着いていこうとすると、ヤッフが呼び止めた。
「ちょいとお待ち。戦利品をお忘れだよ」
 いつの間に引っ張り出してきたのか分からないが、彼女は靴を手にしていた、もとい、宙に浮かせていた。赤と銀の三角形が交錯したデザインで、意外ときれいに見える。靴紐らしき物が出ているんだけど、よく知るスニーカーなんかとはちょっと異なる仕組みになっているようだ。
「履いてみて、大きかったら、ぴったり合うまで靴紐を引っ張る」
 言われた通りに履いてみる。確かに大きかったけど、紐を引っ張っいったらぴたっとフィットする瞬間がじきに訪れた。
「余った靴紐は適当に結ぶ。脱ぐときは、紐をほどいてたるみを作ってやると、元に戻るから」
「――おお、凄い」
 この靴にも魔法的な物を感じたけれども、いちいち聞くのは相手にとって煩わしいはず。ここは、こういう物なんだと理解しておこう。
「ありがとうございます。とても履き心地がいいです」
「戦利品なんだから、礼なんて言わずに受け取っておけばいいのさ。でも気に入ったよ」
「え? はい、とても気に入りました、この靴」
「じゃなくて。私があんたのことを気に入ったって意味。手伝いなんてしなくていいから、まずは歯磨きをして、他にも聞きたいことがあれば娘に聞いとくれ」
「分かりました。では」
 軽くお辞儀してから、ふと、重要な気掛かりが浮かんだので、きびすを返すのを途中でやめた。
「すみません、あと一つだけ。この世界でやってはいけない仕種とか言ってはいけない言葉とか、タブーとされている物事を全然知らないんですが、大丈夫でしょうか……」
「ああ、今んとこはなかったね。それにあちらの世界の人がマナーを間違えても、少なくとも一度目は許すのが私らの流儀だよ。タブーとなるとまた話が別だがね。そっちの世界だって、人を殺したら罪になるだろ? そんなことまで一度目だからと許すわけにはいかない」
「確かに。当たり前です」
「ま、追々覚えていくので充分だろうよ。私らとあんたとで全く食い違うマナー上の決め事があって、そのせいで大事件になったなんて話は全く聞いたことがないからねえ」
 それなら多少は安心できる。再度、お辞儀をして、外に出た。

「遅い、何をしてたの」
 腕組みをして分かり易くプンプンしているビッツの前に、駆け足で行き、事情を話す。
「お、いい靴じゃないの。柄が流行遅れだけど、そろそろ一周回ってまた流行るかもね」
「え」
「さ、こっちよ」
 ちょっぴり気になることを言いっ放しにして、彼女はまた手招きならぬ指招きをした。
「これがムカミ。いくらでも生えてくるから、遠慮せずに手折って」
「はあ……使い切りなのかな?」
「もっちろん。二度も三度も使わないよ」
 何を言っているのだこいつはって風な眼差しで見られた。
 それはともかく、ムカミをひと目見て、連想したのはきりたんぽだ。あれの持ち手の長いバージョン。
「持った? 持ったら、手で穂を刺激する。先にやるから見てて」
 見ててと言いながら、ムカミをこちらの顔の前に突き出してくる。よく見ようと顔を近付けたところで、ビッツが穂を人差し指の腹で撫でた。
 途端に、ぽぽぽぽーん!て感じで、何かが目の前を飛び交った。避ける暇が全くなく、身体を反らすのが精一杯。
 どきどきする胸を押さえながら、いくつもふわふわと飛ぶ綿帽子越しに、ビッツを見た。彼女はお腹を抱えて笑っていた。
「驚いた?」

 つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サウンド&サイレンス

崎田毅駿
青春
女子小学生の倉越正美は勉強も運動もでき、いわゆる“優等生”で“いい子”。特に音楽が好き。あるとき音楽の歌のテストを翌日に控え、自宅で練習を重ねていたが、風邪をひきかけなのか喉の調子が悪い。ふと、「喉は一週間あれば治るはず。明日、先生が交通事故にでも遭ってテストが延期されないかな」なんてことを願ったが、すぐに打ち消した。翌朝、登校してしばらくすると、先生が出勤途中、事故に遭ったことがクラスに伝えられる。「昨日、私があんなことを願ったせい?」まさかと思いならがらも、自分のせいだという考えが頭から離れなくなった正美は、心理的ショックからか、声を出せなくなった――。

ゼロになるレイナ

崎田毅駿
児童書・童話
お向かいの空き家に母娘二人が越してきた。僕・ジョエルはその女の子に一目惚れした。彼女の名はレイナといって、同じ小学校に転校してきて、同じクラスになった。近所のよしみもあって男子と女子の割には親しい友達になれた。けれども約一年後、レイナは消えてしまう。僕はそのとき、彼女の家にいたというのに。

江戸の検屍ばか

崎田毅駿
歴史・時代
江戸時代半ばに、中国から日本に一冊の法医学書が入って来た。『無冤録述』と訳題の付いたその書物の知識・知見に、奉行所同心の堀馬佐鹿は魅了され、瞬く間に身に付けた。今や江戸で一、二を争う検屍の名手として、その名前から検屍馬鹿と言われるほど。そんな堀馬は人の死が絡む事件をいかにして解き明かしていくのか。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

神の威を借る狐

崎田毅駿
ライト文芸
大学一年の春、“僕”と桜は出逢った。少しずつステップを上がって、やがて結ばれる、それは運命だと思っていたが、親や親戚からは結婚を強く反対されてしまう。やむを得ず、駆け落ちのような形を取ったが、後悔はなかった。そうして暮らしが安定してきた頃、自分達の子供がほしいとの思いが高まり、僕らはお医者さんを訪ねた。そうする必要があった。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...