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交渉
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「……うーん、三着プレゼントはきついな。二着にしてくれ。それと、こっちが勝ったときは、七着分を値札通りに買ってくれよ」
「相変わらず、みみっちいなあ。でも、最初の条件は譲れない。その代わり、こちらの今着ている服――パジャマを古着としてただで出す」
「え?」
思わず声を出す。そりゃ当たり前だよ、勝手に着ている物を賭け代にされては。
「ほう、この服か。確かに珍しい物だし、高く売れるかもしれない」
乗り気になったハルゲンと、ビッツの間に腕を差し込んで口を開く。
「ちょ、ちょい待ち、ビッツ。売られたら着る物がなくなる」
「だからそれは負けた場合で、勝てばいいんだよ。負けたとしたって、五着分の衣服を買ったあとなんだから、着替えれば済む話」
「しかし」
「もしかして、思い入れのある寝間着なの? だったら取り消すけど」
「愛着はあるけど、思い入れって程じゃなくて、要するに慣れて着心地がいい」
「そういう事情であれば、ますます欲しくなる」
ハルゲンは笑顔のにやにや度を高めた。古着を買い取る際にその表情って、一歩間違えると危ない人だよ。
「どうする?」
「うーん……」
腕組みをして考える。肝心要の何を使ってギャンブルするのかが分からない。ために、決めようがないのだけれども、そのことを口にした途端、じゃあ勝負するのは決まりなとか言われそうな気がして、言い出せないでいた。
「やれやれ。迷子の仔猫を後押しするために、条件をよくしてやろう。君が勝った場合は、追加でこの銀のアクセサリーを付けるとしよう。どうだい?」
ハルゲンが店先から持って来たのは、銀色をした腕輪だった。親指二本分ほどの幅があり、見た目は重量感がある。表面には凝った彫り物が施されているけれども、何の図柄なのかは分からなかった。
「値打ち物?」
ビッツに尋ねる。
「ん、まあまあだね。図柄がね、ちょい、流行遅れってとこ」
「もし勝ったときはビッツにあげる、って言えば、嬉しい?」
「嬉しいよ。もらえたら、お母さんと共同で使うと思うけど」
「ようし、決めた。やってみる」
「え、それはくれるつもりと受け取っていいのかい?」
ビッツが目をきらきらさせたように見えた。
こちらとしては、感謝の気持ちを何か形で表したいなと思っていたところ。銀のアクセサリーで喜んでくれるなら、頑張らねば。
あ~、でも、さっきまではもっと慎重に行こうと考えていたのに、結局、物につられる形になってしまった。
「よし、やろう。何で勝負しようか」
逃がすまいぞという気持ちの表れなのか、ハルゲンは早口で言った。応じようとしたら、ビッツが割って入ってきた。
「私達の方で決めさせてくれる?」
「ああ、いいとも。その耳を付けてるってことは、異世界から来たばかりの証みたいなもんだろ。ちょっとぐらいハンデをあげなくては、男が廃る」
おー、これはありがたい。
と、喜んだのも束の間、舌の根の乾かない内にハルゲンは補足する。
「でも、納得の行かない提案だったら、拒ませてもらうぞ」
やっぱり。そりゃそうだろうな~。
「時間を取っていると、警察に行く時間がなくなる。手っ取り早く決着して、しかも勝てそうなのを提案しよう」
ビッツがひそひそ声で言った。まあ、当たり前の指針だ。
相談する間、ハルゲンは店の中に引っ込んで、親父さんと思しき人と話をしている。相談内容を盗み聞きなんかしないよっていうアピールか。こちらの世界にも昔ながらの男らしい・女らしいっていう概念があるのなら、ハルゲンは差し詰め、「どうだ、俺は男らしいだろう」と格好を付けて、装うタイプに見える。
この見立てが当たっているかどうか、ビッツに聞いてみた。彼女はハルゲンと顔馴染みだからよく知ってるんだろう、即答で「そうだよ」と(笑)付きの返事があった。
「じゃあ、こういうのはどうかな」
別の意味でもギャンブルになるけど、思い切って言ってみた。
つづく
「相変わらず、みみっちいなあ。でも、最初の条件は譲れない。その代わり、こちらの今着ている服――パジャマを古着としてただで出す」
「え?」
思わず声を出す。そりゃ当たり前だよ、勝手に着ている物を賭け代にされては。
「ほう、この服か。確かに珍しい物だし、高く売れるかもしれない」
乗り気になったハルゲンと、ビッツの間に腕を差し込んで口を開く。
「ちょ、ちょい待ち、ビッツ。売られたら着る物がなくなる」
「だからそれは負けた場合で、勝てばいいんだよ。負けたとしたって、五着分の衣服を買ったあとなんだから、着替えれば済む話」
「しかし」
「もしかして、思い入れのある寝間着なの? だったら取り消すけど」
「愛着はあるけど、思い入れって程じゃなくて、要するに慣れて着心地がいい」
「そういう事情であれば、ますます欲しくなる」
ハルゲンは笑顔のにやにや度を高めた。古着を買い取る際にその表情って、一歩間違えると危ない人だよ。
「どうする?」
「うーん……」
腕組みをして考える。肝心要の何を使ってギャンブルするのかが分からない。ために、決めようがないのだけれども、そのことを口にした途端、じゃあ勝負するのは決まりなとか言われそうな気がして、言い出せないでいた。
「やれやれ。迷子の仔猫を後押しするために、条件をよくしてやろう。君が勝った場合は、追加でこの銀のアクセサリーを付けるとしよう。どうだい?」
ハルゲンが店先から持って来たのは、銀色をした腕輪だった。親指二本分ほどの幅があり、見た目は重量感がある。表面には凝った彫り物が施されているけれども、何の図柄なのかは分からなかった。
「値打ち物?」
ビッツに尋ねる。
「ん、まあまあだね。図柄がね、ちょい、流行遅れってとこ」
「もし勝ったときはビッツにあげる、って言えば、嬉しい?」
「嬉しいよ。もらえたら、お母さんと共同で使うと思うけど」
「ようし、決めた。やってみる」
「え、それはくれるつもりと受け取っていいのかい?」
ビッツが目をきらきらさせたように見えた。
こちらとしては、感謝の気持ちを何か形で表したいなと思っていたところ。銀のアクセサリーで喜んでくれるなら、頑張らねば。
あ~、でも、さっきまではもっと慎重に行こうと考えていたのに、結局、物につられる形になってしまった。
「よし、やろう。何で勝負しようか」
逃がすまいぞという気持ちの表れなのか、ハルゲンは早口で言った。応じようとしたら、ビッツが割って入ってきた。
「私達の方で決めさせてくれる?」
「ああ、いいとも。その耳を付けてるってことは、異世界から来たばかりの証みたいなもんだろ。ちょっとぐらいハンデをあげなくては、男が廃る」
おー、これはありがたい。
と、喜んだのも束の間、舌の根の乾かない内にハルゲンは補足する。
「でも、納得の行かない提案だったら、拒ませてもらうぞ」
やっぱり。そりゃそうだろうな~。
「時間を取っていると、警察に行く時間がなくなる。手っ取り早く決着して、しかも勝てそうなのを提案しよう」
ビッツがひそひそ声で言った。まあ、当たり前の指針だ。
相談する間、ハルゲンは店の中に引っ込んで、親父さんと思しき人と話をしている。相談内容を盗み聞きなんかしないよっていうアピールか。こちらの世界にも昔ながらの男らしい・女らしいっていう概念があるのなら、ハルゲンは差し詰め、「どうだ、俺は男らしいだろう」と格好を付けて、装うタイプに見える。
この見立てが当たっているかどうか、ビッツに聞いてみた。彼女はハルゲンと顔馴染みだからよく知ってるんだろう、即答で「そうだよ」と(笑)付きの返事があった。
「じゃあ、こういうのはどうかな」
別の意味でもギャンブルになるけど、思い切って言ってみた。
つづく
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