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ここでは表社会の基礎
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会員証も問題なく発行された。四角くて案外厚みのあるカード型の会員証を受け取った私は、ビッツとともに光が煌々と輝く広い部屋に通された。これは……テレビなんかでたまに見たことのある、マージャンのお店の雰囲気に近いかも。実際、複数あるテーブルの板はどれも緑色だ。ただし、旧いドラマで描かれてきたような暗くて危険そうな気配は皆無で、内装はオープンしたてのようにきれいだし、従業員らしき人達の身なりのもきちんとしている(シルバーのラインが入ったブルー、もしくはオレンジイエローといった派手めの配達業者みたいな制服だけど)。健全な遊び場どころか、ちょっとした高級感すら漂うような。
遊技場のフロアには、案内窓口のようなものはなく、戸惑っていると、ビッツが動いてくれた。近くにいた従業員に声を掛ける。人間というか地球人の感覚を当てはめると、五十がらみの渋い男性、ロシア系アジア人てところかな。細身だけれどもお腹は少し出ている。
空気にまだ馴染めず、距離を置いて二人のやり取りを見ていると、程なくして私の方を振り向いた。具体的な会話内容は聞こえないんだけど、多分、「あの人がギャンブルしたがってるんですけど」的な話をしているんだろう。
そうこうする内に男性従業員が微笑みながら近付いてきた。私の正面、五十センチ強の辺りで立ち止まって、頭を下げてきた。「今日はご利用ありがとうございます」とか何とか言ったみたいなんだけど、こっちは依然としてどぎまぎしているから、お辞儀を返すだけで精一杯。付け耳が揺れる。
「なしなしのアマチュア戦をご希望とのことですが、間違いございませんか。私でよろしければお相手いたします」
話が早い。
私はとりあえず、気になっていることを口にした。
「あの、ギャンブルにお金は賭けないとしても、ここの利用料金は……」
「いただきません。すべては公の費用で賄われております。もちろん、賭けありで勝負されて儲けられた場合は、税を課すことになっておりますが」
「そうなんですね。ありがとうございます。それから――」
続けて尋ねようとしたら、ビッツに腕を引かれた。
「あとは私に聞いてよ。たいていのことは説明できるからさ。――ダブストンさんはギャンブルの準備を進めておいてくださいな」
「承知しました」
軽くだがきっちりとした動作で頭を垂れると、男性従業員はきびすを返してどこかへ向かう。
彼の名前はダブストンと言うらしい。そういえば、名札みたいなのが胸元にあったけれども、何て書いてあるのかは当然分からなかった。
「ごめんねー、前もって知らないことは聞いてもらって、私が説明しとけばよかったんだ」
「それは確かに理屈だね。ところでビッツはここ、利用経験あるの?」
「たまにね。そもそもこの辺りまで出て来ることがあんまりないから。それに、誰でも入れる店ってそう多くはないんだよ。年齢で区切られちゃうのが普通だから。ここは数あるギャンブル場の中でも、とりわけ安心安全なところで、さすが国王様の意向が行き渡っている感じ」
「てことは、危ないお店もあるんだ? 裏社会の人が仕切っているような」
「うん? ううん、ないない」
予想に反して、否定の返事に、私は思わず目を見開いた。賭博場と暴力団・マフィアってセットみたいな印象があったから、ほっとするよりも驚きが遙かに上回る。
「どうして? 裏社会組織の重要な資金源になってるんじゃない?」
「どこからそんなイメージが……ああ、紀野さんはギャンブルが当たり前ではない世界から来たんだったわね」
当たり前じゃない世界というよりも、国かなあ。
「この国ではどこでもギャンブルできる。強ければ稼げて、願いも叶う。誰でもできるから職業ってわけでもないんだけど、それだけで暮らしている人もいて、公に認められてる。私らはこれが当たり前だから考えもしないけれど、裏でやる必要は全然ないんだと思うよ」
「そっかー。でもさ、裏の方が物凄く大金が賭けられるとか、組織同士の揉め事をギャンブルで解決するために強い人を雇うとか、ありそう」
「変なの。どうしても裏社会に結び付けたいみたい」
「いや、決してそういうわけではなくって。うーん、防衛本能? 万が一、こういうお店で連戦連勝、無敵の快進撃を続けた結果、変なところからスカウトされて裏社会にはまってしまう、みたいなのは避けたいなーと」
「そんなことは起こらないと思うけど、仮に心配するにしても、その無敵の快進撃とやらをやってのけてからにしなよ」
苦笑されてしまった。確かに、心配しすぎだったかもしれない。そもそも、小手先の技で勝てるギャンブルが用意されているかどうかも分からないんだ。取らぬ狸の皮算用を弾いたのは、ビッツ達一家に、いつまでもお世話になっていられまいと考えたからなんだけど。そういえば、私には元手がないんだった。
よし、気持ちを切り替えて、ここは一つ、ビッツにアピールする場と考えようかな。元々、彼女は私のギャンブルの腕前を期待している節が見受けられるけれども、実際にやってみてはい負けましたでは、がっかりするだろう。逆に言えば、このあとのアマチュア戦でいいところを見せられたら、やっぱり私の目に狂いはなかったとばかりに、元手となる資金を景気よく貸してくれるかもしれない。
つづく
遊技場のフロアには、案内窓口のようなものはなく、戸惑っていると、ビッツが動いてくれた。近くにいた従業員に声を掛ける。人間というか地球人の感覚を当てはめると、五十がらみの渋い男性、ロシア系アジア人てところかな。細身だけれどもお腹は少し出ている。
空気にまだ馴染めず、距離を置いて二人のやり取りを見ていると、程なくして私の方を振り向いた。具体的な会話内容は聞こえないんだけど、多分、「あの人がギャンブルしたがってるんですけど」的な話をしているんだろう。
そうこうする内に男性従業員が微笑みながら近付いてきた。私の正面、五十センチ強の辺りで立ち止まって、頭を下げてきた。「今日はご利用ありがとうございます」とか何とか言ったみたいなんだけど、こっちは依然としてどぎまぎしているから、お辞儀を返すだけで精一杯。付け耳が揺れる。
「なしなしのアマチュア戦をご希望とのことですが、間違いございませんか。私でよろしければお相手いたします」
話が早い。
私はとりあえず、気になっていることを口にした。
「あの、ギャンブルにお金は賭けないとしても、ここの利用料金は……」
「いただきません。すべては公の費用で賄われております。もちろん、賭けありで勝負されて儲けられた場合は、税を課すことになっておりますが」
「そうなんですね。ありがとうございます。それから――」
続けて尋ねようとしたら、ビッツに腕を引かれた。
「あとは私に聞いてよ。たいていのことは説明できるからさ。――ダブストンさんはギャンブルの準備を進めておいてくださいな」
「承知しました」
軽くだがきっちりとした動作で頭を垂れると、男性従業員はきびすを返してどこかへ向かう。
彼の名前はダブストンと言うらしい。そういえば、名札みたいなのが胸元にあったけれども、何て書いてあるのかは当然分からなかった。
「ごめんねー、前もって知らないことは聞いてもらって、私が説明しとけばよかったんだ」
「それは確かに理屈だね。ところでビッツはここ、利用経験あるの?」
「たまにね。そもそもこの辺りまで出て来ることがあんまりないから。それに、誰でも入れる店ってそう多くはないんだよ。年齢で区切られちゃうのが普通だから。ここは数あるギャンブル場の中でも、とりわけ安心安全なところで、さすが国王様の意向が行き渡っている感じ」
「てことは、危ないお店もあるんだ? 裏社会の人が仕切っているような」
「うん? ううん、ないない」
予想に反して、否定の返事に、私は思わず目を見開いた。賭博場と暴力団・マフィアってセットみたいな印象があったから、ほっとするよりも驚きが遙かに上回る。
「どうして? 裏社会組織の重要な資金源になってるんじゃない?」
「どこからそんなイメージが……ああ、紀野さんはギャンブルが当たり前ではない世界から来たんだったわね」
当たり前じゃない世界というよりも、国かなあ。
「この国ではどこでもギャンブルできる。強ければ稼げて、願いも叶う。誰でもできるから職業ってわけでもないんだけど、それだけで暮らしている人もいて、公に認められてる。私らはこれが当たり前だから考えもしないけれど、裏でやる必要は全然ないんだと思うよ」
「そっかー。でもさ、裏の方が物凄く大金が賭けられるとか、組織同士の揉め事をギャンブルで解決するために強い人を雇うとか、ありそう」
「変なの。どうしても裏社会に結び付けたいみたい」
「いや、決してそういうわけではなくって。うーん、防衛本能? 万が一、こういうお店で連戦連勝、無敵の快進撃を続けた結果、変なところからスカウトされて裏社会にはまってしまう、みたいなのは避けたいなーと」
「そんなことは起こらないと思うけど、仮に心配するにしても、その無敵の快進撃とやらをやってのけてからにしなよ」
苦笑されてしまった。確かに、心配しすぎだったかもしれない。そもそも、小手先の技で勝てるギャンブルが用意されているかどうかも分からないんだ。取らぬ狸の皮算用を弾いたのは、ビッツ達一家に、いつまでもお世話になっていられまいと考えたからなんだけど。そういえば、私には元手がないんだった。
よし、気持ちを切り替えて、ここは一つ、ビッツにアピールする場と考えようかな。元々、彼女は私のギャンブルの腕前を期待している節が見受けられるけれども、実際にやってみてはい負けましたでは、がっかりするだろう。逆に言えば、このあとのアマチュア戦でいいところを見せられたら、やっぱり私の目に狂いはなかったとばかりに、元手となる資金を景気よく貸してくれるかもしれない。
つづく
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