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お国がたり
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「大丈夫大丈夫。面白い話が聞けると、我が直感が囁いている」
片手で胸を叩くポーズを取る安藤。どこからそんな自信が沸いてくるのか知らないが、結月は安藤が将来流行る物を時々当てることがあるのを目の当たりにしてきただけに、これ以上は言うまいと思った。
(去年の夏前、「ゆー先生に」ってシースルーであみあみのパレオをくれたことあったけど、あれがまさかあんなに流行るなんて)
パレオは基本的に足を隠すための物だと思っていた結月にとって、常識を覆された心地になったものである。
結月が回想にふけった間に、チケット手配も話がついたようだ。
オーダーしておいたドリンクと軽くつまめる物が届いたところで、取材を本格的に始める。
「まず、お国はどちらですか」
いらぬ警戒心を抱かせる場合もあるので、取材でこれ見よがしにペンとノートを構えるのは避けることもあるのだが、今は違った。相手はすっかり打ち解けている。
アッシャーはアレッサの顔を見て、アレッサが頷いてから答えた。
「シャンドリテ王国から来たです。悲しいことに日本ではほとんど知られていないであろう。独立してまだ間がない小国だからな」
「シャンドリテ王国、ですか。すみません、本当に初めて聞きました。どちらの地域なんでしょう?」
「中東の」
答えかけるアッシャーを止めて、アレッサがタブレットの画面をこちらに向けてきた。中東一帯の地図が表示されており、その一部が赤く塗られている。でこぼことした小さな菱形をしていて、海は近いが接してはいないようだ。
「独立からはまだ日が浅いが、部族としては長く続いている。現国王で十三代目なのである」
小国・小部族なりに誇りを持っているらしく、アッシャーは胸を張り、自慢げになった。
人口や気候風土、経済や特産品等についても、アレッサのサポートを時々受けながら微に入り細に入り、答えていく。
メモを取る内に、結月はちょっとした違和感を覚える。
(アレッサさん、詳しすぎるんじゃない?)
自分に置き換えてみる。自分が外国の方に日本について尋ねられ、どれほどのことが答えられるだろうか。人口と気候風土ぐらいは簡単かもしれないが、詳しい経済実態なんて無理だ。特産品も名前は挙げられてもそれぞれの中身を説明するには、知っていることが乏しい。
もちろん日本人でもすらすら答えられる人はいるだろうけれども……それにしてもアレッサの答えっぷりは、広く浅くではなく、広くて深い気がする。
そういえば、と結月は基本的なことを聞いてなかったなと気付く。
「アッシャーさんとアレッサさんは、どういう間柄なんでしょう? 差し支えがなければ教えていただけますか」
同性カップルだとしても別に驚かないぞと、心構えをした。
「ほう、そんなところを気にしますか。面白い」
アッシャーは言葉の通り、愉快そうに目を細めている。そこから目をぱっと開いて、「結月さんにはどのように見える?」と質問返しを寄越した。
「そうですね。顔かたちから言って、ご兄弟には見えませんし、友達同士で旅行と言っても、随分若いように感じます。雰囲気は、アレッサさんが先生、アッシャーさんが生徒というのが一番近いような。でも、先生が生徒一人だけについて回るのは変だし、お二人の間の呼び方もちょっと合わないかな。風習や言語的な差異と言えばそれまでですが」
「――どうだろう、アレッサ。何と言ったかな。『新しい友、唐辛子』?」
「それを言うのなら、当たらずとも遠からず。あと、自分はノーコメントで。あなたの判断に任せることとします」
「当たらずとも遠からず、か。そうだそうだ。僕にとって彼は先生のような存在だ」
アッシャーの身振り手振りが大きくなる。前にも増してリラックスしているのが分かる。言葉遣いも「だ・である」調が増えてきたような。
「師弟のようなもの、ですか? 師弟お二人で観光旅行というのは、シャンドリテ王国では当たり前のことなのでしょうか。日本ではあまり聞きませんし、あるとしたら勉強や修行のために同道するというイメージです」
アッシャーはアレッサに二言三言小声で尋ねてから、小さく首肯する。分からない日本語を聞いたらしい。
「確かに、師弟二人で観光旅行は我が国でも珍しい。旅の理由を語れば納得してもらえると思う」
「差し支えがなければぜひ」
「それがな、差し支えがあるのだ」
「は?」
思わず、ぽかんとしてしまう。社交辞令としての「差し支えがなければ」であって、今の会話の流れからすれば当然、すんなり話してもらえるものと信じて疑っていなかった。そこをひっくり返されるとは……結月は相手をまじまじと見た。アッシャーは己の言葉の効果を楽しんでいるのか、愉快そうに口角を上げている。
「そんな顔をしないで欲しい。差し支えがあると言ったが、他言無用を約束してくれれば問題はないですから」
「えっと――どうします、安藤さん?」
軽々に「他言無用、守ります」なんて返事していいものか、迷いが生じた。担当編集者の方を振り向くと、その表情は結月と同じように困惑を浮かべていた。
片手で胸を叩くポーズを取る安藤。どこからそんな自信が沸いてくるのか知らないが、結月は安藤が将来流行る物を時々当てることがあるのを目の当たりにしてきただけに、これ以上は言うまいと思った。
(去年の夏前、「ゆー先生に」ってシースルーであみあみのパレオをくれたことあったけど、あれがまさかあんなに流行るなんて)
パレオは基本的に足を隠すための物だと思っていた結月にとって、常識を覆された心地になったものである。
結月が回想にふけった間に、チケット手配も話がついたようだ。
オーダーしておいたドリンクと軽くつまめる物が届いたところで、取材を本格的に始める。
「まず、お国はどちらですか」
いらぬ警戒心を抱かせる場合もあるので、取材でこれ見よがしにペンとノートを構えるのは避けることもあるのだが、今は違った。相手はすっかり打ち解けている。
アッシャーはアレッサの顔を見て、アレッサが頷いてから答えた。
「シャンドリテ王国から来たです。悲しいことに日本ではほとんど知られていないであろう。独立してまだ間がない小国だからな」
「シャンドリテ王国、ですか。すみません、本当に初めて聞きました。どちらの地域なんでしょう?」
「中東の」
答えかけるアッシャーを止めて、アレッサがタブレットの画面をこちらに向けてきた。中東一帯の地図が表示されており、その一部が赤く塗られている。でこぼことした小さな菱形をしていて、海は近いが接してはいないようだ。
「独立からはまだ日が浅いが、部族としては長く続いている。現国王で十三代目なのである」
小国・小部族なりに誇りを持っているらしく、アッシャーは胸を張り、自慢げになった。
人口や気候風土、経済や特産品等についても、アレッサのサポートを時々受けながら微に入り細に入り、答えていく。
メモを取る内に、結月はちょっとした違和感を覚える。
(アレッサさん、詳しすぎるんじゃない?)
自分に置き換えてみる。自分が外国の方に日本について尋ねられ、どれほどのことが答えられるだろうか。人口と気候風土ぐらいは簡単かもしれないが、詳しい経済実態なんて無理だ。特産品も名前は挙げられてもそれぞれの中身を説明するには、知っていることが乏しい。
もちろん日本人でもすらすら答えられる人はいるだろうけれども……それにしてもアレッサの答えっぷりは、広く浅くではなく、広くて深い気がする。
そういえば、と結月は基本的なことを聞いてなかったなと気付く。
「アッシャーさんとアレッサさんは、どういう間柄なんでしょう? 差し支えがなければ教えていただけますか」
同性カップルだとしても別に驚かないぞと、心構えをした。
「ほう、そんなところを気にしますか。面白い」
アッシャーは言葉の通り、愉快そうに目を細めている。そこから目をぱっと開いて、「結月さんにはどのように見える?」と質問返しを寄越した。
「そうですね。顔かたちから言って、ご兄弟には見えませんし、友達同士で旅行と言っても、随分若いように感じます。雰囲気は、アレッサさんが先生、アッシャーさんが生徒というのが一番近いような。でも、先生が生徒一人だけについて回るのは変だし、お二人の間の呼び方もちょっと合わないかな。風習や言語的な差異と言えばそれまでですが」
「――どうだろう、アレッサ。何と言ったかな。『新しい友、唐辛子』?」
「それを言うのなら、当たらずとも遠からず。あと、自分はノーコメントで。あなたの判断に任せることとします」
「当たらずとも遠からず、か。そうだそうだ。僕にとって彼は先生のような存在だ」
アッシャーの身振り手振りが大きくなる。前にも増してリラックスしているのが分かる。言葉遣いも「だ・である」調が増えてきたような。
「師弟のようなもの、ですか? 師弟お二人で観光旅行というのは、シャンドリテ王国では当たり前のことなのでしょうか。日本ではあまり聞きませんし、あるとしたら勉強や修行のために同道するというイメージです」
アッシャーはアレッサに二言三言小声で尋ねてから、小さく首肯する。分からない日本語を聞いたらしい。
「確かに、師弟二人で観光旅行は我が国でも珍しい。旅の理由を語れば納得してもらえると思う」
「差し支えがなければぜひ」
「それがな、差し支えがあるのだ」
「は?」
思わず、ぽかんとしてしまう。社交辞令としての「差し支えがなければ」であって、今の会話の流れからすれば当然、すんなり話してもらえるものと信じて疑っていなかった。そこをひっくり返されるとは……結月は相手をまじまじと見た。アッシャーは己の言葉の効果を楽しんでいるのか、愉快そうに口角を上げている。
「そんな顔をしないで欲しい。差し支えがあると言ったが、他言無用を約束してくれれば問題はないですから」
「えっと――どうします、安藤さん?」
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