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ありそうでなさそうで
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「そのノリ、嫌いじゃないけれど、疲れるね」
安藤は困惑を苦笑に変えて、まずは言った。アッシャーは言葉の通りに受け取ったらしく、「楽しんでもらえているのなら、嬉しい」と笑みを強める。
「我々は小説作りの参考に取材しているのであって、新聞や雑誌記者の取材じゃないんだし、聞いたことを伏せるのは別に何ら抵抗はないけど……あなた達の打ち明け話を聞いたおかげで危険な目に遭うとかは勘弁ですよ」
「危険? それはないと思うが。何故、そんな考えを持ちましたか?」
笑顔から一転、きょとんとするアッシャー。安藤は答えにくそうにし、結月も察しが付いたが口を挟もうか逡巡する。
「もしや、テロリズムを連想された?」
そこへアレッサが勘よく応じてくれた。図星だった安藤は気まずさを払拭する風に目線をそらし、頭を掻く。それからその頭を深々と下げた。
「はい、すみません。これまでのお二人を見ていて、まさかそんなことはあり得ないと分かったつもりなのに、急に秘密めかして話をされると……」
「面を起こしてください。正直なところを言うと、こちらの国にお邪魔をしたときから、そのような目で見られているなと感じたことは一度や二度では足りません。いちいち気にしてはいません」
そう語るアレッサは幾分不服そうではあったが、口調はさばさばしている。アッシャーも続く。
「自分も同じ感想だが、敢えて文句を言うとしたら一つある」
「何でしょう?」
結月と安藤の声が揃う。
「堂々と見てくれ。これに尽きる」
「堂々と見てくれ……?」
理解がすぐには及ばず、結月は小首を傾げた。安藤も似たような反応で、目を瞬かせている。
「異国人を見て珍しいのは分かる。興味を持つのや警戒するのも分かる。ただ、こっちを見るだけ見ておいて、我々から話し掛けようとすると視線を外し、ぷいっと逃げてしまうのは何故だ」
「ま、まあ、中にはそういう人もいるでしょう。外国語の苦手な――」
「中には、ではない。無関心な人達の方が絶対に多い。中には親切な人もいる、これが真実であろう」
「アッシャー、興奮しないで」
アレッサがたしなめ、飲み物を飲むようにと促した。アッシャーがそれに従う間、話し手はアレッサに交代した。
「言葉が通じないことを危惧して避けるというのは、理解できます。でも、日本は“おもてなし”の国という印象が強いので、避けられるのはショックでした」
「そこは確かに、強調されすぎている面があるかもしれない」
安藤が同意を示す。出版社勤めと合って、自社で出す雑誌などに思うところがあるのかも。
「お昼時、行列に並んでいるとき、恥ずかしながら気が立っていて、あのように威嚇する態度を取ってしまった。心底、お恥ずかしい」
アレッサが目の下辺りを赤らめる。浅黒い肌、カラオケボックス内の少なめの光量の下でも分かるほどに。
アッシャーが「気にする必要なし」とアレッサの肩を叩く。年齢やこれまでの言動から考えると、まるで立場が入れ替わったかのよう。
「……アッシャー。本当にお話になるつもりなんですか」
アレッサが聞く。
(あれ? 言葉遣いがやけに丁寧に……)
気付いた結月は興味がさらにわく一方で、ほんとに他言無用を約束して大丈夫なのか、聞いてもいいのかという懸念も増していた。
「二人が他言無用を約束してくれたなら、な。アレッサも任せると言ったじゃないか」
「それはお――アッシャーの判断力を試す意図が」
「またテストされていたとは。いい加減、勘弁してくれませんか、“先生”」
にやりと笑うアッシャーに、アレッサは二の句を告げなくなった様子で唇を固く結んだ。あるいは腹を据えた態度にも見える。
「さて、話が転覆したが、戻そうじゃないか」
「転覆?」
結月の頭の中をクエスチョンマークが占める。すかさずアレッサが言葉を差し挟んだ。
「アッシャー、話は転覆ではなく脱線」
「あ、そうだった。ともかく、返答を聞きたい。さあ早く。時間がもったいない。ここ、時間制なのであろう?」
話しぶりだけでなく態度まで貧乏揺すりを交え、せかせかするアッシャー。結月は安藤と目配せを交わし、うなずき合った。
「じゃあ、お願いします。誰にも言わないと約束します」
「――安藤さんは?」
念を入れてくるアッシャー。安藤は「もちろん、口外しないと約束します」と答えた。この“口外”がまたアッシャーには伝わらなかったらしく、アレッサによる解説でしばし時間を取る。
「よろしい。二人とも約束してくれたので、信じた。話すとしよう。実は僕は、いや私は、シャンドリテの第三王子なのです」
改まった言い方が、妙にかわいらしく聞こえた。
だけど話した内容は、かわいいどころではない。
「第三、王子」
呟く結月。真ん中で区切ってみた。
「……二子玉」
謎のリアクションワードを発するのは安藤。
「えっと。失礼な物言いになったらすみません、先に謝っておきます」
二人は頭を実際にちょこんと下げた。そして結月が聞く。
「王子というのはプリンス、ですよね」
安藤は困惑を苦笑に変えて、まずは言った。アッシャーは言葉の通りに受け取ったらしく、「楽しんでもらえているのなら、嬉しい」と笑みを強める。
「我々は小説作りの参考に取材しているのであって、新聞や雑誌記者の取材じゃないんだし、聞いたことを伏せるのは別に何ら抵抗はないけど……あなた達の打ち明け話を聞いたおかげで危険な目に遭うとかは勘弁ですよ」
「危険? それはないと思うが。何故、そんな考えを持ちましたか?」
笑顔から一転、きょとんとするアッシャー。安藤は答えにくそうにし、結月も察しが付いたが口を挟もうか逡巡する。
「もしや、テロリズムを連想された?」
そこへアレッサが勘よく応じてくれた。図星だった安藤は気まずさを払拭する風に目線をそらし、頭を掻く。それからその頭を深々と下げた。
「はい、すみません。これまでのお二人を見ていて、まさかそんなことはあり得ないと分かったつもりなのに、急に秘密めかして話をされると……」
「面を起こしてください。正直なところを言うと、こちらの国にお邪魔をしたときから、そのような目で見られているなと感じたことは一度や二度では足りません。いちいち気にしてはいません」
そう語るアレッサは幾分不服そうではあったが、口調はさばさばしている。アッシャーも続く。
「自分も同じ感想だが、敢えて文句を言うとしたら一つある」
「何でしょう?」
結月と安藤の声が揃う。
「堂々と見てくれ。これに尽きる」
「堂々と見てくれ……?」
理解がすぐには及ばず、結月は小首を傾げた。安藤も似たような反応で、目を瞬かせている。
「異国人を見て珍しいのは分かる。興味を持つのや警戒するのも分かる。ただ、こっちを見るだけ見ておいて、我々から話し掛けようとすると視線を外し、ぷいっと逃げてしまうのは何故だ」
「ま、まあ、中にはそういう人もいるでしょう。外国語の苦手な――」
「中には、ではない。無関心な人達の方が絶対に多い。中には親切な人もいる、これが真実であろう」
「アッシャー、興奮しないで」
アレッサがたしなめ、飲み物を飲むようにと促した。アッシャーがそれに従う間、話し手はアレッサに交代した。
「言葉が通じないことを危惧して避けるというのは、理解できます。でも、日本は“おもてなし”の国という印象が強いので、避けられるのはショックでした」
「そこは確かに、強調されすぎている面があるかもしれない」
安藤が同意を示す。出版社勤めと合って、自社で出す雑誌などに思うところがあるのかも。
「お昼時、行列に並んでいるとき、恥ずかしながら気が立っていて、あのように威嚇する態度を取ってしまった。心底、お恥ずかしい」
アレッサが目の下辺りを赤らめる。浅黒い肌、カラオケボックス内の少なめの光量の下でも分かるほどに。
アッシャーが「気にする必要なし」とアレッサの肩を叩く。年齢やこれまでの言動から考えると、まるで立場が入れ替わったかのよう。
「……アッシャー。本当にお話になるつもりなんですか」
アレッサが聞く。
(あれ? 言葉遣いがやけに丁寧に……)
気付いた結月は興味がさらにわく一方で、ほんとに他言無用を約束して大丈夫なのか、聞いてもいいのかという懸念も増していた。
「二人が他言無用を約束してくれたなら、な。アレッサも任せると言ったじゃないか」
「それはお――アッシャーの判断力を試す意図が」
「またテストされていたとは。いい加減、勘弁してくれませんか、“先生”」
にやりと笑うアッシャーに、アレッサは二の句を告げなくなった様子で唇を固く結んだ。あるいは腹を据えた態度にも見える。
「さて、話が転覆したが、戻そうじゃないか」
「転覆?」
結月の頭の中をクエスチョンマークが占める。すかさずアレッサが言葉を差し挟んだ。
「アッシャー、話は転覆ではなく脱線」
「あ、そうだった。ともかく、返答を聞きたい。さあ早く。時間がもったいない。ここ、時間制なのであろう?」
話しぶりだけでなく態度まで貧乏揺すりを交え、せかせかするアッシャー。結月は安藤と目配せを交わし、うなずき合った。
「じゃあ、お願いします。誰にも言わないと約束します」
「――安藤さんは?」
念を入れてくるアッシャー。安藤は「もちろん、口外しないと約束します」と答えた。この“口外”がまたアッシャーには伝わらなかったらしく、アレッサによる解説でしばし時間を取る。
「よろしい。二人とも約束してくれたので、信じた。話すとしよう。実は僕は、いや私は、シャンドリテの第三王子なのです」
改まった言い方が、妙にかわいらしく聞こえた。
だけど話した内容は、かわいいどころではない。
「第三、王子」
呟く結月。真ん中で区切ってみた。
「……二子玉」
謎のリアクションワードを発するのは安藤。
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