砂漠の国の王子は何しにニッポンに?

崎田毅駿

文字の大きさ
12 / 19

ありそうでなさそうで

しおりを挟む
「そのノリ、嫌いじゃないけれど、疲れるね」
 安藤は困惑を苦笑に変えて、まずは言った。アッシャーは言葉の通りに受け取ったらしく、「楽しんでもらえているのなら、嬉しい」と笑みを強める。
「我々は小説作りの参考に取材しているのであって、新聞や雑誌記者の取材じゃないんだし、聞いたことを伏せるのは別に何ら抵抗はないけど……あなた達の打ち明け話を聞いたおかげで危険な目に遭うとかは勘弁ですよ」
「危険? それはないと思うが。何故、そんな考えを持ちましたか?」
 笑顔から一転、きょとんとするアッシャー。安藤は答えにくそうにし、結月も察しが付いたが口を挟もうか逡巡する。
「もしや、テロリズムを連想された?」
 そこへアレッサが勘よく応じてくれた。図星だった安藤は気まずさを払拭する風に目線をそらし、頭を掻く。それからその頭を深々と下げた。
「はい、すみません。これまでのお二人を見ていて、まさかそんなことはあり得ないと分かったつもりなのに、急に秘密めかして話をされると……」
「面を起こしてください。正直なところを言うと、こちらの国にお邪魔をしたときから、そのような目で見られているなと感じたことは一度や二度では足りません。いちいち気にしてはいません」
 そう語るアレッサは幾分不服そうではあったが、口調はさばさばしている。アッシャーも続く。
「自分も同じ感想だが、敢えて文句を言うとしたら一つある」
「何でしょう?」
 結月と安藤の声が揃う。
「堂々と見てくれ。これに尽きる」
「堂々と見てくれ……?」
 理解がすぐには及ばず、結月は小首を傾げた。安藤も似たような反応で、目を瞬かせている。
「異国人を見て珍しいのは分かる。興味を持つのや警戒するのも分かる。ただ、こっちを見るだけ見ておいて、我々から話し掛けようとすると視線を外し、ぷいっと逃げてしまうのは何故だ」
「ま、まあ、中にはそういう人もいるでしょう。外国語の苦手な――」
「中には、ではない。無関心な人達の方が絶対に多い。中には親切な人もいる、これが真実であろう」
「アッシャー、興奮しないで」
 アレッサがたしなめ、飲み物を飲むようにと促した。アッシャーがそれに従う間、話し手はアレッサに交代した。
「言葉が通じないことを危惧して避けるというのは、理解できます。でも、日本は“おもてなし”の国という印象が強いので、避けられるのはショックでした」
「そこは確かに、強調されすぎている面があるかもしれない」
 安藤が同意を示す。出版社勤めと合って、自社で出す雑誌などに思うところがあるのかも。
「お昼時、行列に並んでいるとき、恥ずかしながら気が立っていて、あのように威嚇する態度を取ってしまった。心底、お恥ずかしい」
 アレッサが目の下辺りを赤らめる。浅黒い肌、カラオケボックス内の少なめの光量の下でも分かるほどに。
 アッシャーが「気にする必要なし」とアレッサの肩を叩く。年齢やこれまでの言動から考えると、まるで立場が入れ替わったかのよう。
「……アッシャー。本当にお話になるつもりなんですか」
 アレッサが聞く。
(あれ? 言葉遣いがやけに丁寧に……)
 気付いた結月は興味がさらにわく一方で、ほんとに他言無用を約束して大丈夫なのか、聞いてもいいのかという懸念も増していた。
「二人が他言無用を約束してくれたなら、な。アレッサも任せると言ったじゃないか」
「それはお――アッシャーの判断力を試す意図が」
「またテストされていたとは。いい加減、勘弁してくれませんか、“先生”」
 にやりと笑うアッシャーに、アレッサは二の句を告げなくなった様子で唇を固く結んだ。あるいは腹を据えた態度にも見える。
「さて、話が転覆したが、戻そうじゃないか」
「転覆?」
 結月の頭の中をクエスチョンマークが占める。すかさずアレッサが言葉を差し挟んだ。
「アッシャー、話は転覆ではなく脱線」
「あ、そうだった。ともかく、返答を聞きたい。さあ早く。時間がもったいない。ここ、時間制なのであろう?」
 話しぶりだけでなく態度まで貧乏揺すりを交え、せかせかするアッシャー。結月は安藤と目配せを交わし、うなずき合った。
「じゃあ、お願いします。誰にも言わないと約束します」
「――安藤さんは?」
 念を入れてくるアッシャー。安藤は「もちろん、口外しないと約束します」と答えた。この“口外”がまたアッシャーには伝わらなかったらしく、アレッサによる解説でしばし時間を取る。
「よろしい。二人とも約束してくれたので、信じた。話すとしよう。実は僕は、いや私は、シャンドリテの第三王子なのです」
 改まった言い方が、妙にかわいらしく聞こえた。
 だけど話した内容は、かわいいどころではない。
「第三、王子」
 呟く結月。真ん中で区切ってみた。
「……二子玉にこたま
 謎のリアクションワードを発するのは安藤。
「えっと。失礼な物言いになったらすみません、先に謝っておきます」
 二人は頭を実際にちょこんと下げた。そして結月が聞く。
「王子というのはプリンス、ですよね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

馬小屋の令嬢

satomi
恋愛
産まれた時に髪の色が黒いということで、馬小屋での生活を強いられてきたハナコ。その10年後にも男の子が髪の色が黒かったので、馬小屋へ。その一年後にもまた男の子が一人馬小屋へ。やっとその一年後に待望の金髪の子が生まれる。女の子だけど、それでも公爵閣下は嬉しかった。彼女の名前はステラリンク。馬小屋の子は名前を適当につけた。長女はハナコ。長男はタロウ、次男はジロウ。 髪の色に翻弄される彼女たちとそれとは全く関係ない世間との違い。 ある日、パーティーに招待されます。そこで歯車が狂っていきます。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

婚約者の心が読めるようになりました

oro
恋愛
ある日、婚約者との義務的なティータイムに赴いた第1王子は異変に気づく。 目の前にいる婚約者の声とは別に、彼女の心の声?が聞こえるのだ。

◆平民出身令嬢、断罪で自由になります◆~ミッカン畑で待つ幼馴染のもとへ~

ささい
恋愛
「え、帰ってくんの?」 「え、帰れないの?」 前世の記憶が蘇ったニーナは気づいた。 ここは乙女ゲームの世界で、自分はピンク髪のヒロインなのだと。 男爵家に拾われ学園に通うことになったけれど、貴族社会は息苦しくて、 幼馴染のクローにも会えない。 乙女ゲームの世界を舞台に悪役令嬢が活躍して ヒロインをざまあする世界じゃない!? なら、いっそ追放されて自由になろう——。 追放上等!私が帰りたいのはミッカン畑です。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

処理中です...