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14.つながりはネットを通しても
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よかった、と思ったのはカイ君の母親とルイーザの二人。もちろん不知火も同じように感じていたけれども。
「え、もう決心が着いたの?」
早すぎるよとばかりに、びっくり眼になってい緑山。その様子には不知火も思わず笑ってしまった。何せ、緑山にはこのあとも段取りがあったし、そのことを不知火は事前に聞かされて知っていた。だからまさか一つ目のマジックで、カイ君が手術を受ける気になってくれるとは、予定外の展開だったのだ。
「まだもう一つ、用意してたんだけどな、マジック」
「え、そうなんですか」
「目的達したからいいか。また次の機会」
「えー、見たい! だった手術受けたくないって言うよ!
「これっ、千秋」
自己都合なことを言い出した息子を、母親がたしなめた。
「まあいいでしょう。特別にもう一つ、披露してあげるから、終わったらぐっすり休んで、手術に備えるんだよ」
「分かった――分かりました」
言い直すところが子供らしい。
「さて、二つ目はトランプを使うよ。と言っても実際にトランプを触るのは君達なんだ」
「僕達?」
カイ君が眉根を寄せた。
「不知火さん、用意してきたカードを渡してあげて」
「了解です」
紙製のケースに入った紙製のカード――青い柄と赤い柄のを一つずつ取り出すと、青をカイ君の前のテーブルに置き、赤をルイーザに手渡す。
「ああそうだ。カイ君の手は今、カードを触っても大丈夫かい? 難しかったらお母さんに手伝ってもらってほしいんだけど」
「問題ないよっ」
手のひらを画面に向け、グーパーグーパーしてみせるカイ君。実際、自由に動かせているように見える。
「おお、ほんとだ。でも念のため慎重に頼むよ。では二人ともこれから僕の言う通りにしてほしい」
カイ君だけでなく、ルイーザもしっかり首肯した。
「まずはカードを出さないと始まらない。ケースの蓋を開けて、カードを引っ張り出してください」
指示に応じ、小学生二人はカードの束を取り出した。
「ケースは邪魔だろうから、隅っこにどけて……あ、ルイーザさんは立ってるんだったねじゃ、不知火さんにあずかってもらって」
緑山の言葉を受けて不知火は二つのケースを順に回収し、手の内に収めた。
「最初にトランプの表を見て、全部異なるカードだってことを確認してください。並びもばらばらで規則性もないと」
「うん。ばらばらだ」
カイ君もルイーザも納得したように首を縦に振った。すぐさま、緑山が言葉をつなぐ。
「二人ともヒンズーシャッフルってできる?」
できるとの返事がすぐにあった。
「それじゃあ裏向きのまま、カードをシャッフルしてください。もう好きなように、何回も切っていいから」
好きなようにと言われて、ルイーザの方は少しびっくりしたようだけど、カイ君はかまわずにすぐにシャッフルし出した。彼のそんな様を目の当たりにし、ルイーザも切り始める。
好きなように何度でもと言われたって、本当に延々と切ることはまずない。マジシャンの手を離れたカードを観客は自分の自由意志で切ってるのだから、種も仕掛けもないことは分かっている。だからほどほどの回数でシャッフルは終わる。
「気が済んだ? それではカイ君の手前のテーブルに、二人ともカードの束を置いてください。もちろん裏向きで。二つを重ねちゃ駄目だよ」
言われた通り、カイ君が先に青い柄のカードをテーブルのやや左寄りに置き、続いてルイーザが赤いカードを空いているスペースに置いた。かいがいしくと言ったら変になるけれども、ルイーザは彼女自身のカードとカイ君のカードそれぞれのふちをきちっと揃えた。
「ではいよいとここからが僕の出番だ」
緑山が改まった口調で言った。画面の彼は腕をぶすポーズをしており、まるであたかもディスプレイを抜け出て、こちら側に表れてきそうだ。
「ここからおまじないを掛ける。そのためには依り代が必要なんだ」
「依り代って?」
カイ君が聞き返す。
「身代わりみたいな物だね。今いるのはカードの身代わり。分かり易い方がいいかな。不知火さん、悪いんだけどさっきのケース、それぞれのカードの山の上に置いてくれるかい?」
「これですか」
ご指名に不知火は固い調子で答え、自分の左右の手を見た。
「そう、それ。赤いカードには赤のケース、青いカードには青のケースを載せるんだ」
「分かりました。――ちょっと失礼をします」
マジシャンの言葉の通りにする不知火。マジックの手伝いなんて滅多にない経験だし、ましてや馴染みの間柄とはいえプロのマジシャンのサポートとなると初めてのこと。故に緊張が高まる。
「ありがとう。うん、ちょうどいい位置だ。これなら画面越しにでもおまじないを掛けやすい。――イヌォ、ユサミス、オキエサ、ゲーポ!」
突然おまじないらしきフレーズを発した緑山は俯きがちになって両手をかざし、あやしげかついかにもな仕種で手首から先をゆらゆらと揺らし、念の波を送るかのごとく前後させた。
呆気にとられるカイ君らを気にすることなく、顔を起こした緑山は口元でかすかに笑い、次の指示を出してきた。
「それではカイ君は青のケースを持ってください。ルイーザさんは赤のケースを。いい?」
「持ちました」
画面の比較的端の方に映るルイーザが、ケースを手に取ったことを声でも示した。
「それじゃあ二人はケースを交換して。それから受け取ったケースの中に、自分がシャッフルしたカード全部を入れるんだ」
カイ君は受け取ったばかりの赤いケースに青柄のトランプを仕舞い、ルイーザはちょうどその逆、青いケースに赤柄のトランプを仕舞った。
「蓋もきっちり閉めたね? 結構。今度はケースごとカードを交換する。受け取ったら静かに中のカードを取り出し、一番上のカードをめくって、それぞれ自分だけが何のカード書かずとマークを覚える。覚えたら、その一枚だけ表向きにして、カードの山のどこでもいいから戻すんだ。まあ、一番上に入れるといきなり見えちゃうから、真ん中の方に入れてほしい」
やや込み入った手順だったためか、カイ君もルイーザも一、二度聞き返したが、最終的にはちゃんとやり終えた。
「それでは二人ともカードを改めてケースから出して、裏向きのまま相手に渡してください」
「行ったり来たりで忙しい」
ルイーザが苦笑を浮かべた。一方のカイ君は彼女以上二マジックが好きなのか、真剣な面持ちのままカードを私、受け取った。
「二人とも受け取った? それじゃあトランプを調べて、一枚だけ表向きになっているカードを探して。見つけ出せたら、テーブルに表向きに置くこと。いいね?」
緑山マジシャンの口調からクライマックスを迎えていると察知したのだろう。カイ君は言うまでもなく、ルイーザもさっきの苦笑は引っ込めて、真剣そのものの表情でカードを探す。程なくして見付かったようだ。
と――。
「え、嘘っ」
つづく
「え、もう決心が着いたの?」
早すぎるよとばかりに、びっくり眼になってい緑山。その様子には不知火も思わず笑ってしまった。何せ、緑山にはこのあとも段取りがあったし、そのことを不知火は事前に聞かされて知っていた。だからまさか一つ目のマジックで、カイ君が手術を受ける気になってくれるとは、予定外の展開だったのだ。
「まだもう一つ、用意してたんだけどな、マジック」
「え、そうなんですか」
「目的達したからいいか。また次の機会」
「えー、見たい! だった手術受けたくないって言うよ!
「これっ、千秋」
自己都合なことを言い出した息子を、母親がたしなめた。
「まあいいでしょう。特別にもう一つ、披露してあげるから、終わったらぐっすり休んで、手術に備えるんだよ」
「分かった――分かりました」
言い直すところが子供らしい。
「さて、二つ目はトランプを使うよ。と言っても実際にトランプを触るのは君達なんだ」
「僕達?」
カイ君が眉根を寄せた。
「不知火さん、用意してきたカードを渡してあげて」
「了解です」
紙製のケースに入った紙製のカード――青い柄と赤い柄のを一つずつ取り出すと、青をカイ君の前のテーブルに置き、赤をルイーザに手渡す。
「ああそうだ。カイ君の手は今、カードを触っても大丈夫かい? 難しかったらお母さんに手伝ってもらってほしいんだけど」
「問題ないよっ」
手のひらを画面に向け、グーパーグーパーしてみせるカイ君。実際、自由に動かせているように見える。
「おお、ほんとだ。でも念のため慎重に頼むよ。では二人ともこれから僕の言う通りにしてほしい」
カイ君だけでなく、ルイーザもしっかり首肯した。
「まずはカードを出さないと始まらない。ケースの蓋を開けて、カードを引っ張り出してください」
指示に応じ、小学生二人はカードの束を取り出した。
「ケースは邪魔だろうから、隅っこにどけて……あ、ルイーザさんは立ってるんだったねじゃ、不知火さんにあずかってもらって」
緑山の言葉を受けて不知火は二つのケースを順に回収し、手の内に収めた。
「最初にトランプの表を見て、全部異なるカードだってことを確認してください。並びもばらばらで規則性もないと」
「うん。ばらばらだ」
カイ君もルイーザも納得したように首を縦に振った。すぐさま、緑山が言葉をつなぐ。
「二人ともヒンズーシャッフルってできる?」
できるとの返事がすぐにあった。
「それじゃあ裏向きのまま、カードをシャッフルしてください。もう好きなように、何回も切っていいから」
好きなようにと言われて、ルイーザの方は少しびっくりしたようだけど、カイ君はかまわずにすぐにシャッフルし出した。彼のそんな様を目の当たりにし、ルイーザも切り始める。
好きなように何度でもと言われたって、本当に延々と切ることはまずない。マジシャンの手を離れたカードを観客は自分の自由意志で切ってるのだから、種も仕掛けもないことは分かっている。だからほどほどの回数でシャッフルは終わる。
「気が済んだ? それではカイ君の手前のテーブルに、二人ともカードの束を置いてください。もちろん裏向きで。二つを重ねちゃ駄目だよ」
言われた通り、カイ君が先に青い柄のカードをテーブルのやや左寄りに置き、続いてルイーザが赤いカードを空いているスペースに置いた。かいがいしくと言ったら変になるけれども、ルイーザは彼女自身のカードとカイ君のカードそれぞれのふちをきちっと揃えた。
「ではいよいとここからが僕の出番だ」
緑山が改まった口調で言った。画面の彼は腕をぶすポーズをしており、まるであたかもディスプレイを抜け出て、こちら側に表れてきそうだ。
「ここからおまじないを掛ける。そのためには依り代が必要なんだ」
「依り代って?」
カイ君が聞き返す。
「身代わりみたいな物だね。今いるのはカードの身代わり。分かり易い方がいいかな。不知火さん、悪いんだけどさっきのケース、それぞれのカードの山の上に置いてくれるかい?」
「これですか」
ご指名に不知火は固い調子で答え、自分の左右の手を見た。
「そう、それ。赤いカードには赤のケース、青いカードには青のケースを載せるんだ」
「分かりました。――ちょっと失礼をします」
マジシャンの言葉の通りにする不知火。マジックの手伝いなんて滅多にない経験だし、ましてや馴染みの間柄とはいえプロのマジシャンのサポートとなると初めてのこと。故に緊張が高まる。
「ありがとう。うん、ちょうどいい位置だ。これなら画面越しにでもおまじないを掛けやすい。――イヌォ、ユサミス、オキエサ、ゲーポ!」
突然おまじないらしきフレーズを発した緑山は俯きがちになって両手をかざし、あやしげかついかにもな仕種で手首から先をゆらゆらと揺らし、念の波を送るかのごとく前後させた。
呆気にとられるカイ君らを気にすることなく、顔を起こした緑山は口元でかすかに笑い、次の指示を出してきた。
「それではカイ君は青のケースを持ってください。ルイーザさんは赤のケースを。いい?」
「持ちました」
画面の比較的端の方に映るルイーザが、ケースを手に取ったことを声でも示した。
「それじゃあ二人はケースを交換して。それから受け取ったケースの中に、自分がシャッフルしたカード全部を入れるんだ」
カイ君は受け取ったばかりの赤いケースに青柄のトランプを仕舞い、ルイーザはちょうどその逆、青いケースに赤柄のトランプを仕舞った。
「蓋もきっちり閉めたね? 結構。今度はケースごとカードを交換する。受け取ったら静かに中のカードを取り出し、一番上のカードをめくって、それぞれ自分だけが何のカード書かずとマークを覚える。覚えたら、その一枚だけ表向きにして、カードの山のどこでもいいから戻すんだ。まあ、一番上に入れるといきなり見えちゃうから、真ん中の方に入れてほしい」
やや込み入った手順だったためか、カイ君もルイーザも一、二度聞き返したが、最終的にはちゃんとやり終えた。
「それでは二人ともカードを改めてケースから出して、裏向きのまま相手に渡してください」
「行ったり来たりで忙しい」
ルイーザが苦笑を浮かべた。一方のカイ君は彼女以上二マジックが好きなのか、真剣な面持ちのままカードを私、受け取った。
「二人とも受け取った? それじゃあトランプを調べて、一枚だけ表向きになっているカードを探して。見つけ出せたら、テーブルに表向きに置くこと。いいね?」
緑山マジシャンの口調からクライマックスを迎えていると察知したのだろう。カイ君は言うまでもなく、ルイーザもさっきの苦笑は引っ込めて、真剣そのものの表情でカードを探す。程なくして見付かったようだ。
と――。
「え、嘘っ」
つづく
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