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その7
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「私の近未来予想図では、二つとも解けずにギブアップ、よって私の出番はなしということになってたんだけれど」
衣笠とは対照的にロングヘアの彼女は気怠い調子で云い、座ったまま伸びをした。それから勢いを付けて立ち上がると、「無双美咲よ。よろしく」と名乗り、挨拶した。カールした毛先をいじりながら、前に出る。無双もまた小学六年生で、マジックを習い始めて約二年半とのこと。
「私は二つ、弱点を見つけたつもりなのよね。さっき妙子が云ってた分は、法月君に任せるとして、もう一つを私が試してみることにしようかな」
自信満々の発言。演目を決めて来ず、それでいてこの態度を取れるのは、抽斗を多く持ち、緩急自在に演じられる実力の証か。
「私はこれを使うわ」
Tシャツにジーンズというマジシャンらしくない出で立ちの彼女は、尻ポケットからトランプのケースを取り出した。赤色をしたケースの蓋を開け、中身を抜く。ケースを置くと、七尾に向かって手招きをした。
「目の前で見て欲しいのだけれど」
「分かった」
七尾は椅子を持って前へ移動した。横路も同じようにする。
「味も素気もない演じ方をするけれど、それは飽くまでこのタイプの種を見破ることができるかどうかを試すためよ」
「じゃあ、何をやるのかを初めに教えてくれない?」
「いいわよ。カード当てと予言。さ、まず、カードが全部ばらばらで、順番もばらばらということを確かめて」
カード一組を丸ごと渡された七尾は、素直に調べた。
「確かにばらばら。順番も、数字が三ずつ大きくなってるなんてことはないみたい」
「……じゃ、カードを返して」
七尾は無双の手のひらにカードを載せた。
無双はそれを一旦まとめ、揃えると、裏向きのまま扇形に開いた。
「好きなカードを一枚、選んでいいわよ」
「……数字とマークを下から覗いてもいい?」
七尾の質問に、無双は一瞬だけ怪訝な顔つきをしたが、じきに元の平静さを取り戻すと、「ご自由に」と応じた。
「それなら見なくていいわ。許可するってことは、関係ないってことよね」
「早くして」
「はいはーい」
巫山戯気味に明るい口調の七尾は、端から二、三枚目ぐらいのカードを選び取った。こんな端っこを選ぶ辺り、この子のひねくれた性格を表しているかのようだ。
「私に分からないよう、カードを見て、数字とマークを覚えて。それと他の人にも見て貰って」
七尾は両手で覆うようにしてカードを顔の前に持って来た。横路にも見える。スペードの7。
そのあと、七尾はご丁寧にも、ケシンや法月達にもカードを見せた。
「見せ終わったら、カードを戻して」
「僕が好きなところ、どこでもいいのね?」
ゆっくりと首を縦に振る無双。その手元にあるカードへ、七尾はスペードの7を差し込んだ。さっきとはちょうど反対の端っこに。
「何だか面倒になってきちゃったな」
突然、とんでもないことを云い出す無双。横路は思わず、ケシンの顔色を横目で窺った。だが、無双の師匠は腕組みをして涼しい表情を保っている。
「楽しませるためのマジックなら気合い入るんだけど、テストするためのマジックなんて、かったるくて。えーっと。七尾さん。あなたが選んだカードの数は、偶然にも名字に合わせて七よね」
「当たってる」
「で、マークはスペード」
「当たってるよ」
噛みしめるように言葉を吐く七尾。目つきが急に険しくなる。種が分からず悩んでいるのは、傍目にも明らかである。
皮肉にも、これに限って横路には種の予想がついた。恐らく、裏から見ただけで表の数字とマークが分かる特殊なカードなのだ。裏の模様に微妙な違いで区別する。横路ですら知っているのだから、古典的な仕掛けに分類されよう。
細工を施した特殊な手品道具を使われるのは苦手と、七尾自身が認めていた。図らずもそれを実証した形である。
「……他のカード、たとえば僕のカードでも全く同じことができる?」
七尾はそう云って、自宅から持って来たトランプを持ち出した。やや遅れたものの、カード自体に仕掛けがあると気付いたらしい。
無双はまともには返答せず、
「それ、プラスティック製? ちょっと貸して」
と、手を伸ばした。七尾が渡すと、早速ケースを開けてカードを捌く。手に、指に馴染むかどうか試している様子だ。
「これなら何とかなるかな。やってみましょう。ただし、法月君の出番がなくなるかもね」
無双は七尾を通り越し、しんがりに控える男児に視線を送る。受けた法月は何も応えず、前髪をいじった。
「突然だから、うまく行ったら御慰み」
今度は手品師らしい口上を多少は交えつつ、トランプをシャッフルし、ばらばらであることを示す。そして伏せたトランプを扇形に開きながら、ゆっくりと七尾の方へ両手を差し出す。
「好きなカードを指差してみて。あなたが自由に思ったとこ」
「……」
黙って真ん中辺りの一枚を指差す七尾。
「それでいいわね?」
「いい」
「じゃ、あなたがそれを見る前に、私、予言をしておくわ」
さっきよりはやる気が出たのだろうか、マジックの演出らしき振る舞いをする無双。ケシンから書く物を借り受けると、何事かをさらさらと記した。“予言”を書き付けた紙片を教卓に起き、その上にトランプ一組をケース毎載せた。重し代わりということか。
「そのカードと予言、どちらから見てもいいんだけれど、どっちを選ぶ?」
「……同時に」
七尾の上目遣いに、無双は含み笑いをして「かまわないわよ」と答えると、置いたばかりの重しを退けて、予言の紙を指で押さえるように云った。七尾の左手に引いたカード、右手指先に予言の紙がある。
「さ、開けて」
云われるがまま、カードと紙を同時に表向きにする。次の刹那、七尾は明らかに息を飲んでいた。
カードはハートの4。予言の紙に記されていたのも“ハートの4”。
衣笠とは対照的にロングヘアの彼女は気怠い調子で云い、座ったまま伸びをした。それから勢いを付けて立ち上がると、「無双美咲よ。よろしく」と名乗り、挨拶した。カールした毛先をいじりながら、前に出る。無双もまた小学六年生で、マジックを習い始めて約二年半とのこと。
「私は二つ、弱点を見つけたつもりなのよね。さっき妙子が云ってた分は、法月君に任せるとして、もう一つを私が試してみることにしようかな」
自信満々の発言。演目を決めて来ず、それでいてこの態度を取れるのは、抽斗を多く持ち、緩急自在に演じられる実力の証か。
「私はこれを使うわ」
Tシャツにジーンズというマジシャンらしくない出で立ちの彼女は、尻ポケットからトランプのケースを取り出した。赤色をしたケースの蓋を開け、中身を抜く。ケースを置くと、七尾に向かって手招きをした。
「目の前で見て欲しいのだけれど」
「分かった」
七尾は椅子を持って前へ移動した。横路も同じようにする。
「味も素気もない演じ方をするけれど、それは飽くまでこのタイプの種を見破ることができるかどうかを試すためよ」
「じゃあ、何をやるのかを初めに教えてくれない?」
「いいわよ。カード当てと予言。さ、まず、カードが全部ばらばらで、順番もばらばらということを確かめて」
カード一組を丸ごと渡された七尾は、素直に調べた。
「確かにばらばら。順番も、数字が三ずつ大きくなってるなんてことはないみたい」
「……じゃ、カードを返して」
七尾は無双の手のひらにカードを載せた。
無双はそれを一旦まとめ、揃えると、裏向きのまま扇形に開いた。
「好きなカードを一枚、選んでいいわよ」
「……数字とマークを下から覗いてもいい?」
七尾の質問に、無双は一瞬だけ怪訝な顔つきをしたが、じきに元の平静さを取り戻すと、「ご自由に」と応じた。
「それなら見なくていいわ。許可するってことは、関係ないってことよね」
「早くして」
「はいはーい」
巫山戯気味に明るい口調の七尾は、端から二、三枚目ぐらいのカードを選び取った。こんな端っこを選ぶ辺り、この子のひねくれた性格を表しているかのようだ。
「私に分からないよう、カードを見て、数字とマークを覚えて。それと他の人にも見て貰って」
七尾は両手で覆うようにしてカードを顔の前に持って来た。横路にも見える。スペードの7。
そのあと、七尾はご丁寧にも、ケシンや法月達にもカードを見せた。
「見せ終わったら、カードを戻して」
「僕が好きなところ、どこでもいいのね?」
ゆっくりと首を縦に振る無双。その手元にあるカードへ、七尾はスペードの7を差し込んだ。さっきとはちょうど反対の端っこに。
「何だか面倒になってきちゃったな」
突然、とんでもないことを云い出す無双。横路は思わず、ケシンの顔色を横目で窺った。だが、無双の師匠は腕組みをして涼しい表情を保っている。
「楽しませるためのマジックなら気合い入るんだけど、テストするためのマジックなんて、かったるくて。えーっと。七尾さん。あなたが選んだカードの数は、偶然にも名字に合わせて七よね」
「当たってる」
「で、マークはスペード」
「当たってるよ」
噛みしめるように言葉を吐く七尾。目つきが急に険しくなる。種が分からず悩んでいるのは、傍目にも明らかである。
皮肉にも、これに限って横路には種の予想がついた。恐らく、裏から見ただけで表の数字とマークが分かる特殊なカードなのだ。裏の模様に微妙な違いで区別する。横路ですら知っているのだから、古典的な仕掛けに分類されよう。
細工を施した特殊な手品道具を使われるのは苦手と、七尾自身が認めていた。図らずもそれを実証した形である。
「……他のカード、たとえば僕のカードでも全く同じことができる?」
七尾はそう云って、自宅から持って来たトランプを持ち出した。やや遅れたものの、カード自体に仕掛けがあると気付いたらしい。
無双はまともには返答せず、
「それ、プラスティック製? ちょっと貸して」
と、手を伸ばした。七尾が渡すと、早速ケースを開けてカードを捌く。手に、指に馴染むかどうか試している様子だ。
「これなら何とかなるかな。やってみましょう。ただし、法月君の出番がなくなるかもね」
無双は七尾を通り越し、しんがりに控える男児に視線を送る。受けた法月は何も応えず、前髪をいじった。
「突然だから、うまく行ったら御慰み」
今度は手品師らしい口上を多少は交えつつ、トランプをシャッフルし、ばらばらであることを示す。そして伏せたトランプを扇形に開きながら、ゆっくりと七尾の方へ両手を差し出す。
「好きなカードを指差してみて。あなたが自由に思ったとこ」
「……」
黙って真ん中辺りの一枚を指差す七尾。
「それでいいわね?」
「いい」
「じゃ、あなたがそれを見る前に、私、予言をしておくわ」
さっきよりはやる気が出たのだろうか、マジックの演出らしき振る舞いをする無双。ケシンから書く物を借り受けると、何事かをさらさらと記した。“予言”を書き付けた紙片を教卓に起き、その上にトランプ一組をケース毎載せた。重し代わりということか。
「そのカードと予言、どちらから見てもいいんだけれど、どっちを選ぶ?」
「……同時に」
七尾の上目遣いに、無双は含み笑いをして「かまわないわよ」と答えると、置いたばかりの重しを退けて、予言の紙を指で押さえるように云った。七尾の左手に引いたカード、右手指先に予言の紙がある。
「さ、開けて」
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